『ルックバック』大ヒットスタートも、「ODS作品」としての公開に残る謎と疑問

6月最終週の動員ランキングは、『それいけ!アンパンマン』シリーズの劇場版最新作『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』が、オープニング3日間で動員13万7000人、興収1億7200万円をあげて初登場1位に。劇場版1作目が製作されてから35年目、35作目にしてシリーズ歴代オープニング興収更新というのは十分にニュースではあるのだが、今回は同日に公開されて、『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』を大きく上回るオープニング興収を記録した『ルックバック』を取り上げるべきだろう。

『チェンソーマン』を世に送り出した人気漫画家、藤本タツキの読み切り作品をスタジオドリアンの押山清高が監督を務めアニメーション作品化した『ルックバック』のオープニング3日間の動員は13万5000人、興収は2億2700万円。注目すべきはそのスクリーン数だ。『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』が全国319スクリーンでの公開に対して、『ルックバック』はその約3分の1の全国119スクリーン。それでほぼ同じ観客数を動員して、5000万円以上高い興収をあげたことになる。

『ルックバック』が効率のいい収益をあげているのは、上映時間が58分と短いことから1スクリーン当たりの上映回数が多いのと、ODS作品特別料金として鑑賞料金を1700円に均一しているから。しかし、通常ODS作品として公開されるアニメーション作品は上映期間や上映スクリーンが限定されていたり、上映中の物販で同作品のBlu-rayソフトを販売したりすることが多いが、『ルックバック』の上映形態は配給のエイベックス・ピクチャーズが「ODS作品である」というレギュレーションを選択している以外、観客にとって特に他の作品との違いはない。それどころか、大ヒットスタートを受けて、7月5日(金)からは12スクリーン追加されて、公開規模が131スクリーンまで拡大されることが早々に発表された。

しかし、ここで誰もが思うのは「だとしたらODS作品である理由とは?」ということ。既に作品を観た人なら承知の通り、本作の58分という上映時間は原作に対して過不足のない適切なものであり、作画にも恐ろしく手間と時間のかかる方法が取り入れられていて、一本の映画としての満足度は非常に高い作品となっている。だからこそなおさら、「映画」と「ODS作品」の境目について困惑させられる観客も多いのではないか。1700円という鑑賞料金は一般料金よりは安い「絶妙」な設定ではあるが、結果的に平均単価よりも高い鑑賞料金となる以上、配給元はその根拠を明示した方がいいと思うのだが。

また、これは実際に作品を観るまで自分も知らなかったが、本作の冒頭には近年『Saltburn』(日本では配信公開)、『アメリカン・フィクション』(同じく日本では配信公開)、『チャレンジャーズ』などの話題作を立て続けに送り出しているAmazon MGM Studiosのオープニングロゴが映し出される。これはPrime Videoで全世界配信されることを示唆するものだが、その配信時期などについても現在のところ明らかにされてない。今作と違うケースではあるが、今年3月と5月に「前章」と「後章」の2部作として日本で劇場公開されたアニメーション作品『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』は、北米では5月から18エピソード(+エピソード0)のテレビシリーズとして再編集されてアニメーション専門のプラットフォームCrunchyrollで配信されている。

日本のアニメーション作品の人気の広がりを受けて、今後もこうした海外の配信プラットフォームの作品への参入は増えるだろうし、その際、日本ローカルと海外での展開に違いがでてくることも増えていくだろう。特に作品の配信時期に関しては、劇場での興行にも直接影響する問題なので、戦略的に情報を小出しにするのは理解できる。しかし、今回の『ルックバック』のように「ODS作品としての公開」という選択をするならば、事前にもう少しだけ情報の開示があってもいいように思う。

(文=宇野維正)

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