殺さない殺し屋漫画『ザ・ファブル』がアニメ化!作品の魅力を紹介

問題を起こさず普通に暮らす、プロとして――。『ザ・ファブル』は最強の殺し屋と恐れられる青年が、ボスの命令で一般人になりすまし、1年間普通の生活を送ろうとするアクションコメディ漫画です。

岡田准一の主演で実写化もされた本作が、2024年に原作に忠実な形でアニメ化されました。この記事ではそんな『ザ・ファブル』について、ストーリーや魅力、おすすめエピソードをご紹介していきます。

3行でわかる記事の内容

  • 最強無敵の殺し屋が殺人を禁止されて一般社会で暮らす話
  • 殺し屋のテクニックを使って「普通」に立ち回るのが面白い
  • 独特なセリフ回しが癖になる読者続出

漫画『ザ・ファブル』概要紹介

『ザ・ファブル』は2014年から「週刊ヤングマガジン」で断続的に連載されている日本の青年漫画です。作者は南勝久。現在までに第1部『ザ・ファブル』全22巻、第2部『ザ・ファブル The second contact』全9巻が発表されています。

本作の主人公は「ファブル」とも呼ばれる伝説的な殺し屋。一般人に紛れて大阪で普通に暮らすつもりが、いつの間にか裏社会のあれこれに関わってしまうアクションコメディです。

シリーズ累計で2400万部を突破しており、2017年には講談社漫画賞一般部門受賞するなど非常に人気の高い作品となっています。

本作は2019年と2021年に岡田准一主演の同名実写映画が制作され、そちらも一定の人気を誇っていますが、2024年には原作漫画そのままのビジュアルのアニメ化が実現しました。この記事では直近のメディアミックスであるアニメ版に触れつつ、原作漫画の魅力をご紹介していきます。

漫画『ザ・ファブル』は最強の殺し屋が大阪で生活する話【あらすじ】

誰も正体を知らない謎に満ちた凄腕の殺し屋。彼は裏社会の人間でさえ実在を疑うことから、いるかどうかあやしいおとぎ話みたいな殺し屋――通称「ファブル(寓話)」と呼ばれていました。

どんな困難な仕事もこなしてきた彼に、「組織」のボスは「佐藤明(以下、アキラ)」という偽名と次の指令を与えます。それは一般人として大阪で1年間平和に暮らすこと。

アキラは仕事上のパートナー「洋子(以下、ヨウコ)」と兄妹ということにされ、2人して「組織」と関連するヤクザのツテで普通の生活を始めるのでした。

何事もない平穏な毎日……のはずでしたが、2人は彼らを取り巻く複雑な状況から、さまざまなトラブルに巻き込まれてしまいます。

漫画『ザ・ファブル』登場人物紹介

『ザ・ファブル』第1部は大まかに「小島編」、「宇津帆編」、「山岡編」の3つに分けられます。ここでは全編通して活躍する主要人物をご紹介しましょう。

まずはアキラとヨウコの佐藤兄妹(偽の戸籍)。主人公はアキラですが、ヨウコの視点で話が進む場合もあります。

アキラとヨウコは名称不明の「組織」――通称「ファブル」に所属する殺し屋とそのサポート役です。「ファブル」とは本来「組織」を意味する名称でしたが、ほとんど都市伝説となったアキラの噂から、彼個人を指す時にも使われるようになりました。

アキラはサヴァン症候群であることが示唆される殺しの天才ですが、一般常識が欠落しており感情表現が希薄です。変顔で額を叩くことで自分の中のスイッチを切り替える、という儀式めいた癖があります。大阪での生活は彼なりに楽しんでいる様子。3流芸人ジャッカル富岡の大ファンです。

ヨウコは茶髪と泣きぼくろがチャームポイントの美女。驚異的な瞬間記憶能力の持ち主で、もっぱら後方支援とアキラのツッコミを担当します。アキラより常識はあるものの、暇潰しとしてナンパ男を酔わせてからかうなど、酒癖が非常に悪いです。

