自社の強みを知りたいBtoB企業こそ顧客参加型イベントを!プレイドに学ぶ、コミュニティ運営の極意

「BtoBの打ち手を再考する」特集企画、本記事では既存顧客とのコミュニケーションを再考します。CXプラットフォーム「KARTE」を展開するプレイドは、自社の顧客を「KARTE Friends」と呼び、Friendsの顧客体験(CX)向上をともに目指すユニークなコミュニティを築いています。活動の中心となるのが、2017年から続く顧客参加型イベントの数々です。今回は、元KARTE Friendsで、現在はイベント運営を担う松田真耶氏に、顧客との絆を深める秘訣、運営にあたってのKPIやプログラム作りについて伺いました。

ユーザーを“Friends”と呼ぶ理由

──まず前提として、KARTEユーザーを「KARTE Friends(カルテ フレンズ、以下Friends)」と呼ぶことにはどんな意味が込められているのでしょうか?

松田:我々は、KARTEを「BtoBtoC」のサービスだと考えています。KARTEは企業様に利用いただくサービスではありますが、その先には生活者の方々のCXを良くしたいという想いがあります。ですから、我々とお客様はCXを良くするための“仲間”であり、エンドユーザーのCXを良くするために一体となって盛り上がっていきましょう、そういった意味を込めて2019年にKARTE Friendsと名付けました。

松田:Friendsは、「友達を招くならどんなイベントにしようか」という視点で考えられるようになる言葉だと思っています。私もKARTEユーザーだったからこそ感じる部分ですが、イベントに参加すると良い意味で友達のように接してもらえている実感がありました。友達は平等に扱うもので、何かに優劣をつけたりしないですよね。

わかりやすく言うと、売り上げが高い企業を特別扱いすることもありませんし、私のようにマーケティングのスキルが未熟な担当者とも一緒に取り組む姿勢が、まさに「Friends」という言葉に込められていると、ユーザーとして感じていました。

Friendsの成果を社内で認めてもらえるように

──Friendsに向けてどういったイベントを開催しているのでしょうか?

松田:主に次の3つを開催しています。

松田:Friendsの皆さんには、KARTEと出会ったことで仕事が楽しくなるような体験を提供したいと思って取り組んでいます。また、どのイベントも業務時間中に開催しているので、Friendsが知見を持ち帰って社内に報告することを念頭に、今後の成果につながるような内容を考えています。2017年からMeetupのみで累計2,235人、年次イベントのKARTE Friends THANKS DAYも含めると3,642人(リピーター含む)のFriendsに参加いただきました。

まず1番目のKARTE CX Conferenceは、ビジネスカンファレンスとして年に1回開催しています。様々な業界の事例を紹介することで、CX向上のためのアイデアを持ち帰ってもらうことが主な目的です。

松田:またKARTE Friends THANKS DAYは年に1度、KARTEの誕生月に開催しています。サービスを育ててくださったFriendsに感謝を伝えるとともに、現場のご担当者にスポットライトを当てる場として、Friendsの1年間のチャレンジを表彰する取り組みを行っています。

マーケティング系のツールを導入している企業様によくあることなのですが、取り組みへの社内理解が得られにくく、担当者やチームの頑張りが社内評価につながりづらいこともあります。KARTE Friends THANKS DAYのような場での表彰は、Friendsの成果を社内で認めてもらったり、理解を得たりするチャンスを狙った取り組みにもなっています。

3つのイベントがFriendsの成長ステップに

松田:1~2ヵ月に1度弊社オフィスで主に開催しているKARTE Friends Meetupは、KARTE活用事例の紹介と情報交換の場としてFriendsをお招きしているものです。2部制で、1部はFriendsによる活用事例の発表やプレイドからの機能紹介、2部はFriends同士で交流するプログラムにしています。

松田:KARTEのプロダクト別や、Friendsの業界別、地域別で交流イベントを行うなど、話が盛り上がるように開催コンセプトを工夫しています。Friendsは、この場で得られた事例や知識を社内に持ち帰って共有することで、理解を得られて仕事をしやすくなる面があると思います。

またFriends同士の交流だけでなく、プレイドのメンバーも参加するので、Friendsから直接ご意見をいただきサービス改善につなげる機会にもなっています。

川久保:Friendsのステップとしては、まずはKARTEを使いながら学び、時にチャットサポートで質問をしていただきます。理解が深まったら、イベントレポートやインタビューで他社の活用事例を見て、その上でMeetupに参加して情報交換の場として活用してもらいます。そして取り組みを重ねたら、Meetupでの登壇やインタビューで自社の活用事例を紹介いただき、さらにKARTE CX ConferenceやKARTE Friends THANKS DAYのほか、MarkeZineのようなメディアが主催するイベントに登場するといった流れができています。お仕事をご一緒する中で、Friendsに活躍していただくことが我々としての理想ですね。

