『【推しの子】』原作改変問題を扱う切り口の鋭さ 原作者・鮫島アビ子が起こした“波乱”

これほどまでに、国民を熱狂させた令和のアニメがあっただろうか。今や『【推しの子】』という作品名を耳にしたことのない人の方が少ないかもしれない。アニメファン以外の層も大きく巻き込んで、社会現象を巻き起こした『【推しの子】』が、ついに帰ってきた。

『【推しの子】』は、恋愛リアリティーショー、アイドル業界と、エンターテインメントの世界で輝く若者たちの姿を、様々な切り口で鮮やかに描写してきた。その魅力的な世界観は、視聴者の心を掴んで離さない。そんな本作が第2期で挑むのは「2.5次元舞台」という、極めてエッジの効いたテーマだ。

2.5次元舞台では、漫画やアニメ、ゲームなどを原作とした作品を、舞台やミュージカル(3次元)で再現する。原作との解釈の一致を見つける面白さもある、アツい現場である。一方で、漫画を原作とし、それを舞台化(アニメ化)する難しさは、まさに“原作もの”である『【推しの子】』ならではの題材と言えるだろう。

ちなみに「東京ブレイド」の舞台は、ステージアラウンドという360度が舞台になる形式を採用している。第1話の冒頭でも、実際に視聴者が一番後ろの席でステージを鑑賞しているような演出で、その没入感を再現していた。

「東京ブレイド」の舞台で中心的な役割を担うのは、実力派揃いの劇団ララライの劇団員たちだ。中でもエースの黒川あかね(CV:石見舞菜香)と看板役者の姫川大輝(CV:内山昂輝)は、そのずば抜けた演技力で舞台の制作陣からの期待も大きい。

今回の舞台に参加を決めたアクア(CV:大塚剛央)には、隠された目的があった。アクアが父親の正体を追う中で、鍵となる存在として浮かび上がった劇団ララライ。星野アイ(CV:高橋李依)も一時所属し雰囲気が変わった分岐点でもある。その真相に迫るため、アクアは舞台への参加を決意したのだ。

キャストの顔合わせを終え、いよいよ台本読みと本格的な稽古が開始。しかし、役者たちの兼任スケジュールの都合で、全体稽古よりも3~4人単位のグループ稽古が中心に。舞台では、2つのチームの激しい抗争が描かれる予定だ。主人公側の新宿クラスタには姫川、有馬かな(CV:潘めぐみ)、鳴嶋メルト(CV:前田誠二)が所属。対する渋谷クラスタには黒川、アクア、鴨志田朔夜(CV:小林裕介)が配置された。

『東京ブレイド編』の最大の見どころは、あかねとかなによる凝縮された演技対決だ。かながキャラクター「ツルギ」のコツを着実に掴んでいく一方で、あかねは原作と脚本のキャラクター設定の違いに戸惑い、「鞘姫」の役作りに苦心する姿が描かれる。

大輝の卓越した実力に触発され、かなの演技には目を見張るものがある。かなといえば、第1期ではアイドルとしての苦悩や人気子役だったからこその業界の難しさを語る存在として挫折も描かれていた。そんなかなの俳優としての側面をアニメで観られるだけでも、第2期を観る価値があるだろう。

かなの才能を認めながらも、ライバル心を激しく燃やすあかね。全体を冷静に観察していたアクアは、あかねがかなに演技で大差をつけられて敗北すると予言した。

アクアの予言が当たったかのように、あかねは、自身が演じる鞘姫のキャラクター設定に苦戦を強いられる。原作とは異なる解釈に戸惑い、得意の感情移入ができずにいた彼女は、アクアのすすめで演出の金田一(CV:志村知幸)と脚本のGOA(CV:小野大輔)に助言を求めるのだった。

GOAの2時間の舞台では「盛り上げるところを定めて取捨選択する必要がある」との説明によって、作品の中に原作との齟齬という慎重に扱うべきデリケートな問題も浮上する。

原作からの改変を巡る議論は、現在火傷しかねないホットな話題でもあるが、やはりこの問題に切り込んでいけるのも業界の裏側を描く『【推しの子】』だからこそなのではないか。GOAの「そういう汚れ役(原作ファンからの批判)も僕の仕事の内だと思ってる」という言葉に、考えさせられるものがあった。第1話の最後には、「東京ブレイド」の原作者・鮫島アビ子(CV:佐倉綾音)がやってきて、脚本の大幅な修正を求める声を上げる。この先、本作がこの問題をどうアニメで描いていくのかも気になるところだ。

ちなみに、第2期からのOP「ファタール」の映像の最後では、すでに亡くなっているはずのアイが息子の舞台を観劇するカットがあり、ネット上で「アイが見守ってる!」と話題に。舞台に立つ演者たち、そしてその背後で奔走するスタッフたち。彼らの熱意と葛藤が交錯する中、アイの存在が静かに物語を見守っているかのようだ。

これから『東京ブレイド』の舞台は、どのような展開を見せるのか。アイと共に、私たち視聴者も彼らの成長と苦悩を見守っていくことになるだろう。
(文=すなくじら)

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