なぜこれほど憎しみにみちた中国人が多いのか?靖国落書きや園児殺害予告など相次ぐ「反日」事件と「ヘイト教育」

6月24日、中国蘇州市の日本人学校のスクールバスが刃物を持った男に襲われ、日本人の母子がケガをし、案内係の女性が亡くなった。犯人の動機は明らかにされていないが、日本人を狙った犯行の可能性も否定できない。

日本では5月以降、中国人が靖国神社に落書きしたり、幼稚園児の殺害をほのめかした中国人が逮捕されるなど「反日」と関連する事件が相次いでいる。

なぜ、このような憎しみにみちた中国人が多いのか。それは、中国共産党が行ってきた「現代中国の苦しみはすべて外敵のせい」という「ヘイト教育」と大きく関係する。

以下の文章は、東京大学のある中国人訪問学者が執筆し、東京大学大学院の阿古智子教授が翻訳したものを編集した記事である。

憎しみに満ちた中国人たち

2024年5月から6月にかけて、在日中国人に関する2つの注目すべきニュースがあった。一つは中国人留学生が日本の幼稚園児をナイフで殺すと脅したというもので、もう一つは中国人のブロガー「鉄頭」が靖国神社で放尿の場面を生中継したというものだった。

この二人の中国人に共通しているのは、非礼で暴力的、そして野蛮であるということだ。

不幸なことに、このような憎しみに満ちた中国人の存在はこれが初めてでも最後でもなく、今後もさらに増える可能性がある。

日本の読者の慰めになるかどうかわからないが、この憎むべき中国人たちは、中国人自身に対して、もっと野蛮で非礼で有害なのだ。

2022年8月に、蘇州市の淮海街で着物を着てコスプレをした女性と撮影者を、警察が「騒乱挑発罪」で告発した。「騒乱挑発罪」は、中国では「ポケット罪」とも呼ぶ。なんでもかんでも突っ込めるという、乱用されやすい罪ということだ。上層部が「好まない犯罪」もこの「ポケット」に入れられている。

2022年8月17日、中国人ジャーナリストの長平氏はドイツの国際放送「ドイチェ・ヴェレ」のウェブサイトでこの件について、このようにコメントしている。「蘇州の警察が発したこのシグナルは、人々に大きな影響を及ぼしている。そのシグナルとは、反日反米の意識を高めるべきであり、立場を誤ると問題が大きくなる可能性がある。これは暴力と脅迫に基づく”再教育”の典型的な事例だ」

同じく2022年、河南省出身のレンガ職人、蔡洋氏が10年の刑期を終えて釈放された。 10年前の2012年9月15日、21歳の蔡洋氏は西安の「抗日デモ」に参加した。当時、このようなデモは中国各地で行われ、やがて暴動に発展し、多くの日本製品が破壊された。

蔡洋氏も「愛国者」として街頭に飛び出し、通りかかったトヨタ・カローラに襲いかかった。車の所有者の李建利さんは、息子の結婚式と新居の内装用の建築資材を購入するため、妻、息子、息子の婚約者を車に乗せて建材店へ向かっていたところだった。蔡洋氏は金属製のU字ロックを李さんの頭に叩きつけ続けた。李さんは頭蓋骨陥没による脳挫傷で半身不随になった。

蔡洋氏には懲役10年と罰金50万元(当時のレートで800万円以上相当)が言い渡された。蔡洋氏の両親は河南省の農民で、貧しい生活を送る家族はいまだにこの賠償金を支払うことができない。

「反日」と「愛国心」のせいで、普通の2つの家庭が多大な被害を受けたのである。どうしてこうなるのか?

「現代中国の苦しみはすべて外敵のせい」というヘイト教育

この事件の背景にはもう一つ考えさせられる問題がある。この年、多くの都市で「反日デモ」が発生し「集団が自発的に」と報じられた。中国では、自分の権利のためにデモに参加することは不可能だろう。着物を着ていても警察に取り上げられてしまうのに、なぜ複数の都市で大規模な「自発的」デモが行われるのか?

