上腸間膜動脈解離…いつもと違う腹痛は命に関わる血管トラブルの危険あり

早めの対処が明暗を分ける

このところ、ちょくちょく軽い腹痛が続いているなと思っていたら、ある日、急に痛みが強くなり、胃潰瘍かもしれないと病院に駆け込んだら、命に関わるケースもある「上腸間膜動脈解離」と診断された……。都内でWebデザイナーの仕事をしている50代男性の体験談だ。どんな病気なのか。循環器専門医で東邦大名誉教授の東丸貴信氏に聞いた。

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命の危険がある血管トラブルというと、「大動脈解離」を思い浮かべる人が多いだろう。心臓から全身に血液を送り出す大動脈が突然裂けてしまう病気で、そのまま突然死するケースも少なくない。

心臓に近い上行大動脈で解離が起こると、心臓や脳へ血液が流れなくなることもあり、死亡リスクがさらに高くなる。この解離が、腹部にある上腸間膜動脈に生じるのが「上腸間膜動脈解離」だ。

「上腸間膜動脈は、十二指腸の下部から横行結腸(大腸の一部)の3分の2程度と膵臓に血液を送って、酸素や栄養を運んでいます。その動脈の壁が裂けると、偽腔と呼ばれる空間が生まれ、そこに血液が流入し、もう一つの別の血液の通り道ができてしまう。それにより、本来の通り道である真腔が圧迫されて狭くなります。真腔が潰れたり、血栓(血液の塊)ができて詰まってしまうと、血液が送れなくなり、広い範囲で腸の壊死を招き命に関わります。一方、真腔が狭くなっても、完全に閉塞することなく虚血を起こさないレベルにとどまっている状態であれば、予後は良好なケースが多い」

上腸間膜動脈解離の8割程度は、真腔が完全に詰まることなく虚血を起こさないパターンで、その場合は血圧管理、補液や絶食などによる保存的治療で経過観察になるケースが多いという報告がある。ただ、残りの2割では、真腔が詰まって急性腸管虚血を起こすため、迅速に血管内カテーテル治療や手術をして、血管を再開通させる治療が必要だ。治療が遅れれば、当然ながら死亡リスクは高くなる。

冒頭の50代男性は、幸いにも真腔が閉塞することなく血流が維持されていたため、一命を取りとめ、保存的治療だけで済んだ。3日ほど腹痛が続いた後、強い痛みが出た時点で近所のクリニックを受診し、すぐ急性期病院を紹介されて詳細な検査を受けたことが最悪の結果を避けられた一因になったといえる。担当医からは「ラッキーだった」と言われたという。

「動脈が解離を起こす主な要因は、高血圧、喫煙、高血糖や高コレステロールなどの生活習慣病による動脈硬化が挙げられます。今後は、日頃から血圧のコントロールと生活習慣の改善が大切です。また、上腸間膜動脈解離は他の動脈解離と合併するケースも少なくないため、大動脈や末梢の動脈の画像検査(造影CT検査など)をしっかり受けておく必要があります」

■一般的な検査ではわからない

50代男性のケースからもわかるように、上腸間膜動脈解離を起こした場合、早めの対処が明暗を分けるといってもいい。そのために心がけておくポイントはどこにあるのか。

「お腹や背中に痛みがあり医療機関を受診したとしても、上腸間膜動脈解離を疑われることはあまりないでしょう。上腸間膜動脈解離はドップラー超音波検査で血管を細かく診たり、造影CT検査を行わなければ正確な診断はできません。強い腹痛を訴える患者さんでも、単純CT検査か一般的なエコー検査で異常がなければ、胃薬や鎮痛薬などで済ませるケースも少なくないと思われます。ですから、患者側は自分の『痛み』について注意を払う必要があります。これまでに経験したことがないような強い痛み、長く続く痛み、あおむけで強くなる痛み、悪化する痛みがあるときには上腸間膜動脈解離や大動脈解離などの血管トラブルの疑いがあるといえます。そのような痛みがあれば医師に正確に伝えた上で、精密検査を依頼するといいでしょう」

もちろん、血管トラブルのリスク因子となる高血圧、高血糖、高脂血症といった生活習慣病を改善して、予防に努めることは大前提だ。

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