労働力不足に地銀とVCが立ち向かう「地域課題解決DXコンソーシアム」

UB Venturesは7月3日、地域金融機関9行と「地域課題解決DXコンソーシアム」を発足したと発表した。地域の企業とスタートアップをつなぎ、人手不足に悩む建設、製造、物流、教育、医療などの分野で生産性向上を目指す。

UB Venturesは、スタートアップの海外進出なども支援しているベンチャーキャピタル。代表取締役の岩澤脩氏は「UB Venturesとして人口減をテーマに活動していく中で、私自身が全地域の金融機関の方にアンケートをさせていただこうと決めた。実際に50行以上の金融機関にお邪魔したが、まさに人口減による地域企業の課題に触れ、議論した中で共感いただき、今回のコンソーシアム発足に結びついた」ときっかけを話す。

地域課題解決DXコンソーシアムには、鹿児島銀行、佐賀銀行、山陰合同銀行、四国銀行、静岡銀行、常陽銀行、中国銀行、福岡銀行、山口銀行の9行が参画。「人口減少に伴う地域の産業課題」と「レガシー産業の一人当たり生産性向上を実現する地域課題解決型スタートアップ」の情報を集約し、地域を横断して知見を共有する枠組みの形成を目的としている。

「現在の経済の豊かさを維持するためには、人口を増やすか、生産性を上げるかの二択しかない。少子化対策もなされているが、短期的な人口増加が難しい中、私たちが主体性をもって取り組めるのはAI、ソフト、ハードウェアなどのテクノロジーを活用し、一人当たりの生産性を高めること。その一翼が担うのが、各産業の生産性向上を実現するスタートアップの技術」(岩澤氏)とスタートアップの役割の重要性を説く。

スタートアップと多くの接点を持つUB Venturesと、地域企業と関わりが強い地域金融機関が手を組むことで、「地理的にも心理的にも大きな隔たりがあり、局所的な連携に留まっている」(岩澤氏)二者をつなぎ、地域課題の解決に結びつける。

活動内容としては、各レガシー産業の課題調査、分析を実施するほか、地域課題解決型スタートアップネットワークの構築、DX成功事例の収集など進めていく方針。会員間で情報の連携、共有をするため3カ月に一度、定期全体会を開催していくという。

活動期間は2年間としているが、「それを一区切りとして次の展開も考えていく。この2年間でしっかりとモデルを作り、広げていきたい」(岩澤氏)と今後を描く。

地域課題解決DXコンソーシアムの発起人である9行のコメントは以下の通り。

鹿児島銀行 執行役員地域支援部長の小笹康浩氏

地域金融機関として、地域企業の支援に尽力してきたが、今までの(企業の方の)悩みは資金であったが、ここ数年はだんだん人が足りない、労働力が足りないという話しを聞くようになってきた。銀行という立場で、いろいろなテクノロジーを持つスタートアップの方と知り合う機会はあるが、どうしても五月雨式で、点に終わってしまっていた。それを面にしたいという思いが以前からあった。コンソーシアムに参加することで、(スタートアップ関連の)情報が得られることに期待している。

佐賀銀行 取締役営業統括本部副本部長兼営業統括部長の坂井貞樹氏

佐賀県の人口は80万人を切り、都市部より早く人口減少に至っている。地域金融機関としてレガシー産業への支援は必要不可欠になっているが、過去に例のないペースで進行する労働人口減少に対応するためには、これまでにはない発想やソリューションが必要。これにより、地域金融機関との広域連携および地域課題解決型スタートアップとの連携が期待できる本コンソーシアムへの参加を決めた。この動きがいい意味で大きくなっていけばいいなと思っている。

山陰合同銀行 地域振興部長の井上亮氏

地域の課題解決に向けた取り組みを進めていくUB Venturesに共感し、一緒に取り組みたいと参画を決めた。地域の課題解決、人材不足など、多くの課題を解決し、後押ししていくのはスタートアップであり、ベンチャーキャピタルであると強く感じている。スタートアップが持つ革新的でニッチなサービスはもちろん、まっすぐに突き進むチャレンジングな姿勢を間近で見てきて、これを私たちの地域の多くの経営者の方に広く還元できれば、地方銀行として大きな役割が果たせるのではないかと確信している。

