ネコちゃんワンちゃンの採血部位はどこが適切? 動物にストレスを与えないことが最優先

モフるのはいいけど、押さえ込みは嫌だニャ(提供写真)

【ワンニャンのSOS】#69

昨年4月から国家資格になった「愛玩動物看護師」の仕事のひとつに「保定」があります。保定とは、動物を動かないようにして獣医師が速やかに治療できるようにするための押さえ方のこと。大学や専門学校などでは、「保定学」がカリキュラムに組み込まれていて、試験もあります。

押さえる腕の位置や手の持ち方を画像や動画で示しながら学生に指導する学校もあるようです。その場所や持ち方によって、正解と不正解を線引きするのは、正直、解せません。現場で治療する獣医師としては、無理に押さえ込まなくても処置さえできれば問題ないのです。

そもそもネコちゃんもワンちゃんも、性格がそれぞれ異なります。しっかりと押さえ込まないと治療できないことはもちろんありますが、そのときの状況や症状によっては必ずしも不動化させることが適切でないことはしばしばあります。

そんな現場ですべての状況に共通するのはただひとつ。動物にストレスを与えないこと。その役割をはたしているのが、看護師や補助スタッフなのです。

保定が必要な場面としてよくあるのは採血でしょう。当院では、看護師や補助スタッフが背中側から優しく押さえながら頚静脈から採血します。研修に来られる学生さんにその理由を質問すると、ほとんど答えられません。

ある人は「頚静脈は太く、採血しやすい」といいます。確かに採血のしやすさはありますが、頚静脈の太さは大型犬でもネコちゃんほどで、首を重視する理由としては弱い。別の学生はより踏み込んで「針を太くできるので、溶血しにくく、正確なデータを得られる」と解答。ネコちゃんに細い針で採血すると、赤血球が壊れやすいのは事実ですが、街の動物病院でデータの正確性にこだわることはあまりありません。

では、正解は? 頚静脈採血だと、ネコちゃんもワンちゃんも上を向きます。その視線の先には看護師や補助スタッフがいて、優しく包み込みながら声をかけてくれるのです。採血する獣医師の姿や注射器は、視界から外れます。つまり、「注射器や獣医師が見えず、動物がストレスを感じることなく、怖がらない」が正解です。

愛玩動物看護師が国家資格となって幅広い知識を持つ学生が増えることは好ましいですが、それで動物に寄り添って考えることがおろそかになっては本末転倒でしょう。お尻が汚れていたらためらわずキレイにしたり、痛そうなところを触って「先生、ここを触ると痛がります」とアドバイスしてくれたり。愛玩動物看護師に大切なのは、学問的な理屈より飼い主さん目線で動物に寄り添う気持ちだと思います。

(カーター動物病院・片岡重明院長)

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