U30世代に政治参加を促す能條桃子さん「20代の国会議員が1人もいない。だから少子化対策もずれてしまう」

NO YOUTH NO JAPAN 代表理事の能篠桃子氏(C)日刊ゲンダイ

【注目の人 直撃インタビュー】

能條桃子さん(NO YOUTH NO JAPAN代表理事)

自民党の裏金事件で政治不信がますます進んだと言われるが、若い世代はこの惨状をどう捉えているのだろうか。投票率を見ても、10代や20代は低く、政治への関心は乏しい。いや、その方が都合がいいと政治の側が思っているのか……。U30世代にフォーカスして政治参加を促し、情報発信を続けるこの人に聞いた。

◇ ◇ ◇

──裏金事件をどう見ていますか。

自民党はこんなに反省しないんだって、びっくりしています。裏金を政治資金収支報告書に記載しなかった問題は最初の入り口で、やっぱり、資本(資金)を持っている人の意見を聞いてもらいやすい構造があるんだなと。例えば、裏金問題と同時並行で国会で審議されていた共同親権とか、入管法の改正で永住権を剥奪できる法案が通ってしまったりだとか、その議論には当事者がいない。一番困る人、実際に直面する人たちが軽視されている。なんでこうなっちゃうんだ、ということが結構あって、裏金問題がそれとつながっていると見てて思います。

■NPOもパーテイー券でロビー活動

──政治とカネのバーターみたいなものですね。

今、被選挙権年齢引き下げのロビーイング活動をしていますが、NPOの先輩たちなどに活動方法について聞くと、結局、パーティー券って言葉が出てきます。政治的なリソースをきちんと使って政策実現しているようなNPOの人たちも政治資金パーティーに行っている。私たちには、若いからそんなことやらなくていいよ、と言うのですが、もちろん別にやろうとは思いませんが、実際に企業に対抗するためにNPOでもパーティーがコミュニケーション手段のひとつになっている。良くないなと思います。

──そうした政治とカネの関係性が見えたのが今度の事件でした。政治のあり方で、他に疑問に感じることはありますか。

参入障壁がどんどん高くなっていき、当事者など多様な立場の人たちが議会に入れない現状がある。女性議員も少ないままだし、いろんな階層が代表されていない。年代も、ジェンダーも、経済状況においてもです。だから、政治が信用できない。信用できないから、税金を払うのも嫌だし、政治に関心も持てないし、投票にも行かない、という負の循環にあるのかなと見ています。

──若い人たちにとって、自分と政治との距離は?

NO YOUTH NO JAPANと日本総合研究所とで、2022年の参議院選挙の時に、5000人を無作為抽出した政治意識調査を行ったんです。結果を5つにタイプ分けし、一番多かったのが約4割の「らっカンガルー」タイプ。「今に満足。なんとかなるかな」という楽観的な人たちでした。その次は約2割の「ふあんシカ」タイプで、「将来不安。でも、自分が変えられるとは思えない」という人たち。私みたいに「政治を変えたい」と思っている「かえなキャット」は、全体の15%程度でした。同じく約15%が、「がむしゃラッコ」と名付けたんですけど、社会課題に直面しているものの、目の前の生活に精いっぱいで、関心を持って活動も行動もできない、という人たちでした。残りは1割弱の「むきりょクマ」。

──なるほど。「らっカンガルー」が一番多いんですね。

みんな漠然とした将来不安はあるけど、誰かがなんとかしてくれるかなと思っている。一方で、自己責任を内面化しているところもあって、だから、貯金したり、NISAをやったりしているんじゃないでしょうか。

──NO YOUTH NO JAPANの活動はデンマーク留学中に始めたんですよね。

5年前の2019年、21歳の時です。デンマークで若い子たちが、声を上げたら変えられる、と活動している様子にインスピレーションを得て始めました。

──デンマークの若い人たちの活動。具体的には?

