「バイデンはトランプを暗殺しても法的にはOK」… 大統領の免責をめぐり最高裁が異例の判決

「ジョー・バイデンがドナルド・トランプを暗殺するのは法的にOKだと最高裁」

米の有力ニュースサイト「ハフポスト」(英語版)1日の記事見出しである。

この日、米連邦最高裁では、2021年1月6日に大統領選挙の結果を覆そうとして暴徒が連邦議会へ乱入し、一時占拠した事件で起訴されたトランプ大統領(当時)について、「大統領は、その公的な行為に関しては免責される」という判断を示した。

米大統領は刑事責任を免れうると連邦最高裁が宣言したのは米史上初めてで、判事9人のうち3人が反対したが、その一人ソニア・ソトマイヨール判事は判決文に少数意見として以下(抜粋後半)のように付記している。

「本日の判決がもたらす長期的な影響は甚大である。裁判所は事実上、大統領の周辺に無法地帯を作り出した。建国以来の現状を覆すものである。

国家の利益よりも、自分の利益、自分の政治的存続、あるいは自分自身の経済的利益を優先させようという大統領にとって、この新しい公権力の免責は「弾丸を装填した武器」のようなものになった。

大統領は米国で最も権力を有する人物である、世界で最強の権力者かもしれない。その大統領が公権力を行使する場合、多数派(賛成派)の理屈によれば、大統領は刑事訴追を免れることになる。ネイビーシールズ:チーム6(米海軍の対テロ特殊部隊)に命じて政敵を暗殺させる?免責だ。権力を維持するために軍事クーデターを企てる?免責だ。恩赦のために賄賂を受け取る?免責だ。免責、免責、免責。

多数派は、たとえ大統領が法を犯し、私利私欲のために職権を利用し、公権力を悪事に行使させたとしても、大統領がいつか法律違反の責任に問われる可能性があることを知れば、私たちが懸念するほどに大胆不敵にはならないという。

このような悪夢が実現しないとしても、大統領と彼が支えるべき国民との関係は取り返しのつかないほど変化する。

公権力のあらゆる行使において大統領は、今や王なのだ。

(中略)

我が国の歴史において、大統領がその職権を行使して犯罪に及んでも、刑事責任を免れると信ずるに足る理由があったことはない。しかし、今後は全ての大統領経験者もそのような免責特権を与えられることになる。その職権を私利私欲に悪用した場合、私たちが守らなければならない刑法は私たちの後ろ盾にはならないのだ。私たちの民主主義の行方を憂慮し、この判断に反対する」

「ハフポスト」の記事は、このソトマイヨール判事の意見を元に、今回の最高裁判断がいかに危険なものかを論じたわけだが、これに対して保守派から当然反対論が出てきた。

判決が米政界に劇的な変化を呼び起こすか

「ハフポスト、最高裁判決をめぐり米国史上最も危険な記事見出しを掲げてFBI(連邦捜査局)に訴えられる」

保守派のニュースサイト「ウエスタン・ジャーナル」2日の記事見出しである。

記事は、最高裁の判断は「大統領が公的な立場で行動を起こした場合、現在、民主党の工作員がトランプ氏に行っているような脅迫と報復の戦術(91件の刑事訴追のことか)を恐れる必要がないことを保証したもの」で、それを拡大解釈して「トランプを暗殺できる」とするのは極めて危険であり、事実、SNSでFBIに「ハフポスト」を訴えるものがあると指摘する。

「ハフポスト」の見出しは確かに過激だが、「政敵を暗殺しても罪に問われない」というのは今回の審議に関わった判事が、少数意見とはいえ判決文に付記したことなので非難しにくい。

今回の最高裁判断は、2024年の大統領選挙への影響ばかりでなく、米政界に劇的な変化を呼び起こすことにもなりかねない。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

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