イベントはプレイドの「強み」を教えてもらう場でもある

川久保:コロナ禍になる前の2019年はMeetupだけで17回開催していたのですが、翌年にオンラインに移行したところあまり盛り上がらず、コミュニティ運営チーム自体も一度解散となりました。

Friendsたちとリアルに交流する場がなくなった結果、我々の強みだった密なコミュニケーションをベースにした文化や会社のあり方が弱くなった実感がありました。

基本的に、我々の発想は「顧客にとって何が必要だろう?」と考えることが起点になります。当たり前かもしれませんが、BtoBのサービスにおいては機能そのものではなく、「その機能でこんな課題を解決できた」という顧客体験こそが重要です。つまり、KARTEの価値は実際に活用した顧客の声から生まれると言えます。

その意味で、オフラインのイベントは自社のサービスの価値や強みを教えてもらえる貴重な場です。Friendsが語るサービスの強みは、導入を検討している企業に向けたセールストークとしても強力なため、オフラインのイベントを続ける必要性を感じています。

コミュニティ運営の方針とKPIは

──現在、どういったチーム体制と方針でコミュニティを運営されているのでしょうか?

川久保:2020年に2名体制だった専任チームが解散した後、2021年にイベントの必要性が見直されることになったため、できる範囲で続けてきました。そして、改めてコミュニティを運営する社内チームの名称を「Fan Growth」から「Fun Experience」に変更し、チームで本格的に再始動して、現在は兼任の5名が携わっています。

──なぜ、チーム名称を変更したのでしょうか?

川久保:「ファンを増やす」はプレイド目線の話で、Friends側からすると、ファン化は企業側から強制されるものではありません。「Fan」ではなく「Fun」、つまり「楽しい」と思える体験を増やせば自然とファンになっていただけるのではと、チームで話して決めました。

松田:イベントだけでなく、Friendsに差し上げるグッズも数々用意しているのですが、これも「仕事が楽しくなったらいいな」という気持ちで考えています。

──コミュニティ運営に関して、KPIを設定されていますか?

松田:よく他社様からKPIについて質問をいただくのですが、実は決めていません。たとえばファンの数がKPIになるのかもしれませんが、我々の目的や活動の本質とは異なるからです。とはいえ定期的にイベントを開催することと、その開催数を増やすことは自分たちに課しています。

ちなみに、マーケティングコストの観点で言うと、Meetupであれば原価はほとんどかかりません。軽食を用意しても、皆さん会話に夢中で余ってしまい、終わった後に運営メンバーやオフィスにいる社員たちで食べてしまうこともしばしばです(笑)。

──イベント参加者の今後の成果につながることを考えているとのことですが、プログラムの内容で何か工夫をしていることはありますか?

松田:Meetupで、登壇される方にお伝えしていることがあります。それが「施策を考えるときにどういったことに悩んだのか」「ミーティングで何を話し合ったのか」など、トライの過程を知りたい、ということです。

私自身、ユーザーとしてMeetupに参加した時に「その業界だからできる」「あの会社だからできる」とうらやましく思った経験があって(笑)。施策の結果だけを聞きたいわけではなくて、悩んでいる過程を知りたかったのです。業界やビジネスモデルが違っていても、同じ目線で悩みを共有する仲間の話だからこそ、素直に受け入れやすい面があると思います。

オンライン上での場作りは課題の一つ

──イベントを運営する中で感じている課題はありますか?

川久保:オフラインのイベントで提供できる価値が大きい反面、オンラインのイベントが活性化しづらいことですね。チャットツールなどのオンラインコミュニティサービスを3つほど試したのですが、なかなか活性化しませんでした。

──課題解決のために、参考にしている他社事例などはありますか?

川久保:ユーザー同士のコミュニケーションがオンラインで活発に行われている企業として参考にしたのは、GoogleやSalesforceといった外資系企業が運営するユーザーコミュニティでした。ただ、当社の場合は外資系企業と比べてお客様からの問い合わせにすぐ対応でき、開発チームとの距離も近いので、お客様同士で自己解決する必要がそれほどありません。

また、Friendsの多くが東京に拠点を置く企業です。そのような背景もあり、オフラインイベントの参加ハードルが低く、オンラインイベントの必要性が低いのかもしれません。

松田:トライする余地はあるかもしれませんが、オンラインコミュニティはFriendsにあまり求められていなかったのだとも思います。今後は、KARTE活用とは少し距離を取って外部の専門家から学ぶ場や、Friendsの特別な思い出になるような企画も用意したいです。

7月にはKARTE活用の習熟度を証明するFriends向けの公式認定資格制度「Certificate of KARTE」をリリースするので、同月開催のMeetupでは参加者が試験を受験し、合格発表を全員で見る企画を考えています。その後は試験のお疲れさま会を兼ねた、ちょっとした夏祭りも予定しています。プレイドと出会ったことで、Friendsの仕事が楽しくなる体験をもっと増やしていきたいですね。

© 株式会社翔泳社