平成以前と以後で日本人の美意識は変わった?|連載・日本人の美意識<2>

連載「日本人の美意識」では、さまざまな角度から改めて日本について知り、考えるきっかけをお届けします。第二回は「平成以前と以後で日本人の美意識は変わったのか?」をテーマに、昭和から令和にかけて人々が求める「物の豊かさ」と「心の豊かさ」を見ていきます。*データ参照:国土交通白書2019(内閣府の「社会意識に関する世論調査」)

「物質的な豊かさ」を求めた高度経済成長期

1955〜1973年頃、いわゆる高度経済成長期には、とにかく日本人は新しい物を次々と所有することに喜びを感じていました。経済が発展するとともに「物質的な豊かさ」を追い求め、大量生産かつ大量消費の時代であったと言えます。

1970年代以降「量から質へ」

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1970年代のオイルショックをきっかけに、大量消費から節約の時代がスタートしました。同時に、商品に自らの個性を重ね合わせ、自分らしいものを選択する「量から質へ」の時代がやってきたのです。

たとえば「DCブランド」と呼ばれる日本のファッションブランドが多く誕生し、社会的なブームとなったのもこの時代です。「ISSEY MIYAKE」「Y's」「コム・デ・ギャルソン」をはじめとする新たなブランドがたくさん生まれました。

「物の豊かさ」と「心の豊かさ」のどちらを重視するか尋ねた世論調査によると、オイルショック以前は「物の豊かさ」を選んだ人が多く見られました。しかし、徐々に「心の豊かさ」を選択する傾向に変化し、1970年代後半以降は「物」より「心」を重視する人が増え続けています。

平成は旅のスタイルも「心の豊かさ」重視の時代に

平成以降、一貫して「物の豊かさ」より「心の豊かさ」を重視する人は多いようです。

たとえば「旅」はその結果を象徴しています。昭和時代は団体ツアーで有名な観光地を慌ただしく巡り、大量のお土産を購入する流れが旅の主流でした。それが現代では、個人が求める「体験」を重視する旅がメジャーになっていますよね。もちろん、そのなかのひとつにショッピングも含まれますが、物を手に入れるだけでなく、その土地ならではの景色を堪能したり、アクティビティや食文化を楽しんだり、現地の人と交流したりと、体験を通して心が満たされることが重要視されています。

さらに、平成後期はSNSの登場により「映える(ばえる)」体験という新たなジャンルも確立されました。美しい場所への旅や、カラフルな食事、楽しそうなイベントなど、きれい、可愛い、クールだと思える「コト」を体験し、それらをSNSで配信すること自体が目的となったのです。

旅先では、SNSに載せたくなるような「映え(ばえ)スポット」に行きたいというニーズも生まれました。

行動制限で「心の彩り」を求めた令和

行動に制限がかかったコロナ禍には、さらに「心の豊かさ」を求める動きが強くなったのではないでしょうか。ホテルで過ごす時間そのものを楽しむ「ステイケーション」は、その代表例。非日常な空間に身を置き、心が満たされる体験が注目されました。

ほかにも、自宅で時間をかけて手料理を作ったり、連続ドラマをじっくり鑑賞したり、自然の中でキャンプやスポーツをしたり、体験を通して心を満たす活動がブームとなりました。「何を買うか」よりも「どう過ごすか」にフォーカスし、心を彩るアクティビティを多くの人々が求めている時代だと言えます。

しかし、2023年度の調査では、前年対比で「心の豊かさ」を選択した人の割合が低下し、「物の豊かさ」を選択した人の割合が上昇しました(内閣府「国民生活に関する世論調査」2023年11月調査)。これまでも大きな変化を遂げたように、これからも私たちの美意識は変わり続けるのかもしれません。

【調査概要①】

実施府省:内閣府(政府広報室)

調査対象:

母集団:全国18歳以上の日本国籍を有する者

標本数:10,000人(有効回収数 5,492人)

抽出方法:層化2段無作為抽出法

調査時期:令和元年6月13日 から 6月30日

調査方法:調査員による個別面接聴取法

調査実施機関:一般社団法人 中央調査社

国民生活に関する世論調査|令和元年6月 内閣府政府広報室

【調査概要②】

実施府省:内閣府(政府広報室)

調査対象:

母集団:全国18歳以上の日本国籍を有する者

標本数:5,000人(有効回収数 3,076人)

抽出方法:層化2段無作為抽出法

調査時期:令和5年11月9日 から 12月17日

調査方法:郵送法

調査実施機関:一般社団法人 新情報センター

国民生活に関する世論調査|令和5年11月 内閣府政府広報室

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