三菱電機のエアコン霧ヶ峰「FZシリーズ」は“省エネ”のみを追い求めた化け物だ(多賀一晃/生活家電.com)

三菱電機霧ケ峰「FZシリーズ」のプロペラファン(提供)筆者

【家電のことはオイラに聞いて!】#56

エアコンで重視する点をユーザーに質問すると、「省エネ」「清潔」「暖房能力」という答えが返ってきます。どれも日本メーカーが追求している課題。特に「省エネ」は、経産省が音頭を取るほど重要です。同省肝いりの「統一省エネラベル」も、2022年からAPF(通年エネルギー消費効率)が採用。冬でもエアコンが使用される現状を踏まえた内容に変更されました。

■6年連続全容量帯で省エネナンバーワン

このような状態ですから、全メーカーが省エネを追求するわけですが、中でもすごいのが三菱電機の霧ヶ峰のフラッグシップ「FZシリーズ」です。19年度から6年連続全容量帯で省エネナンバーワン。全容量帯というのは、同じモデルでも、14、18、20畳など、複数の対応容量(帯)があるからです。

かつてエアコンは据え置きでしたが、日本の家屋は狭いため壁掛けという考えが出てきました。エアコンのタヌキの腹のように前に突き出した感じのフォルムは、お世辞にも美しいとは言い難い。ですが、あんこ形力士が腹を大きな武器とするのと同様、このフォルムが重要なのです。最大効率を得るため円筒形の送風用シロッコファンを取り囲むようにヒートポンプを配置するからです。

現在当たり前のように使われているシロッコファンは、壁掛け化を実現するために三菱電機が導入したものです。効率(省エネ)よりスペースを取ったためです。

では、FZのどこがすごいのでしょうか。それは省エネ以外の要素を全部無視したところです。

エアコンを開けるとそこにはシロッコファンではなく、扇風機と同じプロペラファンが2つ。W字に組まれた巨大な熱交換器は一気に温度を変えるためです。風向きは上から下のみ。エアコン内で風向きを変えるという非効率なことはしません。どれも省エネのためです。

日本では、欄間(天井と鴨居の間)にエアコンを壁掛けで取り付けるため、室内機は横幅寸法800ミリ、高さ295ミリ以下という寸法規定ができました。ですが、FZシリーズは寸法規定も満たしていません。22年までは、この寸法規定を満たさないと省エネ基準の評価対象にすらならなかったのにです。

同社のZシリーズは24年の省エネ大賞を受賞しています。14畳200Vで期間消費電力量1129kWh。これに対し、FZは同条件で1022kWhを叩き出しました。Zシリーズとはワンランク違うのであります。

三菱電機のエアコンは静岡製作所で国内生産をすることにより、多数のラインアップを効率よく造っています。少量多品種をこなせる日本でなければ、FZは生産できなかったはずです。

寸法規定などのルールは人の都合だから変わるもの。省エネという変わらぬものをひたすら追い求めるFZ。化け物とも呼ぶべきその性能で私たちを魅了します。

(多賀一晃/生活家電.com主宰)

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