当局が黙認したのか、あるいは参加するよう働きかけているのにちがいない。

この種の黙認と働きかけについて、2006 年の時点ではまだ公に議論することができていた。2006年、学者の袁偉時氏は北京青年報の週刊誌「氷点」に「近代化と歴史教科書」という文章を発表した。

「1970 年代後半、反右派闘争、大躍進、文化大革命という 3つの大きな災難を経験した後、これらには根源的な原因があるということを痛感した」「私たちはオオカミの乳を飲んで育った。20年以上経って、私は偶然中学校の歴史教科書をめくって驚いた。10代の若者たちはまだオオカミの乳を飲んでいるではないか!」

ここでいう「オオカミの乳」とは、憎しみを植え付ける教育であり、歪曲され、偏った歴史を若者に教え込む誤った歴史観である。簡単に言うと、この「歴史観」は過去100年にわたる現代中国人の苦しみはすべて外敵のせいだと説明している。

1911年以前の清政府であろうと、1949年以降の中国共産党政権であろうと、中国は輝かしく、偉大で、正しいのだ。したがって、中国共産党当局を愛していないのなら、非愛国者であり、国の敵であり、「大衆」によって暴力的に扱われ、肉体を滅ぼされることだってあるかもしれない。そしてひとたび「愛国的」になる理由があれば、たとえ野蛮であっても正義となる。

中国が問題を抱えているのは、凶悪な「外敵」が多すぎるからだ。中国が植民地化されていた時代、「外敵」は確かに高貴なものではなかったが、清王朝自身の後進性、腐敗ぶり、中国人に対する迫害については、歴史教科書には書かれていない。

1950年代に多数の企業経営者を迫害した「反右派闘争」、1958年から1962年にかけて数千万人の餓死者をもたらしたとされる大躍進政策、1966年から1976年にかけて1億人が迫害をうけたとされる文化大革命など、特に中華人民共和国が建国した1949年以降の歴史は完全に無視されている。すべては「愛国」、「共産主義」という偉大な理想、そして「毛沢東を守る」ために、中国人自身に対して残酷な暴力行為が行われたのだ。

現代中国におけるこの「正義の野蛮行為」の起源は、1900年頃に発生した暴徒組織である「義和団の乱」であった。彼らは、中国人の苦しみは外国人によって引き起こされたものであると信じ「清朝を支持し、外国を滅ぼす」というスローガンを掲げ、西洋人宣教師や多数の中国人キリスト教徒を非常に残酷な方法で処刑、迫害した。

さらに悪いことに、この暴徒組織は後に清政府によって利用され、「当局」の勢力となった。義和団の乱に反対した閣僚は最終的に清政府によって処刑され、外国人に対する残虐行為が「当局」に支援されるようになった。これは八カ国連合軍の中国への進出と清政府の更なる失敗につながった。

ヘイト教育を批判した雑誌は休刊

2006年に「氷点」誌に書かれた袁偉時氏の記事は「義和団の乱が現代文明に敵対し、外国人や異文化を盲目的に拒絶するという極めて無知な行為であったということについては一言も言及していない」「大災難を引き起こした西太后の独裁権力については一言も言及されていない」と当時の教科書を批判していた。

一連の歴史的出来事を単に「外敵」の悪のせいにすることは、若者の「憎しみ」を引き起こすヘイト教育である。

記事はまた「私たちには、若者たちが決して忘れないように、真実の歴史を伝える責任がある。これが、彼らが現代市民になれるよう手助けする唯一の方法だ。もし無邪気で純粋な子供たちが、意図的か意図的でないかにせよ、偽物や腐った薬を飲み込んだりした場合、その偏見は一生続くだけであり、道を誤ることさえある」と述べている。

しかし、この記事に中国共産党宣伝部は激怒し、その結果「氷点」は発行停止となり、編集長の李大同氏は解任された。言論活動を行う小さな隙間さえなくなったのだ。

注目されるのは、「氷点」の休刊後、編集長を解任された李大同氏が「氷点休刊の舞台裏―問われる中国の言論の自由」という本を執筆し、日本語に翻訳され、2006年に日本で出版されたことである。李大同氏は日本の読者に宛てた手紙の中で次のように述べている。

「よく知られているように、この本は中国ではまず出版することができず、本の内容は全く公表されていない。日本の読者がこの本の最初の読者となるだろう」

「氷点」に関連する本は、他にも数冊日本で出版されている。しかし「氷点」は結局本格的に復刊されなかった。今、中国でも日本でも、ヘイト教育への批判が原因で休刊したこの雑誌のことを知る若者は少ないのではないか。

