「オレオレ」AIクローン音声で“方言”もマスター、特殊詐欺被害は「1日1億円以上」 八代英輝弁護士が語る“だまし”の最新手口

詐欺の最新事例などについて語る八代英輝弁護士(7月4日 都内/榎園哲哉)

増加の一途をたどる各種詐欺犯罪。4日に東京都内で行われた東京都消費生活総合センターの消費生活講座で、国際弁護士の八代英輝氏が「デジタル社会と消費者トラブル~最近の事例と対策~」と題した講演を行った。

最新テクノロジーも用いた各種詐欺の最新手口、そして詐欺から身を守るための対処法とは。

最新詐欺「旧札のまま持っていても使えない」

詐欺犯はあらゆる機会、手段を使って搾取を図ろうとしている。

八代弁護士は講演の冒頭、日本銀行が7月3日に発行した新札に関しても、すでに「旧札のまま持っていても使えなくなってしまう、といった詐欺に絡む話も聞かれます」と注意を呼び掛けた。

見知らぬ人とも知り合えるインターネット社会、テクノロジーの発展したデジタル社会は一方で、搾取を図る者にとってターゲットにアクセスしやすい環境となっている。

八代弁護士によると、ここ数年急激に増加しているのは“リアルタイム型”のフィッシング詐欺だ。2020年上期に約6万7000件だった被害件数は、23年上期では約53万件になり、わずか3年でおよそ8倍近くに増えている。

主な手口は、スマートフォン、パソコンに不正ログインがあったこと等を伝えるメールが届き、それに不用意に反応することで、暗証番号やパスワード、ひいては預貯金などが奪い取られるもの。

これまでも同種の事案はあったが、その手口が巧妙化しているとして、八代弁護士は被害に遭った28歳の女性の実例を挙げた。

“リアルタイム型”の詐欺の恐ろしさ

女性のスマートフォンに、ネットバンキングを利用している都市銀行から入出金の規制がかかった旨のメールが届いた。メールに貼付されていたURLから都市銀行のサイトに入った女性は暗証番号やパスワードなどを入力し、「規制解除」をクリック(申請)。その数日後、女性はおよそ12万円が知らない外国人宛てに送金されていたことに気づいたという。

送られてきたURLとその先のサイトが偽物なのだが、画面は本物のサイトと見まがうほど精巧で、「パッと見て偽物だとわかる人はまずいません」(八代弁護士)。

詐欺犯は、女性と銀行(ネットバンキング)の間に入り込み、2段階認証のためのワンタイムパスワードも女性に送らせ、1分ほどしかない有効時間内に“リアルタイム”で送金を終わらせていた。

リアルタイム型詐欺の巧妙な手口を説明する八代英輝弁護士(7月4日 都内/榎園哲哉)

こうしたリアルタイム型のフィッシング詐欺は、「銀行口座の残高を知られ、全財産を失いかねません」(八代弁護士)。

さらに、八代弁護士はこうしたケースで被害額を取り戻すことは難しいとして、その理由を次のように説明した。

「銀行には法律上の補償義務はありません。ケース・バイ・ケースで補償の対象としていますが、(フィッシング詐欺のように)すでに注意喚起された手口によってだまされた場合は補償の対象外としていることが多く、補償のハードルはとても高いです」

「クローン音声」で“方言”も克服

また、今なお1日に約1億2399万円もの被害額が出ている「特殊詐欺」にも被害の多くに“インターネット”が絡んでいる。

「有料サイトの利用料金が未納」といったメールが届き、対処(送金)を急がせる手口が一般的だ。最近では送金の際、AmazonやGoogleなどが発行するカード型の「プリペイド電子マネー」がよく利用されている。

コンビニエンスストアなどで販売しているカード(額面は1500円~5万円)の裏面に記載されたカード番号を送るだけで、詐欺犯の手元に額面通りの金額が渡ってしまう。

「詐欺グループとしては、カードの現物を受け取る必要がなく、受け子も必要ありません。検挙のリスクが下がることもあり、広く利用されています」(八代弁護士)

さらに、「オレオレ詐欺」についても、テクノロジーの発展が被害を拡大させている側面があると八代弁護士は続ける。

もともと“方言”の影響で被害が少なかった九州や東北の県に、AI(人工知能)による「クローン音声」を使用した電話が掛かっているというのだ。

「いろいろなところで(子息らの)音声をサンプリング(作成)することが可能です。本来は声、方言が(詐欺を)防ぐツールになっていましたが、突破されてしまった」(八代弁護士)

クローン音声を作成するために必要な声のデータ(情報)収集時間は3秒で足りるとも言われる。

まずは誰かに相談を

有名人の名を語った投資詐欺についても、SNS等を中心に被害が広がり、社会問題になっている。

八代弁護士は、X(旧ツイッター)に載せられた有名人が投資を勧める広告につられ、44回にわたって合わせて約7億円をだまし取られた70歳の女性の例を挙げ、「テレビや新聞などの既存メディアと異なり、インターネット上の広告には、(広告の適正を)監督する機関がない」と指摘した。

不意に届くメールや電話、誇大に宣伝するインターネット広告など詐欺の“端緒”に接した時にはどう対処すればいいか。八代弁護士はこうアドバイスした。

「基本は無視をしてください。無視することが不安な内容だったら、対応する前にまずは人に相談してください。相談する人が身近にいないときは、警察(#9110=相談専用電話=)や消費者ホットライン(188)を利用してください」

© 弁護士JP株式会社