もう我慢の限界…“カスハラ”音声データを複数企業が公開 タクシーの配車断られ「どっかおらんのか、ボケが!」

「カスハラ」の実態を知ってもらおうと、広島県内のバス会社とタクシー会社が生々しい音声データを公開した。暴言、怒鳴り声、延々と続くやり取り…。疲れ果て、やめていく従業員もいるという。企業は対策に乗り出した。

「あなた日本語は分かりますか」

近年、社会問題化している客の迷惑行為「カスタマーハラスメント」いわゆる「カスハラ」。これを受け、企業がカスハラへの対応方針を明確にする動きが広がっている。航空会社大手のJALとANAは、2024年6月28日、2社共同でカスハラ対策の方針を策定したと発表した。両社は、暴言だけでなく、業務スペースの立ち入りや盗撮など行き過ぎた9つの行為をカスハラに該当するとし、厳正に対処する方針だ。

一方、広島県内の事業者もカスハラに我慢の限界を迎えている。今回、テレビ新広島の取材に応じた複数の事業者は、悩みながらも「従業員を守るんだ」「カスハラをこのままにしてはいけない」という強い決意で音声データを公開した。

「運転に危険を感じた。訴訟を起こす」という内容で、県内のバス会社にかかってきた電話の音声データ。電話をかけてきた客は、執拗にバスのドライブレコーダーの開示を求めてくる。
「あなたの主張だと、理由がないけどデータを渡さないということですよね」と攻め寄る客に、バス会社の担当者が「警察からの要請であれば…」と返答。すると、客はまくし立てるような口調で「だから、だから、だから、理由がないということですよね。理由がないのに渡さないということですよね。早く『はい』って言えばいいじゃないですか。『はい』か『いいえ』で答えてください。あなたは理由がないのにデータを提出しないんですね」と、さらに追い詰める。

「だから、警察の要請であれば…」
「『はい』か『いいえ』で答えてください。『はい』はできますか。あなたは理由がないのに」
「理由は言っていますよ。警察の要請であればお出しします」
「あなた日本語は分かりますか。もう1回、質問しますよ。あなたは理由がないのに証拠を提出しないんですか」
30分間にわたって一方的に同じ質問を繰り返し、「日本語は分かりますか」と担当者を否定するような言葉まで飛び出した。

電話に対応したバス会社の担当者はその時の様子を「圧迫感もありましたし、どのようにしたら理解していただけるんだろうという…。やり取りは延々と続きましたね」と話す。

バス会社の責任者は「ほんの一部のこうしたカスハラ行為によって、お客様のために一生懸命やろうという職員がやめていっているという現実を、この音声を聞くことで判断していただきたい」と音声データの公開に踏み切った。

企業のクレーマー対策に詳しい島田直行弁護士は、この一件がカスハラにあたると指摘。その理由を「一方的な批判であり、糾弾になっています。やはりサービス業ですから、相手はお客様ということで反論も自由にできないことをうまく利用されて、一方的に詰めている。しかも、それが30分間にわたっているというのは、あまりにも相当性を逸脱する」と述べた。

タクシーの配車を断られ“暴言”

このバス会社だけではない。県内の他の運行事業者を取材すると、個別の事情があるとは言え、行き過ぎているのではないかというクレームがまだまだあった。

あるタクシー会社の配車室。すぐ乗車できないことを理由にオペレーターに暴言を浴びせてくる客がいた。

「1台お願い」
「ごめんなさいね。今日はもう残っていないんですよ」
「うるさいわい!どっかおらんのか、ボケが!いい加減にせえよ」

広島県内のタクシー会社は配車室のオペレーターが一方的なカスハラを受けた場合、音声データを残し“毅然(きぜん)とした対応”をとるよう心がけている。また、スマートフォンアプリと電話によるタクシーの配車は別の仕組みだと説明しても納得せず、しつこく前日に乗った車両を呼ぼうとする客も…。

「逃げんねんな」
「逃げるのではなくて、アプリはアプリ、電話の配車はアプリとは全く関連がないので」
「それでええねんな。その対応でええんやなって!なあ!」

興奮し怒鳴り散らす客。このタクシー会社は今後、車両を手配できない時間帯などは自動音声サービスを導入するなど“従業員を守る改善策”を検討している。

島田弁護士は「私たちが今しないといけないのは、カスハラの被害にあっている会社なり担当者がいることを社会全体の共通認識として持つこと。抜本的解決ができるかは、どこの誰かではなくて、これを読んでいる一人一人だと思います。自分自身の行為がカスハラになっていないか考えたほうがいいということです。我々はいつ闇落ちするか分からない」と警鐘を鳴らした。

「カスハラ対策」マニュアル化で淡々と

県内のバス会社に“運転が気に食わない”とかかってきた電話では、謝罪をしても逆上し「行って話をしましょうか!今から会社まで行って!」と会社に乗り込もうとする客までいる。バス会社の担当者は「行き過ぎていると思うクレームはありますね。本来、指摘されたことを謝罪すべきだと思うのですが、クレームの趣旨が違う方向に外れていくこともあります」と話す。当然、事業者側に落ち度がある場合もあるが、このバス会社は従業員を守るため「カスハラ対応」のマニュアルを策定中だ。

バス会社の責任者は「サービス業ですから、サービスの向上というのは常に追求していかなくてはならないと思うのですが、やはり一部の度を越したクレーマーの方に対しては、毅然と会社として乗務員を守るために対応する。交通弱者のお客様に安定したサービスを提供するためにもやらなくちゃいけない」と強い決意を示した。

法律のプロである島田弁護士は「カスハラ対策がきちんとできている会社は、とても淡々としています。“ここまで言われたら警察を呼ぶ、弁護士に委嘱する”というマニュアルがある。最終的にそれが犯罪になるかどうかというのは我々が決められることではなく、刑事司法の話です。カスハラによる被害があるという認識があれば、その場をおさめるために警察や弁護士などを呼ぶべきです。ほかの手立てはありません」と話し、企業側が自分たちだけで事態を収束できない場合、ためらわず第三者に助けを求めることが必要だと強調する。

社会問題化する「カスハラ」。自分自身の行為がカスハラになっていないか…。抜本的解決のカギは私たち一人一人が握っている。

(テレビ新広島)

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