相続税で破産? 資産家親子の悲劇 不動産相続で気を付けたいこととは

25年前に亡くなった夫の相続税に苦しむ母子。その原因とは(写真はイメージ)【写真:Getty Images】

裕福な家庭の妻や子どもたち。はたから見るとうらやましい限りですが、資産家が資産家であり続けるためには、財産を守るための知恵が必要です。資産家のもとには、さまざまな業種の営業から売り込みがありますし、支払う税金も高額です。ときどき、パートナー(親)が築いた財産や、先祖代々から受け継いだ土地などを、税金の支払いによってすごい勢いで減らしてしまう人に遭遇することがあるというのは、豊富な実務経験がある税理士でマネージャーナリストの板倉京さん。資産を守るにはどうすればいいのでしょうか。お悩みをもとに解説します。

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25年前に大黒柱を亡くした母子 税務署からまさかの連絡が…

今回の相談者は、長島君江さん(48歳・仮名)と、その母の和子さん(73歳・仮名)です。君江さんの父は25年前に50歳という若さで突然倒れ、亡くなっています。

「税務署から税金の未払いが、まだ5億円近くあるという連絡が来たんです。税金が全然減らないのですが、どうしたらいいでしょうか……」

君江さんの父は、ターミナル駅の目の前にある賃貸ビルのオーナーをしていました。また、このビル以外にもいくつかの不動産を所有していましたが、父が亡くなって間もなく、相続税を払うために売却。今は、駅前のビルひとつしか残っていないとのことです。

相続税の延納期間は最大20年 莫大な延滞税がかかるように

君江さんのケースのように、遺産相続する財産はほとんどが不動産という人は、「相続税が払えない」という可能性があります。

長島さんのお父さんの遺産にかかった相続税は8億円以上。でも、そんな高額な預金はもちろんありません。それでも、不動産を売却し、現金をかき集め、5億円程度は納税できたそうです。払いきれなかった約3億円は、20年間で支払う計画をたてました。

不動産収入から考えれば、計画通りに返済できるはずでした。それが、25年経った今、税金は減るどころか2倍近くになっているというのです。

なぜこんなことになったのか、話を聞いて愕然としました。最初の数年は、予定通り返済していたそうですが、その後、事業の資金繰りが悪くなってしまい、ほとんど納税ができていないというのです。税務署から送られてきた資料を見ると、相続税の未納額は2億円。利子税と延滞税が3億円程となっています。

税金は申告期限までに払えない場合、延滞税という税金がかかります。ただし、「延納」という手続きをしていた場合は、延滞税よりも低い利率の利子税となります。長島さんは「延納」の手続きをしていましたが、延納の期間は最大20年。すでに延納の期間は過ぎています。

ちなみに、安いとはいえ、25年前の利子税は4%程度だったと推察されますので、3億円に対して、年間1200万円程度かかる計算です。この利子税が毎年返済できていない元金にかかることになります。

20年の延納期間を過ぎると、相続税の未納金が延滞税の対象となります。延滞税の利率は、この5年間は年8.7~8.9%で推移しています。ちなみに、25年前の平成1年~平成25年12月31日までの間は、原則年14.6%という驚愕の高利率でした。

仮に今年(2024年)未納金額2億円の相続税に原則の延滞税(8.7%)がかかったとしたら、年間で1740万円もの額になります。相続税を支払わない限り、毎年この高額な延滞税が積み上がっていくことに。このように税金を払えないということは、とても大変なことなのです。

長島さんのように担保価値のある不動産を持っているような場合は、金融機関からお金を借りて税金を支払うという方法もありました。延滞税などに比べれば、銀行の利息の方が、負担が軽くなる可能性は大いにあります。事情によっては借入ができないこともありますが、検討はすべきでした。

でも、長島さん親子は、借入することを思いつかなかったといいます。そのうえ、高い延滞税のつく税金を放置し「税務署から連絡や手紙は来ていたが、怖くて中身を見ていなかった」と!!

家族を守るためには覚悟と知恵をつけること

君江さんのお父さんは50歳で亡くなりました。まだまだ働き盛り。相続税の対策など考えることもなかったでしょう。それでも、一等地にある収益の高い不動産を残してくれたのですから、本来であれば生活できないことは決してなかったはずです。

でも、残された妻と娘では、賃貸経営もままならず、店子に家賃の値下げ交渉をされれば家賃を下げ、ビルのメンテナンスをするといえば、目が飛び出るほど高額な見積もりを出されても、いわれるがままに支払いました。そして、相続税の返済が滞っていても、生活レベルを落とすことができず、結果2倍に増えた税金に困り果ててしまったのです。

このように、資産家が資産家であり続けるためには、財産を引き継ぐ家族、子はもちろん、妻にも財産を守り、育てる覚悟と知恵が必要なのです。知恵と言っても、なんでも自分たちで解決する必要はありません。

わからないことをわからないままにしないこと。信頼できるアドバイザーを選び、良い関係を築きあげること。おかしいと思ったことに対しては、自分でもしっかり考えること。

そういった教育を家族にすることが資産を守り、ひいては家族を守り続けることになるのです。

板倉 京(いたくら・みやこ)
1966年10月19日、東京都生まれ。神奈川県内で育ち、成城大学文芸学部マスコミュニケーション学科卒。保険会社勤務後に結婚。29歳で税理士資格試験の受験を決意し、32歳で合格する。36歳での長男出産を経て、38歳で独立。主な得意分野は、相続、税金、不動産、保険。テレビでは「あさイチ」「首都圏ネットワーク」(ともにNHK)、「大下容子ワイド!スクランブル」(テレビ朝日系)、ラジオでは「生島ヒロシのおはよう一直線」(TBSラジオ)などに出演して解説。主な著書は「夫に読ませたくない相続の教科書」(文春新書)、「相続はつらいよ」(光文社知恵の森文庫)、「女性が税理士になって成功する法」(アニモ出版)、「知らないと大損する! 定年前後のお金の正解」(ダイヤモンド社)など多数。

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