仕事で悩む若者は適応障害なのか 【第17回】バブル崩壊、リーマンショック、就職氷河期と経済の変化に襲われる若者たち。資本主義経済の成長が足踏み状態のなか迷走する働き方と労働者

第6章 働くことは複雑になっている

働くことの変化

このような状況に会うと、まず若者の精神的な状態や変化に目が行ってしまいます。若者が弱くなったのではないか、甘えているのではないか、新世代なのではないか。

今はZ世代などと言われています(1990年代後半から2012年頃までに生まれた世代で、デジタルネイチャー、スマホやSNSが生まれた時から当然のようにあった世代を指しています)が、戦後ずっと新人類、ゆとり世代等々、これまでと違う感覚を若者に感じると名前をつけていたように思います。

しかし若者が勝手に変わるわけではありません。大きな社会の流れがありますが、働くことに関しても大きく変わってきています。特に最近は今までにない変化を見せています。

戦後の働くことの変化を大雑把にとらえてみますと、敗戦後生きること食べることに精いっぱいで、国を再興し、皆が食べられるよう生活していけるようにするのがまずもっての目標でした。

産業を再興し外地から帰ってきた人たちにも職を与え、生活して行けるように賃金を支払う、まさに生活給です。そして保障としての終身雇用。家族は男性の働き手と妻と子どもと老親というセット。年金も充実していなかったので高齢者の扶養も含まれていました。

そして国としての復興は資本主義社会としての再建であり、経済の復興を目指すために男性は戦士のように働き、妻は銃後の守りで家庭を守ることが期待されました。まさに時代の要求です。

そしてその努力は実り高度経済成長に突入します。生活は豊かになりましたが、多くの人が都市に集中し、地方の過疎化や公害など多くの問題も生み出していきました。

人口の都市集中が起こると、サービス業、小売業、外食産業などのサービス労働の需要が増大します。農林水産業や工業などの基幹産業からすると周辺的な産業でありますが、都市はサービス産業を膨大に必要としていきます。パートやアルバイトの仕事が増えます。

当初パートやアルバイトは主婦や学生のするもので、扶養範囲内(年間の収入が130万円以下が目安)が基本でした。それだけで生活していこうという人はほぼいませんでした。

ところが高度経済成長の夢を打ち砕くようにバブル崩壊、リーマンショック、それに続く経済の変化が襲います。若者も就職氷河期などと言われ、大学は出たものの就職できない事態を生んでいきました。これまでの働き方、雇用のあり方が揺らぎ始めます。

生活給―終身雇用のモデルも限界を見せ始めました。すでに核家族、単身世帯の増加は始まっており、一人の男性労働者が妻子や老親を養うようなモデルですべてをくくれなくなっていました。

そして会社も大変になると労働者のコストを下げようとするので、中高年に今までと同じように高い給与を払うのはどうだろうと能力主義などを取り入れる動きにもなりました。

資本主義が軋(きし)んできても根強い正社員信仰

そして現代に至り多くの軋みを呈しながら今なお変化しつつありますが、大雑把に2点だけ触れさせていただくと、ひとつは大きな経済の問題があります。

資本主義経済はこれまでのように成長せず、持続可能な成長、すなわちわずかでも成長することを掲げなければならなくなりました。SDGsや脱成長など、資本主義経済について修正が必要であることは時代の趨(すう)勢です。

確かにもう高度経済成長は来ないし、今までのように儲からないことはたぶん誰もが気づいていると思います。しかしこれまでのように儲けようという姿勢からはあまり変化はありません。

働き方改革のように労働者を少なくして効率よく働いてもらおうという楽観的な考えもありましたが、そううまくも行かない。むしろ少ない労働者の労働が過重になる傾向にあります。


※本記事は、2022年9月刊行の書籍『仕事で悩む若者は適応障害なのか』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。

© 株式会社幻冬舎メディアコンサルティング