梅雨期・夏場の職場“同僚の臭気”が気になる「スメハラ」問題 臭いがキツイ社員の“懲戒解雇”はあり得る?

「臭い」はデリケートな問題であるため、対応にも注意が必要だ(Ushico/PIXTA)

6月21日、気象庁は「近畿と東海、関東甲信が梅雨入りしたとみられる」と発表した。例年より14日~15日遅い梅雨入りとなった。

湿度の高い梅雨、そして気温も高い夏に本格化するのは「臭い」の問題だ。

近年ではハラスメントに関する意識が高まるとともに、臭いのハラスメント、つまり「スメルハラスメント(スメハラ)」も問題視されるようになった。

「匂いがきついです」

体臭や口臭、香水や食事にタバコなどの「臭い」は、さまざまな場面で問題を引き起こすことがある。

6月2日、店内で大会も行うカードショップ「カードパラダイス池袋本店」が、公式Xアカウントで「特に最近の大会には一部参加者の方、匂いがきついです。毎日、入浴、洗濯するなど清潔な状態でご来店ください」と投稿し、2万回以上リツイートされて注目を浴びた。改善がない場合は、今後大会を開催しないことも検討しているという。

上記は不特定多数が集まるイベントの問題だが、職場においては、臭いの問題は従業員のチームワークの乱れや意欲低下を招くだけでなく、離職を引き起こす可能性もある。

企業の経営者も部下を指導する管理職も、スメルハラスメントの問題には注意を払う必要があるだろう。

スメルハラスメントに悩む社会人が増えている

職場内でのハラスメントを防止するための企業研修サービスを提供している資格予備校「アガルートアカデミー」。パワハラやセクハラなど典型的なハラスメントに関する依頼が多いが、スメルハラスメントに関する研修が依頼されることもある。

アガルートアカデミーの講師でもある江原佐和弁護士は「ハラスメントに関する近年の急激な意識の高まりに伴い、他者との関わり方について悩むビジネスパーソンも増えています」と語る。

「スメルハラスメントについても、自分が加害者や被害者の立場に置かれたときどのように行動するのが適切であるか、模索する人は少なくありません」(江原弁護士)

パワハラやセクハラとの違い

「スメルハラスメント」の概念が生まれたのは最近だ。定義も定まっていないため、現状では、以下のいずれの場合でもスメハラにあたる可能性がある。

・香水や柔軟剤を過剰につけている場合

・体や衣服の衛生を維持できず、体臭が強くなっている場合

・内臓や口腔(こうこう)などに健康上の問題があり、口臭が強い場合

セクハラやパワハラは、加害者が無自覚な場合もあるが、基本的には特定の相手に向けて意図的に行われる行為だ。

「一方で、スメルハラスメントを起こす当事者はほとんどの場合、何らかの害意や悪意を持って臭いの問題を起こしているわけではありません。そのため、企業が取るべき対応も、他のハラスメントの場合とは異なってきます」(江原弁護士)

対症療法ではなく抜本的な対策が必要

スメルハラスメントに対策するためには、まず、問題となる臭いの発生原因を明らかにすることが必要だ。

次に、どう発生原因を抑えるかだ。いえることはスメハラに「対症療法」で対応することは最適とはいえない場合が多いこと。たとえば内臓や口腔に健康上の問題があり口臭の強い人は、ミントタブレットをなめることで一時的に口臭を抑えることができるとしても、抑えられる程度には限界があるからだ。

「対症療法ではなく、病院などに行って適切な治療を施して口臭の原因そのものを改善するなど、抜本的な解決を目指すほうが適切です」(江原弁護士)

ただし、抜本的な対策を行うためには、スメルハラスメントの当事者本人の意識も重要になる。前述のケースでは、そもそも自分の口臭に問題があることに気がつかなければ、病院に行くこともないだろう。

「職場でどこまで指摘・指導ができるかは、職場の環境や人間関係に左右されるところもあり、難しい問題であるといえるでしょう」(江原弁護士)

従業員に指導する場合の注意点

スメハラの問題を起こしている従業員がいるとき、指摘・指導をするにあたって企業が注意すべき点とはなにか。労働問題の解決実績を豊富に持つ松井剛弁護士に聞いた。

「従業員に、体臭について指摘すること自体は可能です。しかし、他の従業員がいる場面で指摘する、ということは絶対にすべきではありません。 体臭というデリケートな問題について多数の前で指摘して恥をかかせることは、それ自体がパワハラであり、逆に従業員から損害賠償を請求される可能性すらあります」(松井弁護士)

一方で、特定の従業員の体臭などが原因で周囲の従業員の業務効率が下がっていたり、離職する従業員がいたりする場合には、企業としてはその状況を放置すべきではない。

また、そもそも本人が臭いに関する問題を起こしていることを自覚していないケースもあり、その場合には指摘を行うことで自体が解決する可能性もある。

本人に改善の意思がない場合は…

企業側として対応がもっとも困難になるのは「本人が臭いの問題について自覚しているが、改善する意思がない」というケースだ。

原則的に、企業は、業務時間外の行動について労働者に具体的に命令することはできない。病院に行くなどの抜本的な対策にせよ、出勤前にシャワーを浴びたりするなどの対症療法にせよ、あくまで本人の自発的な同意が前提となる。

「通常は、従業員が問題行動を起こしたら懲戒処分を検討することになります。しかし、臭いがきついから、という理由で懲戒を行うことは困難です。また、そもそも、就業規則で臭いに関する懲戒事由を定めている会社はほとんどないでしょう」(松井弁護士)

ただし、臭いが原因で会社側に多大な負担を生じさせており、また「在宅勤務に移行する」「他の従業員とは別の部屋で業務を行う」などの対策も取れない場合には、最終的には懲戒処分も検討することになる。

「とくに、臭いによって取引先に不快感を抱かせて、会社側に損害を与えた場合には、 会社の定める懲戒事由次第では、懲戒処分ができる可能性もあります」(松井弁護士)

実は、スメルハラスメントと「社内不倫」には共通点があるという。

恋愛や性はプライベートな事柄であるため、従業員たちが不倫しているというだけでは、企業側は「不倫を止めろ」ということはできない。しかし、不倫が原因で職場の人間関係に問題が起き、企業に損害が生じた場合には、不倫した従業員の懲戒処分を行うことが可能になる。

「とはいえ、いままで、労働者側から『スメルハラスメントが原因で解雇された』という相談を受けたことはありません。大半の職場では、法律問題にまで発展する前に、穏便に解決されているのでしょう」(松井弁護士)

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