本作のヒロインと言えるのが清水岬(以下、ミサキ)です。人当たりの良い美人でありながら、父の借金返済に奔走する苦労人。作中では過去の経歴につけ込まれ、厄介ごとに巻き込まれてしまいます。

そしてアキラたちの大阪生活の後ろ盾であり、同時にトラブルの原因にもなるのが真黒組の面々。特に若頭の海老原剛士と彼の舎弟、中堅組員の黒塩遼(以下、クロ)は準レギュラーと言って良いでしょう。

海老原はアキラの素性を知る数少ない人物。当初こそアキラたちを厄介者扱いしますが、のちに和解して色々と便宜を図ってくれます。義理人情に厚い一方、非情さを兼ね備えた任侠者。

クロはアキラの正体と腕に惚れ込み、弟子入りを願う変なヤクザです。序盤の行動はちょっと鬱陶しく感じますが、どこか憎めません。

もう1人、海老原の舎弟で高橋勝也という新人組員も出てきます。立場上ちょっと嫌な役回りで登場しますが、ヨウコから酒の席でおもちゃにされるなどコミカルなキャラ。

漫画『ザ・ファブル』の魅力はギャップ!特徴的なセリフで全部『ザ・ファブル』みたいになる

『ザ・ファブル』の面白さは、血で血を洗う裏社会の住人がいきなり平穏な一般社会で、ごくごく普通に暮らし始めるシュールさにあります。

それも舞台は日本でもっとも日常生活にお笑いが密着した大阪。殺し屋の職業意識の延長で、本人としては「真面目に」普通の生活をしようとするのですから、意識と現実のギャップが凄くて笑えるんです。

アクション描写もかなり力が入っており、アキラは普段ぼけーっとしているのに、瞬間的な判断でとんでもない動作をするのが圧巻!本気を出した時の強さは、普段との差でより鮮明に印象に残ります。

またギャップを生む、「――」を多用した独特なセリフ回しも『ザ・ファブル』の魅力。例えばアキラの口癖「プロとして――」。単独だとそこまでおかしなセリフではないのですが、アキラがプロの殺し屋なのを踏まえた上で、チンピラにビビる一般人のフリや初仕事を探す無職状態で「プロとして――」と言い放つシーンを見ると思わず笑ってしまいます。

ちなみに「――」は全角ダッシュ(またはEmダッシュ)と呼び、小説でよくある表現で「……」などの沈黙とは少しニュアンスの違う「間」を意味する表現です。インターネット上では罫線(──)で代用して、『ザ・ファブル』っぽく何かを言うのがある種のネットミームにもなっています。

漫画『ザ・ファブル』おすすめエピソード:チンピラ対応【第1巻6~8話ネタバレ注意】

「組織」ボスの紹介で大阪太平市の真黒組に身を寄せた佐藤兄妹。組所有の家屋に落ち着いた2人は、近所の探索を兼ねて飲みに出かけます。アキラの殺し屋ならではの感性にヨウコは少し戸惑うものの、特に問題もなくバーで気持ちよく飲んでいたのですが……。

酔った2人に曰くありげなチンピラたちが絡んできました。彼らを差し向けたのは真黒組の組員・高橋で、海老原の監視命令を曲解し、佐藤兄妹を排除するためにチンピラを用意したのです。

このエピソードの見所はアキラの大立ち回り――ではなく、一般人らしく情けなくやられるフリです。しかし、ただやられるだけで済まさないのがプロ。アキラはチンピラの1人に派手に殴られたように見せつつ、大振りのパンチやキックを額や肘などの硬い骨で受けてダメージを無効化、逆にチンピラの手足に骨折や打撲傷を与えます。

そして格闘技経験者のチンピラには、大技に対して受け流しの要領で吹っ飛んで見せたり、ジャブをあえて受け手鼻血を出して見せたりと徹底的に「弱者」を演じて乗り切りました。

