【弁護士が回答】W杯観戦ツアーなのにチケットがない!慰謝料は請求できる?|旅のトラブルFAQ

旅行中のトラブルは予期せぬ瞬間に楽しみを奪ってしまうもの。突然起こるさまざまな問題に対して、適切な対処法を知っておきたいですよね。経験豊富な弁護士が、あなたの旅を守る解決策をアドバイス。今回は、サッカーワールドカップ観戦ツアーでのトラブルに関するよくある質問「FAQ」に回答します。

4年に1度の貴重な試合を海外で観戦するツアー

4年に1度開催されるサッカーのワールドカップ。普段あまりサッカーを見ない人でも注目する大イベントであり、サッカーファンなら、開催地で直接見たいと思うのも当然でしょう。今回は、サッカーワールドカップ観戦ツアーに申し込んだものの、チケットが入手できていなかった場合のトラブルについて、アディーレ法律事務所の佳山亮子弁護士が解説します。

試合のチケットが取れなかった場合、全額返金される?

Q. サッカーワールドカップの観戦と現地観光の付いたツアーを申し込みました。出発前日に、旅行会社からサッカーのチケットが入手できていないと連絡があったのですが、支払い済みのツアー代金は全額返金してもらえますか?

A. 楽しみにしていたワールドカップの観戦ができないということになり、とてもショックですよね。結論から言うと、チケット代金や旅行代金を返すよう求めることは可能です。

旅行会社とチケット購入者(顧客)の法律関係を説明すると、やや難しい表現ですが、旅行会社は顧客に対して決められた日時・場所で、サッカーを観戦させるためにチケットを取得するという「債務」を負います。顧客は旅行会社に対し、その対価としてチケット購入代金を支払うという「債務」を負います。

通常、チケット代金は前払いなので、顧客の債務はチケット購入時にはすでに完了された状態(履行)となっているはずです。そうすると、残るは旅行会社の債務だけです。

民法では、契約当事者双方が対価的な債務を負っている場合、当事者双方いずれの責任でもない事情で一方の当事者が債務を履行することができなくなった場合、公平の見地から他方の当事者の債務も消滅するとされています。これを「危険負担」といいます。

このため、台風や地震など旅行会社の責任とはいえない理由でサッカーの試合が中止となり、チケットを取得する債務を履行できなくなった場合、他方の当事者の債務、つまり顧客のチケット代金の支払い義務も消滅することになるのです(民法第536条第1項)。

通常、チケット代金は先払いされているものと思われますが、チケット代金の支払い義務の消滅で、旅行会社が受領した代金は法律上原因のない利得になるので、顧客は不当利得返還請求として旅行会社にチケット代金を返すよう求めることが可能です。

また、顧客は、主催者の帰責事由の有無にかかわらず債務の全部が履行不能になったとして、イベント参加契約を解除することができます(民法第542条第1項第1号)。そのため、顧客から契約の解除がなされた場合には、主催者に支払い済のチケット代金についての返金義務が生じます。

つまり、チケットが取れなかった時点で、ワールドカップの観戦ができない=ツアーに参加しないということになれば、顧客は旅行会社にツアー代金を返金するよう求めることができますし、旅行会社はツアー代金を返金する義務があるのです。

慰謝料は請求できる?

Q. この場合、損害賠償を請求できますか?

A. 本件では、出発前にチケットが取れないとわかったということなので、返金はされますし、交通費や宿泊費等の損害は発生していないということになります。そこで、請求するとすれば精神的損害、すなわち慰謝料の請求になるでしょう。

まず、チケットを取れなかった理由が不可抗力の場合は、旅行会社に落ち度がないので請求することは難しいです。

一方、相手方に故意があって詐欺罪が成立するようなケースでは慰謝料を請求できるときがありますが、相手方にチケット取得について不手際がある等、過失があるにすぎない場合は、慰謝料請求をすることは難しいといえます。

本件でも、顧客にサッカーワールドカップに対する特別な思いがあり、旅行会社もそのことを知っていてあえてやったというような特別な事情のない限り、慰謝料請求は難しいでしょう。

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