日本一のハンバーガーに輝いた「世界に通用する」味とは? 元高校球児が挑むグルメバーガーの道

日本一のハンバーガーを決める大会が今年6月、さいたまスーパーアリーナを舞台に開催された。全国の有名ハンバーガーショップが技術とプライドをぶつけ合った大会を制したのは、宮城・松島町の「Harry’s Junction(ハリーズジャンクション)」。地元出身の男性が「ふるさとを盛り上げたい」と始めた店は日本を代表するハンバーガーショップにまで育った。

全国の有名バーガー店が一堂に

6月30日まで4日間にわたり開催された「ジャパン・バーガー・チャンピオンシップ」。会場には全国の有名ハンバーガーショップ17店が集結し、約2万3千人が訪れた。ハンバーガーにかぶりつくことを意味する「バガれ」と書かれた大会公式ポスターに触発されるように、来場客はご当地に行かないと食べることができない絶品グルメバーガーに次々とかぶりついていた。

優勝者は世界大会に挑戦

イベント最大の見どころが、ステージで行われるハンバーガーの調理バトル。予選を勝ち抜いた全国18店が出場し、60分間で調理した6個のハンバーガーを、審査員が味・見た目・調理の正確さで審査する。優勝者には「日本一のハンバーガー」の称号に加えて、本場・アメリカで行われる世界大会への出場権が贈られる。

参加者は、普段とは違う調理器具、環境の中でいかに実力を発揮するかという対応力も求められる。調理技術、発想力、そして誰にも負けないハンバーガー愛。そのすべてが試されるガチンコバトルだ。

「元気がなくなっていく」松島から目指す日本一

大会に唯一宮城県から出場したのが、松島町の「ハリーズジャンクション」代表の佐藤賢将さん(40)だ。

松島町出身で高校卒業後、一般企業に就職した佐藤さん。料理好きが高じて、グルメバーガーと呼ばれる高級ハンバーガーの道へ。いつかは独立したいと思い描きながら、都内の有名ハンバーガーショップで長年経験を積んだ。地元の松島に帰省した際に「年々元気がなくなっていくように感じた」という佐藤さんは2018年、ふるさとに念願の「自分の店」をオープンした。

佐藤さんは大会出場の理由について「宮城にもおいしいハンバーガーがいっぱいあるので知ってもらいたい。地元を盛り上げるきっかけにしたい」と話す。

地元にこだわった看板メニュー

店の看板商品は「ハリーズバーガー」
松島町で採れた新鮮なレタスやトマトを使い、パティはつなぎなしの牛肉100%。上段には8時間ほどじっくり煮込んで作ったうまみ溢れる自家製コンビーフを挟みこみ、甘いバーべキューソースでまとめあげた一品だ。

「ハンバーガーの自由な感じがいい」という佐藤さんだが、使用する食材は可能な限り県内産にするなど、宮城のハンバーガーであることにこだわってきた。

これまでも宮城名物のずんだ(エダマメをすり潰したペースト)を使った「ずんだバーガー」や、松島産のカキを甘じょっぱいジャムに仕立てた「松島牡蠣ジャム」など、常識にとらわれないハンバーガーを次々と生み出し、ハンバーガーの魅力を伝えてきた。

佐藤さんは、郷土への愛をハンバーガーという手段で表現しているようにも見える。

初戦はカキで勝負

宮城の代表という気持ちで大会に参加した佐藤さんの初戦の相手は、去年3位に食い込んだ東京の「潮見スキッパーズ」。かつて修行先の店で一緒にキッチンに立っていた川領平さんが助っ人に駆け付けてくれた。

時折、笑顔を見せながら息のあったコンビネーションで調理を進める2人。制限時間を5分以上残して完成させたのが、仙台牛のすね肉を使ったジューシーなパティに、松島産カキをベーコンとともに炒めてジャムに仕立てた、その名も「牡蠣ジャムコルビーバーガー」。

審査員の一人は「オイスターは世界大会でも通用するのではないか」と絶賛し、見事に初戦を突破。この日出場の6店の中でも1位となり、決勝戦進出が決まった。

全国目指した経験も後押し

3日後に行われた決勝戦。佐藤さんと川さんは2時間前に会場へと入った。2人は冗談を言い合いながら終始和やかな表情で、緊張は感じられない。むしろブラスバンドを聞きながら「高校時代を思い出す」とリラックスした表情だ。

佐藤さんは高校野球の強豪・仙台育英高校野球部の出身。東北勢初の日本一を達成した須江航監督とは同級生で、一緒に甲子園を目指していたという。会場にも仙台育英高校の同級生が駆けつけて応援していた。日本一になる難しさはよく知っている。高校時代の経験も、今に生きているように見えた。

大一番は看板メニューで

決勝は予選を勝ち抜いた4店による戦い。佐藤さんと川さんはあうんの呼吸で手際よく調理を進めていく。
「ハンバーガーはバランスが大事」という佐藤さん。作り上げたのは、店の看板商品「ハリーズバーガー」をベースにした決勝戦のためのバーガーだった。

指定された食材の「グラフォア」(フォアグラに似た鶏のレバー)を混ぜ込んだパティにオニオンリングをトッピング。2種類のオリジナルソースを合わせ、バランスを重視した渾身の一品に仕上げた。
決勝も5分ほど時間を残し、ミス無く調理を終えた佐藤さん。やり切ったという達成感か、自信の表れか、余裕を感じる表情で審査を見守った。

■決勝の審査結果は以下の通り
RICH GARDEN 357点
ハリーズジャンクション 390点
Ju the burger 384点
ジュピターズキッチン四万温泉 361点

謙虚な姿勢と愛が導いた日本一

ハリーズジャンクションは味、見た目、調理の正確さでいずれも高得点をたたき出し、見事に初出場初優勝を飾った。佐藤さんは「8割は領平くんのおかげ」と謙遜するが、ふるさとを盛り上げたいと真摯にハンバーガーと向き合ったその姿勢が、名だたる有名店を押しのけ、優勝へと押し上げた原動力になったのは間違いない。

宮城、そして日本のハンバーガーを背負って戦う世界大会は今年11月、アメリカで開催される。

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