私たちの健康を支える医療の働き方改革に製薬企業はどう対応するか?課題解決の糸口を探るイベント「2024 Veeva Japan Commercial Summit」開催

今年4月から医師の働き方改革の新制度が施行され、関連するライフサイエンス業界にとっても、社会の動きに対応しながら、どう生産性を高められるかが喫緊の課題となっています。

メガファーマを始め、国内外の製薬企業約1400社に業界特化型のクラウドソフトを提供し、特に医師に医薬品情報を提供するMR向けのCRM(顧客管理ツール)で全世界で8割のシェアを持つVeevaは、製薬企業コマーシャル・メディカル部門向け最大級のリアルイベント「2024 Veeva Japan Commercial Summit」を、6月19日にヒルトン東京お台場で開催しました。

イベントでは、現代の多くの製薬企業が直面する課題をテーマに、パネルディスカッションやセッションが実施されました。その中から注目のセッションをご紹介します。

パネルディスカッション

医師の働き方改革や医療DX、デジタルチャネルの最適化が推進され、リアルとデジタルを組み合わせたコミュニケーションモデルが構築されつつある中で、それを更に最適化し、より顧客目線に立った活動に落とし込んでいくために、組織はどうあるべきか、また製薬企業側の働き方はどのように変化していくべきかについて、メガファーマをはじめとする先進企業4社4職種(セールス、マーケティング、メディカル、カスタマーエクセレンス)のリーダーが登壇し、それぞれの立場からパネルディスカッション。

登壇者はアステラス製薬株式会社 カスタマーエクセレンス部長 森岡 真一さん、武田薬品工業株式会社 オンコロジー事業部 マーケティング部 領域リード 安樂 翼さん、日本イーライリリー株式会社 糖尿病・成長ホルモン事業本部 営業統括部長 コマーシャル部門 DE&Iリーダー 高山 史真子さん、MSD 株式会社 メディカルアフェアーズ ジャパンメディカルアフェアーズケイパビリティ エグゼクティブディレクター 梅田 忠志さんの4名。モデレーターは専門メディア「ミクス」の沼田佳之編集長が務めました。

医師の働き方改革で起きたMRをはじめとする環境変化

まずモデレーターの沼田さんが、最近のMRを取り巻く活動の現状を、ミクスが実施した製薬会社60社からのアンケート調査結果を絡めて紹介。
コロナが落ち着いたとはいえ、医師とのリアルでの面談が減り、オンラインを使ったリモート面談を取り入れたハイブリッド型のMR活動が増えているとのこと。
企業がMRの営業支援として導入しているデジタルツールとしては、Veevaをはじめとする外部企業が開発したCRMや、AIを活用しているところが多くなっているそう。
また、コロナ禍を経て、MR評価の見直しが図られていて、リモートとリアルを合計した医師との面談回数など、コミュニケーションがきちんと取れているか、web講演会を視聴した医師へのフォローが適切になされているかをMRの評価項目として重視している企業が多いそうです。
さらに営業拠点が減るなど、どんなワークスペースをつくるかに重点を置いている企業が多いそう。
そんな中、今年の4月に施行された医師の働き方改革で、MR活動に注力させているものについては、これまで以上にweb講演会後の医師へのフォローを徹底している企業が多いという結果が出ましたが、その一方医師への調査ではコンテンツの視聴後、疑問を感じても問い合わせをしなかったという人が多いという結果に。
医師との面談回数がコロナ禍を経て減る中、医師とのコミュニケーションの工夫やMRの目利き力がより求められる時代になってきているといいます。
さらには生成AIなどデジタルツールの活用で作業時間が短縮できるようになってきていて、時間の概念が変化する中、それらをどのように駆使するかなど、熟考する時間と発想力が求められる時代にもなってきているそう。
今後はMRだけではなく、マーケティング・メディカルも含めたクロスファンクションな組織づくりが求められるのではないかと提起しました。

医師へのリアル訪問などのチャネルの変化により求められるMR像とは?

これからのMRはどんなことが求められているかについて、パネリストを含めたディスカッションが行われました。
高山さんは、
「コロナでアポイントがないと医師に会えない状況が続いており、どうしたら会えるMRになれるかがポイント。“パートナー”という言葉がキーワードで、それぞれの立場を理解した上で、必要な情報を伝えられるのがこれから求められるMR像ではないか」
と回答。
安樂さんは、
「医師にしろ、患者さんにしろ、地域にしろ、課題が複雑化し多様化していっている。医師が個別に抱える課題を理解して、MRが医師のパートナーになり、個別に最適な情報提供を行うことが必要」
と述べました。

AIとDXのリテラシーをどう上げていくか?

生成AIを使用したことのある医師の半数がそこから薬剤や疾病関連情報を収集した経験を持っており、今後さらに増加することが予想されるAIやDX分野。
「医師も積極的にAIで薬の情報を集めている。製薬会社が提供する情報の質をあげることが、AIの質の向上につながると思う。またAIの活用やDXなしにメディカルの発展はないと思う」と梅田さんが力強く回答。
「DXの推進が進んできていて、アステラス製薬でも生成AIの導入が始まった。学ぶ人と学ばない人では生産性が明らかに違ってくる」と森岡さん。
安樂さんは、
「AIを日常の業務にいかに組み込めるか、落とし込めるかが重要。それにはまずは使ってみるしかない。武田薬品でも議事録を使う時などに活用しているが、実際に使ってみると見えてくるものがあると思う」
とアドバイスされていました。

部門間コラボレーションの必要性と未来に向けての課題について

社会構造や社会システムの変化でMRの数も減ってきている製薬会社の現状。医師とのパートナーシップを築くためにどう考え、どう壁を乗り越えて行けば良いのかが議論されました。

梅田さんは、「点ではなく、面で、会社全体として情報を提供し、シームレスに連携することが求められるのではないか。最終的には人と人とのコミュニケーションが大事だと思う」と回答。

「人として何ができるだろうかというところが一番大事。テクノロジーをパートナーとしながらも、科学の恩恵を届けられるようにしたい」と高山さんも人を大切にしていきたい想いがあるとのこと。

「カスタマーの課題は変わってきているが、患者さんに貢献したいというパーパスは共通認識だと思う。共に患者さんのために、部門を超えて考える発想が大事。引き続き情報を共有しながら繋がっていきたい」と述べたのは安樂さん

「テクノロジーの話をし始めると手段に気を取られがち。製薬会社は患者さんに薬を届けるために存在している。どうすれば患者さんに最速で薬を届けられるか、いろんな部門が協力して考えていけたら」と森岡さんが語りました。

社会環境や社会構造が変わり、製薬会社だけではなく、多くの企業や産業がビジネストランスフォーメーションに着手しなければならないタイミングと沼田編集長。
サイロ化するのではなく、部門を超え横できちんと共有しながら社内のデータ連携をとり、それぞれの役割を果たせる環境づくりをすることが大事とまとめました。

コロナを経て、様々な仕組みが変わりつつあり、医療や製薬の分野だけではなく、一般の企業も働き方改革が必要な今。
便利なデジタルツールが様々登場してきている中、それらを上手く使いながらも、まずは人とのコミュニケーションが何よりも大切で、忘れてはならないことだと強く感じられました。
私たちの根幹である健康を支えてくれる分野の取り組みを、ぜひ参考にしてみてください。

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