NTTドコモ新社長前田義晃氏はリクルート出身の転職組 NTT生え抜き以外では初めて(有森隆)

NTTドコモの前田義晃社長(C)日刊工業新聞/共同通信イメージズ

【企業深層研究】NTT(下)

NTTグループは、NTTの澤田純会長が代表権を外れるのと同時に主力事業会社3社のトップが6月中に交代する人事を断行した。

NTTドコモは井伊基之社長(65)が相談役に退き、前田義晃副社長(54)が社長に昇格。NTTデータグループは最高技術責任者の佐々木裕副社長執行役員(58)が社長になり、NTTコミュニケーションズは小島克重常務執行役員(58)が社長に就いた。3人とも50代、働き盛りで脂が乗っている。

注目を集めたのはグループの稼ぎ頭のドコモだ。前田氏はリクルートを経て、2000年にNTTドコモに入社。ドコモの社長にNTTの生え抜き以外がなるのは初めてだ。

前田氏の人生を変えたのは携帯電話の着信音だった。北海道大学法学部を卒業後、リクルートに入社。節目の10年目が近づいた1990年代後半、購入したドコモNシリーズで、大ファンだったイエロー・マジック・オーケストラの代表曲「ライディーン」を着信音に設定できると知った時だ。携帯電話の進化が社会を劇的に変えると実感し、2000年にドコモに飛び込んだ。

携帯電話向けのインターネット接続サービス「iモード」を立ち上げた夏野剛氏(現KADOKAWA社長)の誘いを受け、開発チームに加わった。情報配信や音楽配信など新しいサービスを次々と世に送り出した。

それから四半世紀近く経ち、転職組として初のトップの座を射止めた。

前田氏の社長就任はサプライズだった。転職組がトップに就いたことだけではない。本命視されていた人物が外れたことで経済誌が一斉に動いた。

ドコモ次期社長と有力視されていたのは、国際事業や財務を統括する栗山浩樹副社長(62)だった。東京大学法学部卒で、ペンシルベニア大学ウォートンスクール修了。NTTで経営企画、社長室長など中枢部門を歩き、東京五輪・パラリンピック担当だった。10年以上前から「将来はNTT持ち株会社の社長」の呼び声が高かった人物である。

22年6月、前田氏と同じタイミングでドコモの副社長に就任。経歴と年齢面から、栗山氏の社長昇格が既定路線との下馬評が高かった。しかし、今回の人事で、栗山氏は7月に新設するグローバル事業の統括会社、NTTドコモ・グローバルの社長になる。

生臭い話を報じるメディアもある。

〈「栗山氏は内示を受けて激怒したらしい」「ドコモ・グローバルは単に海外事業を寄せ集めただけで、栗山氏のために用意されたポストなのではないのか」などとの噂が流れる〉(「日経クロステック」5月15日付の要旨)

ドコモが開発したiモードは一世を風靡したが世界標準になれなかった。携帯機器メーカーはヨーロッパの通信規格を取り入れたからだ。iPhoneの登場でスマホ時代に本格的に入り、日本のメーカーの製品はガラパゴスと酷評された。

NTTは次世代通信規格「IOWN(アイオン)」で、iモードが果たせなかった世界標準に挑戦する。ドコモがIOWNの仕様や規格を担う。

NTTのエリートコースを歩んできた栗山氏ではなく、前田氏が社長に就任することは、見方を変えれば、ドコモ出身者がトップに復帰することを意味する。コンテンツを中心に勢いがあったiモード時代のドコモに、再び戻ることを期待しての、澤田氏の大抜擢であった、かもしれないのだ。

「転職組」の前田氏が、大きな期待に応えることができるかが問われている。〈栗山氏は多くの人が認める実力派。(彼を外したことによる)NTTの将来を心配する声まであった〉(前出の日経クロステックから)。前田氏にはこうした世評を余計なお世話と、背負い投げにする気概を持って欲しい。

(有森隆/経済ジャーナリスト)

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