はた目には一方的にボコられて涙と鼻血を流す情けない姿ですが、実際にはほぼノーダーメージ。余裕でチンピラを圧倒し、大事にせず対処する姿にプロらしさを感じます。

漫画『ザ・ファブル』おすすめエピソード:密かな人助け【第3巻27話ネタバレ注意】

海老原にすすめられ、普通の生活をするために仕事探しを始めたアキラ。と言っても世間体的に働いてるように見えればいいだけなので、特にアテもなく近場で適当に探したところ、紆余曲折を経てミサキの勤めるデザイン会社「オクトパス」に雇ってもらえることに。

そうして晴れて普通の生活へ1歩近づけたのですが、ミサキの提案で開かれたオクトパス歓迎会の場で、アキラの奇行とファインプレイが炸裂します。

働きたいと言いつつ、賃金には頓着しないアキラ。少し変に思ったオクトパス社長の田高田が生い立ちを聞くと、幼少期のアキラの壮絶なサバイバル体験が明かされます。その前後で描かれる枝豆を皮ごと食べたり、骨付きチキンを丸ごと食べたりと、普通とかけ離れたアキラの奇行が非情にシュール。

その一方で、異常に素早く気付く勘の鋭さに驚かされます。ミサキの対面に座った同僚・貝沼の妙な動きから盗撮を察知すると、アキラはテーブルの下で豆を弾いて、誰にも気取られることなくカメラの向きを変えてしまうのです。

アキラはこれまで何人も手にかけてきた殺し屋で、一般常識が欠落しています。しかしそれはそれとして、こっそりか弱い女性を助けるヒーロー的な一面を垣間見られるエピソードです。

漫画『ザ・ファブル』おすすめエピソード:男と女の騙し合い【第8巻82~85話ネタバレ注意】

『ザ・ファブル』で忘れてはいけないのが、ヨウコが酒の席で男を手玉に取るエピソード。特に人気があって面白いのが、通称ペ・ダイヨチャのお話です。

紳士淑女の狩り場……もとい社交場、バー「バッファロー」。今日こそヨウコをモノにしたい女たらしの河合ユウキと、今日もおもちゃで遊びたい魔性の女ヨウコによる、表向きは和やかなナンパの下で繰り広げられる熾烈な戦いが始まります。

立ち回りが上手いヨウコとバーマスターのフェア精神で、ややユウキ不利な状態でのスタート。ユウキは隙を装ったヨウコのアピールに引っかかり、テキーラ連打の大攻勢に遭ってしまいます。20杯に達するころにはもうユウキはフラフラになり、便器へ向かって情けなく嘔吐する醜態を晒すのでした。

しかし健気にも彼は、ヨウコを心配させないようにおそらく「ペッだいじょうぶヨウコちゃん」のつもりで、「ペッだい……ヨ……ちゃ……」と途切れ途切れに言って吐き続けます。

こうして面白がったヨウコの中で、韓国系俳優になぞらえて「ペ・ダイヨチャ」とのあだ名が付けられたユウキは撃沈。しまいには倒れて流血沙汰になり、「タクシー!」と言いながら大喜びするヨウコと「いや! 救急車やッ!」と冷静にツッコむマスターの対比が面白すぎました。

なお本作ではタクシーと救急車のかけ合いはある種のお約束になっていて、他のエピソードでも登場します。

漫画『ザ・ファブル』続編は?第3部が待たれる

漫画『ザ・ファブル』は2019年11月に第1部(全22巻)が完結しました。その後充電期間を経て2021年に第2部「The second contact」がスタートし、こちらも2023年7月に完結(全9巻)しています。

「The second contact」は第1部と繋がった続編で、数年後の設定。時代と環境がほぼ完全に現実に合わせてあり、コロナ禍の最中(やや終息)の太平市が描かれます。

