「輪島は忘れられているのかな」能登半島地震から半年 困難が続く旅館関係者から漏れる本音

能登半島地震では観光業も大きなダメージを受けています。

「水が使えない」「ようやく公費解体の道筋がついた」

地震から半年がたっても石川県輪島市では、まだまだ復旧にはほど遠い旅館の現状があります。

ねぶた温泉海游能登の庄・大向洋紀社長「(地震)前の地面がここです。こっちが下がったんでしょうね」

輪島市大野町にある「ねぶた温泉海游能登の庄」

広大な日本海を臨む高台にそびえ立つ旅館は、元日の地震で周辺の地盤が1メートル近く沈み、建物が傾いています。

輪島市は、復旧が困難な一部地域を除き断水が解消したとしていますが、宿ではいまだに水を使うことができません。

ねぶた温泉海游能登の庄・大向洋紀社長「そこまでは(水道のパイプが)あったんですから、1メートルほど落ちているでしょう」

館内に生じた段差で、トイレや客室などほぼすべての水道管が引き裂かれ、修理をするにも、床下のコンクリートや土を一から掘り起こす必要があるといいます。

大向洋紀社長「旅館の方は2年はかかるんじゃないかなと。まだ全然どうやって直すか方針が決まらないものですから…」

自宅に住めなくなったことで退職する人も相次ぎ、およそ40人いた従業員はわずか4分の1ほどに。大向社長は、従業員の雇用をいかに支え続けていくのか、思い悩んでいます。

ねぶた温泉海游能登の庄・大向洋紀社長「雇用調整金とか失業保険の休業手当で今はしのいでもらってる。(従業員は)2次避難に行ってしまって…金沢や加賀へ。若い人はそこで就職してしまった」

ねぶた温泉海游能登の庄の従業員、中津円さんはこれまで客室のベッドメイキングや清掃、宿泊客の送迎などを担当していました。

中津円さん「街中全部がこういう状態で…この先どうなるんだろうか?と不安にはなりましたよね」

中津さんは5月から、復旧にあたる作業員が寝泊まりするため県が能登空港に整備した仮設宿泊所で、週に3日スタッフとして働き始めました。

中津円さん「輪島の復旧・復興に少しでも手助けしてもらえれば、私らとしてもここに勤めるやり甲斐というか頑張ろうって気持ちになる」

しかし、宿泊所での収入では生活費をまかないきれず、中津さんにとっては旅館から支払われる休業手当が頼りですが、その期限も8月末に迫っています。

ねぶた温泉海游能登の庄・大向洋紀社長「雇用調整金や休業補償の延長を、業界としてお願いしている。まだ回答がない」

輪島市内に44ある旅館や民宿のうち、少なくとも5軒は建物が全壊するなどして廃業。支援者を受け入れるため、早期の営業再開にこぎつけた宿もある一方で、20軒の施設は今も再開の見通しが立っていません。

再建に向けて、建物の解体を決断した旅館もあります。

輪島温泉八汐・谷口浩之常務「ようやくようやくスタートラインが、遠くの方に見えそうなところまで来たなっていう実感」

1959年創業の「輪島温泉八汐」は地震で館内の天井がはがれ落ちるなどの被害に見舞われましたが、罹災証明のための一次調査では、公費解体の対象とならない「一部損壊」と認定されました。

納得がいかなかった谷口さんは、市に再調査を依頼。

4か月待ち続けた末、6月ようやく行われた再調査で判定が「中規模半壊」に引き上げられました。

輪島温泉八汐・谷口浩之常務「公費解体ができるので、ようやく再建への一歩を進むことができそうかなって感じで」

ただ、地震で旅館の裏山が崩れ、安全が確認されないことには、この場所での再建は難しいといいます。

輪島温泉八汐・谷口浩之常務「できたらこの場所でとは思っているが、安心して客がゆっくり過ごせる場所なのかという所を見極めてからやらないと…」

また、谷口さんは市内中心部でビジネスホテルの経営にも携わっています。ホテルは全壊となり、4月から公費解体の工事を待っている状況です。

能登の経済を支えてきた観光業ですが、輪島の旅館への関心は集まっていないと谷口さんは感じ歯がゆさを覚えるといいます。

輪島温泉八汐・谷口浩之常務「和倉温泉の復興が能登の観光の一丁目一番地みたいな形になったら『忘れられてるのかな』と。気持ちが落ち込む、弱気になることも多々ある。手厚くゆっくり、優しく手を差し伸べて頂ければ」

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