さあ夏だ!「南の島」を知ろう 東京で太平洋島嶼国ウィークス

女優の田中美奈子さん(右)と笹川平和財団の角南篤理事長。後ろはパラオの伝統的なカヌー

日本と歴史的なつながりの深い南太平洋の島々への理解を増進しようと「太平洋島嶼国ウィークス」が7月8日、東京都港区の笹川平和財団で開幕した。地球温暖化や海面上昇といった環境問題、安全保障、持続可能な発展などについて協議する日本政府主催の「第10回太平洋・島サミット(PALM10)」(7月16~18日)に合わせたもので、19日までの期間中、各国・地域から閣僚、研究者ら約50人が集まり、セミナーを開催。民芸品の展示、伝統芸能の公演、体験ワークショップ、映画上映なども実施される。オープニングセレモニーでは、笹川平和財団の笹川陽平名誉会長(日本財団会長)が「一人でも多くの日本国民がこの素晴らしい国々について知り、実際に観光に訪れるという関係を築くことが第一の目的」とあいさつ。日本政府代表の穂坂泰・外務政務官は「官民両方の『絆』を深めたい」と話した。

▽熱い思い

「青い空と海の自然。都会の疲れを癒やしてくれる最高の場所」。30年ほど前に写真集の撮影で訪れたことが縁で、現在はパラオ親善大使を務める女優の田中美奈子さんが、「第二の故郷」と言ってはばからないパラオへの熱い思いを語った。この日は、テープカットの後、笹川平和財団の角南篤理事長と記念撮影。背後には、1996年に当時のクニオ・ナカムラ・パラオ大統領から父親の出身地である三重県に寄贈された伝統的なカヌーが展示されていた。

笹川平和財団ビル1階は、期間中は常設の「アイランズ・ステーション」となり、民芸品などの展示や写真展が行われるほか、コーヒーやチョコレートなどの現地産品販売や、各国・地域の観光情報も紹介されている。13日(土)と15日(月=海の日)は、「アイランズ・フェスタ」として、歌と踊りのパフォーマンスや伝統航海術の解説、インド洋に至る広大な海域の島々に残る音楽のドキュメンタリー映画『大海原のソングライン』の上映会などがある(各行事の日時は「太平洋島嶼国ウィークス」ホームページへ)。

▽親日の土台

南太平洋の島嶼国・地域は、その大きな部分を戦前は日本が委任統治していたこともあり現在でも親日的で、国際政治でも日本の立場を支持することが多い。基調講演をしたハワイにある米政府系研究機関、東西センターのスザンヌ・ヴァレスラム総長は、リーダー人材の育成や対話の促進など「太平洋への責任」を強調。同総長と対談した角南理事長は、太平洋を挟む大国同士である日米の果たす役割に言及。「委任統治のための南洋庁があったころの(日本と南太平洋の)深いつながりが忘れられている。東西センターと連携して、先人の築いた歴史を学ぶ機会を作る必要がある」と訴えた。

8日には「非伝統的安全保障」についてのパネルディスカッションも実施。海面上昇に苦しむツバル外務省のティロウ・コフィ事務官は「気候変動が最大の脅威」と指摘。食料や水の確保などはもちろん、物理的に国土が失われる危機への対応として行政機構のデジタル化が大きな課題となっている現状を紹介した。また、「排他的経済水域(EEZ)における法執行」の部では、不法漁業や無断のブイ設置など中国の拡張主義的な行動に対する懸念を共有。巡視・取り締まり活動における課題について意見交換した。9日以降も、伝統文化も含め唯一無二ともいえる観光資源の持続可能な活用、経済発展と航空路線の拡大、教育・人材開発、保健医療・衛生などの分野で、各国・地域の閣僚や政府高官、研究者が議論を深める。

▽国民的友好を

笹川平和財団では、歴史的関係が深い南太平洋の島々とは国民的な友好関係を築くべきとの立場から1988年に関係国・地域の首脳らを招いた「太平洋島嶼国会議」を初開催。その後、同財団の働きかけで、97年に日本政府主催で「第1回太平洋・島サミット」が誕生。以後3年に1度日本での開催が続いている。当初から環境問題への対処や、開発の在り方が中心的な課題となっていたが、2010年代以降は台頭著しい中国への対処から、法の支配や自由・民主主義といった価値観の擁護や安全保障といったテーマの重要度も高まっている。

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