前作ラストで旅に出た佐藤兄妹の帰還が判明するところから始まって、アキラとミサキの結婚や一時期敵対していたファブルの別の殺し屋たちが仲良くオクトパスに勤めていたりと、読者に新鮮な驚きをもたらしました。

さらにビックリするのは、現在のアキラの職業が「レンタルおっちゃん」ということ。実態は何でも屋に近いですが、1時間1000円で変な依頼をこなすアキラの様子は、第1部の普通の暮らし以上にシュールです。

第1部の連載は5年間でしたが、第2部は2年間と少なめ。ただ、予定では全6巻だったのが全9巻になったと作者が語っているので、実はこれでも伸びた方だったりします。詳細は省きますが第2部はあまりにも綺麗に、しかもあっさりした幕引きで終わったため、完結に気付かない読者が少なからず出ました。

さらなる続編の第3部(最終章)はすでに告知されているものの、開始時期は今のところ未定です。第1部から第2部まで1年8ヶ月(本来の予定では1年ほどでした)開いているため、順当に行けば第3部は2025年中ということになるでしょう。

またはアニメ『ザ・ファブル』が連続2クールで10月まで放送される予定なので、入れ替わる形で原作漫画が再開する可能性はあります。

第3部が待ちきれない方は第1~2部を読み返したり、アニメ版の視聴したりしてはいかがでしょうか。意外と知られていないかもいれませんが、Web漫画サイトおよび漫画アプリ「コミックDays」で連載されたいた『ざ・ふぁぶる』という公式スピンオフ漫画があるので、もし未読ならそちらを楽しむのもおすすめです。

アニメ『ザ・ファブル』では原作そのままの映像化に注目!

アニメ『ザ・ファブル』は2024年4月から日本テレビ系で放送中。

岡田准一主演の実写映画『ザ・ファブル』はコメディ寄りアクション重視な改変がされていましたが、アニメ版はかなり原作に忠実な内容となっています。作画の都合上、簡素に感じる部分はあるものの、絵柄は原作そのまま。

各媒体それぞれに味があるので一概に言えませんが、アニメ版は「――」を多用したセリフも声優の演技力で完全再現されており、元々ファンな人ほど楽しめるでしょう。

銃器関連、アクションの描写はなかなかマニアックで気合いが入っています。なんとアニメの監督はリアルロボットの金字塔『装甲騎兵ボトムズ』の高橋良輔なので、アニメ『ザ・ファブル』のリアルな部分は高橋良輔監督のこだわりポイントなのかも知れません。

アニメ『ザ・ファブル』は2クールの放送が予定されており、各話の原作消化ペースから考えると、おそらく映像化の範囲はキリよく終われる「小島編」+αになると思われます。具体的には原作第8巻の86話です。

これはちょうどペ・ダイヨチャのエピソードに当たるのですが、わざわざ公式が河合ユウキの本名ではなく、ペ・ダイヨチャと紹介していることからほぼ間違いありません。アニメの続きが気になるなら、原作第9巻から読めばすんなり繋がるはずです。

ちなみに付け加えると実写映画1作目は「小島編」、2作目は「宇津帆編」をアレンジしたものでした。

本作のネット配信は「ディズニープラス」の独占となっており、Amazonプライムなどと比べると放送済みエピソードの視聴がややしづらいです。ただし、第1話から第3話は講談社が運営するYouTubeチャンネル「フル☆アニメTV」で見られます。

いきなり「ディズニープラス」に加入するのはちょっとハードルが高いですが、気になった方は「フル☆アニメTV」で試しに視聴してはいかがでしょうか。


『ザ・ファブル』は題材が殺し屋でヤクザも登場することから、抗争シーンが出てきます。第1部後半や第2部では人死にが出ますが、基本的にはシュールなアクションコメディです。

原作漫画は漫画アプリ「マガジンポケット」や「コミックDAYS」なら基本無料で読めるので、アニメ化を期に興味の湧いた方はぜひ読んでみてください。

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