みな、違う服をきている「義和団」

「氷点」休刊の2006年から6年経ち、西安でU字ロック事件が発生し、その16年後には蘇州着物事件、18年後には中国人の若者が靖国神社に放尿し、東京で幼稚園児を殺すとまで言った。

「偏見は一生付きまとい、彼らを誤った方向に導く」という袁偉時氏の懸念が、次々と私たちの目の前に現れている。義和団の乱から120年が経ったが、文化大革命で教師を撲殺した紅衛兵も、現代中国の「戦狼」も、日本の幼稚園児を殺すと脅した中国人留学生も、皆、違う服を着ている義和団だ。

さらに恐ろしいのは、このプロセスが加速していることである。

中国共産党自身が「10年間の大惨事」と定義した文化大革命は、2018年の教科書では「困難な探求」に変更された。 2024年にNetflixで放送された中国のドラマ「三体」の冒頭のシーンには、1967年に清華大学で起きた血なまぐさい大規模な批判大会の現場が出てくる。多くの友人がこれを見て驚いた。

しかし、文化大革命を経験した中国人は、当時ではよく見られた光景であることを知っている。多くの教師や知識人がこのような政治運動で撲殺されたのだ。 これを単に中国人が歩んできた「困難な探究」だという人もいるが、それなら、人間は「悪」をどう定義すればいいのだろうか。

2023年10月、中国山東省の中学校の体育大会で、生徒たちが安倍元首相銃撃事件を再現する寸劇をした動画が大きな注目を集めた。この問題は後に「処理」されたが、地元の教育当局は「生徒の過ちは理解できるし許せる」としている。

2024年6月1日の「国際こどもの日」には、中国の多くの幼稚園や小学校が「抗日舞台劇」の公演を企画し、子どもたちが銃剣を手に「日本の悪魔」を倒す大げさな場面を演じた。

日本に関する最新の「罪状」は、原子力発電所からの処理水の排出についても向けられている。この問題には議論の余地があるが、中国での議論は他の国に比べて多様性に欠けている。例えば、中国国内の沿岸にある原子力発電所の排水基準は日本よりもはるかに甘いという事実に言及する議論は中国ではほとんど見られない。

これら紹介してきた事例はすべて、「あからさまな」ヘイト教育だ。その裏返しにあるのは、中国共産党に不利な歴史的事実の完全な削除である。

最も典型的であるのは天安門事件だ。中国政府は遺族らが求めてきた真相の公表や賠償に全く応じず、教育の現場で語られることもなければ、メディアで報じることもほとんどない。

日本に関する多くの事実も意図的に削除されている。戦後、日本は中国に対する最大の援助国となった(1979年から2022年までの対中国政府開発援助・ODAの総額は3.6兆円)。しかし、こうした情報は中国のメディアやソーシャルメディアでは、ほとんど見られない。周りの中国人に聞いてみたが、このことを知っている人は、ほとんどいなかった。

一方で、当時の日本は中国共産党に対して多くの間違った認識と甘い判断を下したという見方もある。

北海道大学大学院の城山英巳教授が執筆した「天安門ファイル-極秘記録から読み解く日本外交の「失敗」」(中央公論新社、2022年)の中で、城山教授は、1972年に中国を訪問して対中関係を切り開いたアメリカのニクソン元大統領が、晩年に中国への懐柔政策を嘆いて述べた「我々はフランケンシュタイン(怪物)をつくってしまったかもしれない」との言葉を引用し、次のように断じている。

「天安門事件が起きた後も、中国共産党に巨額の援助をつぎ込んだ日本こそが『モンスター』を作ったという見方も、結論から言えば、真実の一面を語っている」と。

同書はまた、2005年まで日本政府は、日本が中国を侵略した歴史的経緯によって中国人には根強い反日感情があり、共産党と中国政府こそがこうした反日感情を抑え込み、日中友好路線を進めてくれると期待していたと分析している。つまり、中国が共産党政権だからこそ、日本は中国に関する政策を実施することが容易であり、逆に民主化されれば「反日の中国」になると日本政府は見ていたという。

