今の戦争を詠む

 「映像でしか見ることができない戦争をいかにして自分の身体に引き付けて歌うか」。日向市東郷町出身の歌人吉川宏志さんが、宮崎市で先日開かれたシンポジウムで、現代短歌の重要テーマとして語った。
 最新歌集「雪の偶然」が短歌界最高峰の迢空(ちょうくう)賞を受賞後、故郷で初めてのイベント参加。若山牧水賞受賞者でもある現代短歌の旗手の思考や心情に触れる貴重な機会となった。ロシアのウクライナ侵攻が詠まれた歌集への質問に応じる形で、冒頭の課題に触れた。
 〈ミサイルの飛ぶ下に明日の肉を買う亡きのちは部屋のなかに腐らむ〉は、戦地に身を置き日常を記録したような生々しい描写。小紙に先日掲載した迢空賞受賞インタビュー特集で自身が語ったように、想像の力によって戦争の当事者に近づこうとする試みが読み取れる。
 一方で〈縦の空に黒き煙はのぼりゆくスマホに撮りしをスマホに見たり〉は、日本で日常に身を置く自分を俯瞰(ふかん)しているようにもとれる。市民が撮った戦火の映像を世界中の誰でも即座に目にすることができる現代の戦争から、いったい何を感じ取っているのか。鋭く問いかけられている気がする。
 吉川さんの課題意識は取りも直さず、今を生きる私たちが探す答えでもある。無差別攻撃から逃げ惑い、泣き叫ぶ人たちやがれきと化したまちの映像を見て、悲しみ、憤ったその先で何ができるだろう。三十一文字にはまとまらない問いが頭の中を浮遊する。

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