鎌田大地はプレミアでフィットできるのか。パレスでの起用ポジション、ライバルは?

フットボールの母国イングランドに、またひとり日本代表戦士が上陸した。2023-24シーズンはラツィオに所属していた鎌田大地が、クリスタル・パレスにフリーで加入した。

移籍市場に詳しいファブリツィオ・ロマーノ記者によると、5月末時点ではイタリアのクラブと契約延長が既定路線だったが、金銭面での条件で最終的に破談。フランクフルト時代の恩師オリバー・グラスナーのラブコールに応じて、ロンドン南部のクラブに加入する流れとなった。

では日本でも屈指の技巧派MFは、フィジカル強度の高いことで有名なイングランドの地で活躍できるのだろうか。

【PHOTO】9頭身の超絶ボディ! 韓国チア界が誇る“女神”アン・ジヒョンの悩殺ショットを一挙チェック!
▼グラスナーの基本的なサッカー

まず筆者の所感を伝えると、鎌田は間違いなくクリスタル・パレスでフィット出来るだろう。

前提として、フランクフルト時代に共にヨーロッパリーグ(EL)を制したオーストリア人監督のサッカーを説明すると、3-4-3を基本システムとして採用しており、ビルドアップ時は3バックで組み立てる。相手のプレスの人数次第では、ボランチの選手が最終ラインに吸収されることもある。

こうして相手を引きつけた後に、相手のDFラインとMFの間で浮遊するもう一人のボランチやシャドーの選手に縦パスを供給。ボールを引き取ったアタッカーたちは、ドリブルやスルーパスを駆使して素早く攻めたてる。いわゆる擬似カウンターを好む。

引いて守るチームに対しては大外に張るウイングバックを使ってサイドから素早く崩してクロスを放り込む。あるいはワイドの選手を何度か使って、相手守備ブロックの横幅を広げて中央に隙間を作り出し、前線の選手たちの連携で崩す。

ただ、このようにボールを持つ展開でも必要以上にポゼッションすることを好まず、後方から厳しい縦パスや、ロングボールを放り込むことが多い。そうなると当然ボールを失うリスクはあるものの、素早い攻守の切り替えでボールを再び奪い返し、ピンチの芽を摘みつつショートカウンターに繋げていく。

こう書くと、ダイレクト寄りとはいえオーソドックスな3-4-3での戦い方にも読めてしまうだろうが、特徴的な点もある。グラスナーは2ボランチに攻撃的な選手を采配しているのだ。そしてこの特徴が鎌田にとって大きなメリットとなる。

【動画】鎌田がアニメで登場!パレスが公開したウェルカムムービー
▼鎌田のプレーポジション

現状の2ボランチであるアダム・ウォートンとウィル・ヒューズは共にかなりアグレッシブなタイプだ。EURO開幕前のボスニア・ヘルツェゴビナ戦でイングランド代表デビューを果たしたウォートンは、低い位置でボールを引き取り縦パスを当てる能力の高い選手だ。かなり狭い隙間でもどんどん縦パスを供給できるので、シャドーとしてライン間で受けることを好む鎌田としては最高の相棒になるだろう。

またイングランド人のヒューズは、元々2列目でプレーする知性と技巧を併せ持つタイプの選手だったが、現在のチームではボランチで出場している。余談だが元々賢い選手の上に口元に存在感のある髭を蓄えているためベテラン感たっぷりの選手だが、まだ29歳である。全くもって20代には見えない。

話を戻そう。そんなヒューズのような選手が3列目で使われている理由としては、おそらくグラスナーが縦パスを当てられる選手を好む点が一つ。二つ目は、ボランチの守備について、後方へのカバーより、前から刈り取りにいくスタイルを好んでいるからだろう。2列目の選手は往々にしてスペースを管理する後ろ向きの守備に慣れていない選手が多いものの、このサッカーではそれがデメリットになりにくい。

こうした点を踏まえると、鎌田自身のボランチ起用も考えられる。実際、フランクフルト時代、2021-22シーズンはシャドーでのプレー中心だったが、翌シーズンは半分くらいはボランチでプレーしている。

プレミアリーグがブンデスよりフィジカルな選手が多い点を加味すると、基本的にはシャドーでのプレーがメインになるだろうが、イングランドの強度に慣れたら一列ポジションを下げる可能性は十分にある。

二つプレー可能なポジションがあることは、鎌田の出場時間の観点で大きなメリットだ。

▼鎌田のライバルたち

さてそんなグラスナーの元でシャドーとして活躍しているのは、イングランド代表FWエベレチ・エゼとフランス五輪代表FWマイケル・オリースの2人である。二人とも高いアスリート能力と屈指の技術を併せ持つ逸材だ。前者の方がややドリブラー気質で後者がややパサー気質だが、近しいプレースタイルの選手の二人である。年齢はそれぞれ25歳と22歳で、移籍専門サイト『トランスファーマルクト』が算出した市場価値は二人とも揃って5500万ユーロ(約94億円)と高い価値を持つ選手だ。

対して27歳の日本人MFは1800万ユーロ(約31億円)で、これもこれで十分に高い価値ではあるものの、エゼとオリースからスタメンを奪うのは簡単ではない。ただ、後者はバイエルンの移籍に近づいており、そのポジションに鎌田が入ることになりそうだ。

他の2列目の選手で言うと、ガーナ代表FWの32歳ジョーダン・アユーと、同じくガーナ代表MFの31歳ジェフリー・シュルップがいるものの、前者はハードワーカー色が強いアタッカーで、シュラップはSB出身の選手でよりワイドなエリアでのプレーを得意とする。グラスナーのサッカーでは、鎌田の方が序列は上と見ていいだろう。

他にも元イングランドU-20代表の21歳ジェスラン・ラク=サキや、獲得の噂が上がっている若手選手など、実力が未知数のライバル候補はいるものの、いずれにしても現時点では鎌田が上と見ていいはずだ。

▼プレミアリーグへの適正は?

そしてプレミアリーグへの適性も問題ない。技術、俊敏性、サッカーIQを併せ持つ鎌田ならフィジカルコンタクトを避けながらプレー出来るだろう。ワンステップで強いボールを蹴れる点も、寄せが早いプレミアでは重要な資質。守備強度もシャドーなら問題ないはずだ。

唯一の懸念点は言語だろう。20年4月にフランクフルト公式HPに掲載されたインタビューでは「チームにはグループがあって、みんなで連絡を取り合っています。英語でもなんとかなるし、話の内容が理解できれば、ドイツ語も話すようにしている」と明かしているが現時点では、それがどの程度かはわからない。

とはいえ、監督は鎌田をよく知る人物だ。しかも先人たちの活躍もあり、イングランドにおける日本人のバリューはここ数年でかなり上がってきている。英高級紙『ガーディアン』でもこの移籍に対して「フランクフルトの一員として2022年にヨーロッパリーグを制覇して以来、鎌田はグラスナーと再びコンビを組むことになる」と紹介されている。

フリーでの移籍ではあるものの、名もなきアジア人ではなく、唯一のEL王者としてクラブに加入することになるのだ。少なくともマイナスからのスタートと言うことはない。

もちろんプレミアリーグのクラブにフィットするのは簡単ではない。相応の努力が必要だろう。それでも今の鎌田ならば、即フィットする可能性は十分あるのではないか。

文●内藤秀明

© 日本スポーツ企画出版社