今考えると、これは非常にばかばかしい認識だが、主流メディアの「反日感情」や「自発的なデモ」は中国共産党によってコントロールされ、促進されているのである。歴史を歪曲し続け、憎しみの種をまき、国民に極端な思想を植え付け、「反日の中国」を形成しているのはまさに中国共産党である。

もちろん、中国の国民が日本の援助によって経済的に恩恵を受けたのは確かだが、最大の受益者は権力、資源、経済成長の配当を独占する中国共産党だ。

憎悪を引き起こす教育に日本人もアメリカ人も被害を受けている。蘇州のスクールバス事件、吉林省のアメリカ人襲撃事件などが起き、外国人だから狙われた可能性がある。しかし、なんといっても犠牲者の多くは中国人だ。U字ロック事件で互いに傷つけ合った社会の底層で生きてきた中国人、そして世界と中国の歴史を一方的にしか理解できず、文明的な社会からますます距離を遠ざけている中国の若い世代である。

希望はどこにあるのか?

中国の真実を前に、私たちは息苦しさや絶望を感じる。憎しみに満ちた中国人がたくさんいるのだから、日本は中国と接触しないほうがいいと考えるかもしれない。しかし現実には、今日の世界ではもはや、それぞれを分離することは不可能だ。閉鎖的な北朝鮮でさえ、常にアジアと世界の平和に影響を与えている。

希望はどこにあるのか。私たちは何をすべきか?

まずは、この蛮行にNOを突きつけ、法的に対処し、世論を通じて非難しなければならない。実際あらゆる反日事件は多くの良識ある中国人から声高に非難されている。とはいえ、こうした非難は中国の主流メディアにあまり掲載されていないが。

第二に、中国人、日本人、そしてあらゆる国のより多くの人々が、独裁政権とその国民は同じではないことを理解して欲しいと思う。独裁政権は自国民にとっても災難であり、脅威である。世界平和への脅威に対して、平和、文明、言論と報道の自由という普遍的価値を認識する人々は、国や言語の壁を超えてお互いに交流することができるはずだ。

2007年に「氷点」の編集長・李大同氏が日本の読者に宛てて書いた手紙の中に、次のような一節がある。

「今でも私の携帯電話に、インタビュー後に日本のテレビ局から通訳を通して送られてきた次のようなメッセージが残っている。『取材を受けてくださってありがとうございます。同じジャーナリストとしてあなたの痛みがよくわかります、感動のあまり目尻が潤んでいました』。 私のコンピュータには、日本のジャーナリストから私に送られた個人的な感情を含むメッセージがたくさん保存されている。言葉を除けば、私たちの間に国家的な違いはないと思う。人間として、私たちは十分な共通認識を持っている」

2024 年を振り返ると、中国の状況は 2006 年よりも悪化しているだろう。そのため、中国を離れることを選んだ中国人は多くいる。中国を離れることができなくても、歴史を記録し、広め続けている中国人もいる。メディア関係者は職を失い、弁護士は投獄され、学者は隙間を縫って執筆している。いつも暗闇の中で、さまざまな小さな隙間にろうそくを灯す中国人がいる。

2024年6月4日、中国本土でSNSのWechatでEMOJI のキャンドルマークを送ることができなくなった。EMOJI ですら恐れているこの政権は、見た目ほど強力ではない。

歴史を歪曲し、憎悪を広める政権とその世論製造機器は、中国人だけでなく、世界平和への脅威でもある。すべての人ができることは、歴史の真実を可能な限り理解することであると思う。言葉を記録して広め、共通の価値観を堅持し、新たな合意を形成し、逆風にもかかわらず文明のプロセスを促進することを決して諦めないで欲しい。

最後に興味深いメッセージをシェアしたい。

2023年4月、中国共産党の党機関紙である「人民日報」は、春の百花繚乱に感嘆するメッセージをウェイボーに投稿した(写真)。一番上にきたコメントは、「花はたくさんあるのに、なぜ桜を先にしなければならないのか?」というものだった。

わかるだろうか。隠蔽主義とヘイト教育は中国人と日本人を傷つけるだけでなく、隠蔽主義を実行する中国共産党自体にも逆効果をもたらす。もしかしたら、これは朗報と言えるのかもしれない。

【翻訳:東京大学大学院総合文化研究科 阿古智子教授】

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