大っぴらなごり押し

 「まことにごもっとも」の間違いだろう。旧大蔵省の、ある局長が国会で答弁に立った。「先生のおっしゃることは、まことにご無理ごもっともで…」▲「無理ごもっとも」は〈無理と知りつつ従うこと〉を指す。言い間違いの中に「むちゃなことを言いやがって」という局長の本音が漏れたようにも思える▲間違っても「ご無理ごもっとも」とは言えない場合もある。今の健康保険証は12月2日に廃止され、マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」に切り替わる。これほど大っぴらな“ごり押し”を他に知らない▲今の保険証を12月以降、最長1年間は使えるようにしたりと、混乱を避ける手を打つというが、マイナ保険証しか使えなくなる時がいずれ来る。「任意」のはずのカード取得が「強制」に変じた▲個人情報が別人にすり替わるミスが続き、マイナ保険証の利用率は6%台。カード保有率は70%余り…。「ご無理ごもっとも」と国民が受け入れた様子はない▲言い間違いをもう一つ。「恐れ入ります」と「申し訳ありません」がごっちゃになって「恐れ入りません」。国は「恐れ入りません」と突き進むが、国民のしかめっ面に恐れ入るべきだろう。今の保険証との併用を数年は認めたりと、もっともな道を選ぶ余地は、まだある。(徹)

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