私がいいなと思ったのはコミュニティーなんです。政治団体、ユースパーティーですね。選挙の時はこのユースパーティーから何人かを政党の候補者として出す。ただ、政党とは独立した運営をしていて、代表も20代、13歳から29歳が所属するので、若者と言っても年齢も幅広い。週に1、2回、事務所に集まって、ご飯を食べながら、どの政策に取り組むべきかとか作戦会議をして。ちょうど私がいた時にデンマークで政権交代があって左派系の政権になったんですけど、みんなが喜んでいた。聞いたら、若者のメンタルヘルス対策で7年くらいかけて活動していたことが政策として実現したと言っていました。これは私たちの課題だ、と政党を超えて柔軟に取り組んでいるのが、すごく面白いなと思いました。

■政治家が給食の時間に来て、ご飯を一緒に食べる距離感

──デンマークでは学校教育の中で、政治はあなたたちの身近なものですよ、と教えているから違うんですか?

それはあると思いますね。例えば、友達に「政治家と会ったことある?」と聞いたら、「なんで聞くの?」「会ったことない人いないでしょ?」みたいな反応でした。日本で中学生や高校生に同じ質問をしたら、「会ったことない」と答える人の方が多いじゃないですか。ところが、「普通に来るじゃん」みたいな感じで、いいなと思ったのは、授業とか講演会ではなく、給食の時間に来るんですよ。で、普通にご飯を一緒に食べる。私がいる間にも、首相や党首が来て、「日本から来ました」と言ったら、「日本に行ったことあるよ」とか言われて。こんなに身近なのかと。政治家が、自分の意見を伝えるためではなく、今の子が何を考えているか知りたいから話すために来ている。その距離感は、日本とすごく違うと思いました。

被選挙年齢の引き下げを

──どうしたら日本でも若者にもっと政治参加してもらえるのでしょう?

NO YOUTH NO JAPANの活動を5年やっている中で、最初はやっぱり若い世代が変わらないと政治も変わらないって思ったんですよ。でも、こんな政治を見て若い世代に関心を持てと言う方が無理だと、同時に思ったりして、行ったり来たりしているんですけど。「若者に責任がある」という語り方をしてても変わらないと思うので、今、私たちが最も力を入れているのは、25歳や30歳にならないと選挙に出られないという被選挙年齢を引き下げることです。

──選挙権は18歳からになりました。被選挙年齢もそこまで下げたい?

20代の国会議員が、今一人もいないんですよ。なのに少子化対策とか言ってて。だからずれたことになってしまう。多様な若い人たちがいると想定するには、若い人や女性が、何人も入っていないと議論にならない。当事者不在の政治を解消する必要が、国政でも地方議会でもあると思います。

──少子化対策では、東京都のマッチングアプリもずれてませんか。

マッチングアプリで結婚する人はすでにその存在を知っているから、東京都がつくっても意味がないですよ。本来、本気で少子化対策をやろうと思ったら、見なきゃいけないのは10代後半から20代、30代くらいの人たちのはずなのに、その人たちはあくまで客体であって、主体ではない。主体は、少子化対策をビジネスにしている事業者なわけじゃないですか。結局、市場経済の中での事業者主体の少子化対策になっているんです。

■出会いではなく経済の問題

──どうしたらいい?

もっと若い人たちが生きやすい社会にしてほしい。貯金しないと不安で、年を取るのも不安。子供を持つのも不安。だから自分で準備する。でも、これだけ中学受験が過熱してしまうと、少しでも自分が親にしてもらった状況より良くしたいと望んでも、できないなと思う。子供の数が減っていくのも、そうだよなと思うんです。だったら、公立学校をもっとよくするとか、いま奨学金を抱えて返済している人たちの負担を軽くするとかしてほしい。東京の家賃が高すぎて、もう一人暮らしできないんです。でも、するしかない。そうしたら、可処分所得が減って暮らせないから残業する。その結果、外に遊びに行く時間も精神的な余裕もないから、出会う時間もない。必要なのは、出会わせるところじゃなくて、経済の問題が大きいと思います。若い人たちだけで話したら、こんな話ばっかりですよ。

(聞き手=小塚かおる/日刊ゲンダイ)

▽能條桃子(のうじょう・ももこ) 1998年、東京都生まれ。慶応大学大学院経済学研究科修士卒。2019年、若者の投票率が80%を超えるデンマークに留学し、「NO YOUTH NO JAPAN」設立。インスタグラム(フォロワー約10万人)で選挙や政治についての発信、自治体・企業・シンクタンクとの協働などを展開中。22年、政治分野のジェンダー平等を目指し「FIFTYS PROJECT」立ち上げ。2つの一般社団法人で代表理事。同年、米誌「TIME」次世代の100人に選出。

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