夏の補強で明言。「CBは大きなポイントの1つ」。知念のボランチ起用には「正直言ってビックリしました」【吉岡宗重FDインタビュー①】

「常勝軍団復活」を掲げ、今季からランコ・ポポヴィッチ監督率いる新体制で再出発した鹿島アントラーズ。リーグではここまで21試合を消化して11勝5分5敗の勝点38で2位につけている。

シーズン折り返しの19節時点では同37で、首位のFC町田ゼルビアに2ポイント差まで肉薄していたが、直近2戦で勝点1しか取れなかったことで、再び5ポイント差に広げられている。

それでも、クラブの強化責任者である吉岡宗重フットボールダイレクター(FD)は「今年は(2016年以来の)リーグタイトルの大きなチャンス。ここから後半戦をどう戦っていくかが重要だ」と気を引き締めている。

「今季前半は首位ターンしたいと考えていましたが、2位というのは今後の伸びしろを含めてまずまずというところ。監督が変わり、新体制でスタートしたチームとしては悪くない位置にいると考えています。

内容を分析すると、攻撃面は改善していると見ています。ポポヴィッチ監督にオファーした際、攻撃の迫力を引き上げ、(鈴木)優磨以外のところからも点を取れるようにしたいという部分を強くお願いした。

その結果、2人目、3人目の動きを出しつつ、組織的に崩してゴールできるようにはなってきました。2列目の選手の得点力を上げていかなければいけないのは事実ですが、優磨1人だけに頼ることなく、いろんな選手が関わってゴールできる集団になってきたのは事実です。まだ未完成ではありますが、総得点34という数字を踏まえても、アプローチの成果が表われていると感じます。

一方で、前半戦ではゲームコントロールという課題に直面しました。東京ヴェルディ戦(3-3)、浦和レッズ戦(2-2)などが象徴的でしたが、勝てる試合を勝ち切れないというのはチームとしての大きな問題点。総失点25というのもタイトルを目ざすうえでは多すぎますし、そのあたりは今後修正していかなければならないと現場とも共有しています」と、吉岡FDはハーフシーズンを総括する。

とはいえ、今季前半の鹿島はチーム編成にバラつきがあり、綱渡り状態でここまで来たという印象も拭えない。特に守備陣は手薄感が否めない。

センターバックは植田直通と関川郁万が出ずっぱりで、3人目の津久井佳祐はほぼベンチ外。ポポヴィッチ監督はいざという時には佐野海舟を下げていたが、彼はドイツ1部・マインツ移籍が正式決定したため、ここから先はこの対処法は難しくなる。

サイドバックにしても、大卒新人・濃野公人の成長、安西幸輝のコンスタントな活躍は評価できるが、人材が足りないのは確か。佐野が抜けるボランチ陣にしてもテコ入れが必要で、そのあたりは吉岡FDも認めている点だ。

「昨季終了時点で昌子源(町田)や広瀬陸斗(神戸)が移籍し、外国人選手も契約満了になりましたが、大きく動かなかったのは、『今、いる選手たちをまずはしっかり伸ばしたい』という意図があったからでした。そこはポポヴィッチ監督にも就任前から伝え、しっかりと認識してもらっていました。

その中で、センターバックに関してはヨシプ・チャルシッチを獲得するはずだったのですが、メディカルチェックで問題が発生し、契約締結を見送ったという経緯がありました。その後も移籍期間が3月まであったのですが、最適な選手が見つからなかった。無理に補強することでお金を無駄遣いするのではなく、適性なコストで戦った方がいいという考えもあって、そのままで行くことになりました。

実際、植田も関川も素晴らしい選手で、非常に良い働きを見せていた。彼らには感謝しています。ただ、夏には動いて、現状を改善していくつもり。センターバックは大きな補強ポイントの1つだと捉えています」と、吉岡FDは7月以降にアクションを起こすことを明言した。

【PHOTO】ゴールのために勝利のために声を出す鹿島アントラーズサポーター(Part1)

そういうなかでも「現有戦力の能力を最大限伸ばすのが基本」という考え方は変わらないという。その方向性で、今季は知念慶のボランチへのコンバートというサプライズも見られた。

ご存じの通り、知念はもともとFWで、2022年に鹿島入りしてからもずっと最前線を担ってきた。その選手が今季J1でデュエル勝利数90回を記録。2位の中野就斗(広島)の60回を大きく引き離してダントツなのだから、誰もが驚いて当然だ。彼が中盤で獅子奮迅の働きを見せていなかったら、今季の鹿島が2位に躍進することもなかったはずだ。

「宮崎キャンプで柴崎(岳)が怪我をした時、ポポヴィッチ監督が『知念はどうか』と言ってきた時、正直言って私もビックリしました。ただ、彼は大分トリニータ時代に家長(昭博/川崎)をボランチで使った経験があった。そのイメージも重ねながら『知念をボランチで使ったら面白い』と考えたのかもしれません。

知念自身も『監督が本気で考えてくれるならチャレンジしたい』と最初の練習試合の翌日に私のところに言いに来た。あの時の真剣な表情は今も脳裏に焼き付いています。『やれると思っているから監督も使うんだ』と返しましたけど、それからの彼はものすごく前向きに取り組んでくれた。その貪欲さで不慣れな役割をものにしたんだと思います。

知念のボールを奪い切る力というのは、今では本職の選手を上回るレベルに達している。私もJリーグに長く携わっていますが、こういう例はあまりない。ただ、見る側の発想次第で活きてくる選手はいる。彼を間近で見て、そのことを改めて感じました」と吉岡FDはしみじみと語る。

ポポヴィッチ監督にしてみれば、大分で共闘していた吉岡FDとは考え方や感覚のすり合わせが容易なのだろう。現場と強化部門の意思疎通がスムーズでなければ、勝てるチームは作れない。その風通しが良くなったことが、今季の1つの変化だと言っていい。

※第1回終了(全3回)

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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