“警察マニア”が偽造アイテムで職務質問… 趣味の域を超えた”なりすまし”に待ち受ける「残念過ぎる」末路

警官コスプレによるなりすましも”違法”だが、警察手帳の偽造はさらに罪が重い(mits / PIXTA)

自称「警察マニア」の男(26)が6月26日、関連アイテムを偽造し、職務質問を行うなどで奈良県警西和署に逮捕された。公記号偽造・不正使用の疑い。

男は警察手帳のレプリカをネットで購入。「大阪府警」と刻印されたプレートを貼り、偽造した警察手帳を掲示し、私服警察官として職務質問をしたとされる。

なりすまし警官に職務質問された男らは、「本物と思っていた」という。報道によると、警察の調べに対し、容疑者の男は「警察マニアとしての欲求を満たすため、警察手帳を偽造し、職務質問をした」と話し、容疑を認めている。

警官コスプレが罪に問われるケース

憧れだけで抑えきれず、警察になりすました末に、警察のお世話になった容疑者。実際のところ、警察官になりすました場合、どのような罪に問われるのか。大阪府警に入庁し、行政職員として勤務経験もあり、刑事事件でも実績豊富な堀田和希弁護士に聞いた。

「警官のなりすましは軽犯罪法1条15号後段に違反するとして処罰を受けることになると考えられます」と堀田弁護士。

指摘の通り、同条文には「資格がないのに法令により定められた制服や勲章、記章その他の標章、もしくはこれらに似せてつくった物を用いる行為を禁止」と記されている。

警察手帳の偽造がより重罪な理由

「ただ、今回のような警察手帳の偽造は、『警察手帳という官憲の身分証明書に対する信頼』を損なうものであるため、単なる警官のコスプレと比較するとより悪質と考えられます。だからこそ、軽犯罪法違反ではなく、公記号偽造・不正使用罪(刑法166条)で厳重に処罰されています」(堀田弁護士)

今回、容疑者の男は職務質問の際、私服警官を装ったようだが、もしも偽造した警察手帳を用いず、制服のコスチュームを着用して職務質問した場合、どんな罪に問われていたのか。

「警官のコスプレで職務質問をするなどの行為は、軽犯罪法1条15号後段に違反するとして処罰されます。制服を着用して公道を歩くその人を警官と信じて相談などしてしまう人が出てきますので『警察官の制服に対する一般人の信頼』を損なう可能性があるからです」と堀田弁護士は解説する。

警察官風のコスプレ用コスチュームは、ネットなどでも販売されており、入手は簡単だ。だが、着用が許されているのはあくまでも自宅やイベント会場などのプライベート空間のみ。マニアなら、一線を越えないことを嗜(たしな)みと心得ていなければいけないだろう。

警官なりすましで問われる罪

今回の容疑者のようにどうしても欲求を抑えきれず、警官のアイテムを悪用し、なりすまし行為を行うと、その代償としてさまざまな犯罪に問われる可能性が出てくる。

「警官を装って金品を受け取った場合は詐欺罪(刑法246条1項)、金品を脅し取った場合は恐喝罪(同249条)、人を捕まえた場合は逮捕罪(同220条)、『逮捕する』などと単に脅した場合は脅迫罪(同222条1項)、『見逃す代わりに●●しろ』等と言って意に沿わない行為をさせた場合は強要罪(同223条1項)などといった罪が成立し得ます」(堀田弁護士)

マニアなら、よりリアリティーを追求したくもなるだろう。現役警察官が小遣い稼ぎのために制服を売却した事件もあったが、本物の警官の制服が一般の人の手に渡ることはあり得るのか。堀田弁護士は次のように説明する。

「基本的に不可能だと思います。警官の制服は支給品にはなりますが、条例で使用期間が定められているため支給数が厳格に管理されていますから」

条例とは「警察官に対する被服の支給及び装備品の貸与に関する条例(規則)」で、警官制服の支給数や使用期間、支給方法、退職時の措置、賠償責任等が定められている。

最後に、堀田弁護士は、次の言葉を送り、”警察マニア”を戒めた。

趣味の範囲を超えた先にあるのは「真逆の存在」

「警官に憧れてコスプレをすること自体は悪いことではないと思います。ただ、コスプレを楽しむ場合は自宅やイベント会場などプライベートな空間だけにしましょう。公の場で警官のまね事をすれば犯罪者となり、警官とは真逆の存在になりますのでご注意ください」

ちなみに、容疑者が捕まったのは、別件の運転免許偽造による捜索がきっかけだった。警官にあこがれるなら、真逆の存在として精を出すのではなく、治安維持に奮闘するそのあつい志をまねる気概も持ってほしかったところだ。

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