【コラム・天風録】新しい時代の紙幣

 新しい1万円札の上で「日本の資本主義の父」が顔を曇らせてはいないか。1ドル=161円前後の今、渋沢栄一のお札は初代大統領ワシントンの肖像を使う1ドル札60枚余りになる。20年前、前任の福沢諭吉はワシントン90人分もあったのに▲円の価値が下がっている中で新紙幣が出回り始めた。まだ懐に舞い込んでこないが「金は天下の回りもの」である。いずれお目にかかったら、偽造防止のために盛り込まれたという最新技術をじっくりと眺めてみたい▲岸田文雄首相が評していた。「新しい時代にふさわしい紙幣だ」と。だが新しい時代とは、キャッシュレス社会ではないのか。支払いはカードや携帯などを「ピッ」とやって済ませる。紙幣はどんどん出番がなくなりそう▲「現金は誰でもいつでもどこでも安心して使える」。日銀の植田和男総裁の言葉もどうか。最近は現金お断りの施設が出てきた。消費者のキャッシュレス決済は4割近い。政府が来年までに掲げた目標でもあるはずだ▲財布を持たない人が増えているらしい。今回の新紙幣が最後になるのでは、との声も。景気がよくなって世の中にお金が回れば、新札3人衆の存在感も少しは増すかもしれない。

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