四国銀行 地域イノベーション部長の川崎(漢字は立つ崎)隆二氏

私は7~8年前に事業継承問題を担当していた。その時は後継者不足を解決すれば、事業が継続できるだろうと考えていたが、昨今様相が変わり、従業者がいない問題が切実になりつつあると肌で感じている。従業者がいなければ後継者がいても事業は存続できない。やはりDXの力を使って企業自体の生産性を向上していくしかないと考えていた。私たち地方銀行単独のネットワークではそれもなかなかうまくいかないという中で岩澤さんと知り合えた。本店を構える高知県は、人口減少、高齢化で全国のトップランナーになっている。今回のコンソーシアムの取り組みが、地元の中小事業者の課題解決に役立つことを切に願っている。

静岡銀行 執行役員経営企画部長の藤島秀幸氏

静岡県は海にも山にも囲まれて産業も発展し、豊かな県というイメージが持っていただいているかもしれないが、2023年度の人口動態調査では人口減少が全国ワースト3、労働力不足についても全国ワースト10になるなど、大きな地域課題を抱えている。本日集まった多くの金融機関の方とUB Venturesと力を合わせてこの課題解決に取り組んでいきたい。

常陽銀行 執行役員経営企画部長の小野瀬真一氏

預金、貸出金、為替といった従来型、伝統的な銀行業務にとどまることなく、人手不足やDX、脱炭素へのサポートなど、取り組み領域の拡大が必要不可欠になっている。その中で銀行にない先進的なノウハウを持つスタートアップ企業と連携することも不可欠になっている。全国の労働人口が減っている中で、地方の事業者の課題を解決し、事業者の輝く未来を作り上げられなければ、地方だけでなく日本全体の輝きも見られないと考えている。スタートアップの方と連携し、地域の課題解決に取り組んでいきたい。

中国銀行 執行役員総合企画部長の小野憲治氏

今回のコンソーシアムへの参画の背景は3点あると考えている。1つはUB Venturesとのリレーション。お付き合いが始まってから、ベンチャーへの支援、出資に対して私たちが足りないノウハウを補ってもらっている。2点目は私たちのお客様である中小企業の課題解決。人口減少、特に生産年齢人口の減少はもう抗えない。対処としては、生産性を上げるしかない。生産性向上に向けたノウハウ、アイデアをお持ちのベンチャー企業の方のソリューションサービスと私どものお客様を結びつけて地域の課題解決、経済発展に向かっていきたい。3点目は岩澤さんの人柄だと思っている。芯が強く、この社会課題を解決していこうという熱い思いを持っている。安心してご一緒できるのではないかと思っている。

福岡銀行 常務執行役員ソリューション事業本部長の平田慶介氏

ソリューション事業本部として、法人のいわゆるライフステージである、創業、成長、成熟、衰退、再生におけるすべてのステージの課題解決が私たちの役割。一方で、スタートアップと地域企業をマッチングするイベントも毎年開催し、ビジネスにつなげていただいている。これは地域の企業の方に非常に好評で、少しずつ成果もでてきた。このほか中小企業のDXコンサル的な支援もしている。そういった活動を通じて課題と感じているのは、点でとどまり広がっていかないこと。今回スタートアップ、地域の金融機関の方々と本コンソーシアムに参画し、いろいろな課題を皆さんに共有し、成功事例などを共有しながら答えを出し合っていければ、活動が広がり、地域の課題解決につながっていくと期待している。

山口銀行 営業統括部長の原田孝志氏

人口減少、労働力不足、事業継承とさまざまな地域課題があり、山口銀行グループでは「地域の豊かな未来を共創する」をパーパスに掲げ、地域課題の解決に取り組んでいる。しかし、グループ内のソリューションだけではスピード感がない。その中でコンソーシアムへのお声がけをいただいた。UB Venturesとスタートアップ、金融機関の皆さまと連携し、課題解決をスピードアップしていきたい。

岩澤氏は、約300年前の江戸時代後期から末期に起こった日本の人口減少を例に挙げ「大規模な飢饉や都市への人口集中、晩婚化により、少子化が進んだとも言われている。どこか現代に通じるとは言えないだろうか。この時代の日本がどうなったかというと、人口が減少しても農業生産高を高めたという結果がでている。これは農機具の進化や品種改良などの技術革新により、一人当たりの生産性を高めたからと言われている。この後、幕末、明治維新への近代化へ進んでいった。これはまさに人口減少社会のイノベーション。私たちの先人に学び、今をチャンスと捉え、未来を描いていきたい」とした。

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