横須賀に注目のアート・スポット「YONABE GALLERY」が誕生

これまで横須賀エリアにはなかった現代アートを取り扱うギャラリーが誕生した。

同市在住のアーティスト、IKKO-TORCIDAこと小澤一航さんが立ち上げた「YONABE GALLERY」(神奈川県横須賀市安浦町2-33-1 ザ・タワーハウス102)だ。横須賀という土地柄から外国籍の住民が多く、うみかぜ公園スケートボードパークにほど近いロケーションのアートギャラリーにクリエイティブ・スポットとしての期待値が高まる。

ギャラリーのコンセプトを題した展覧会

[(https://yugen-gallery.com/)画像出典:YUGEN GALLERY
ギャラリーオーナーの小澤一航さん。「自分自身が作家であり続けるための場所を作るのがギャラリーをやろうと思ったきっかけ」

4月のオープンからワークショップやペイントセッションといったイベントを重ね、現在は初めての展覧会「RESONANCE」を開催中(会期は7月15日まで)。

ギャラリーのコンセプトでもある「共振(RESONANCE)」をタイトルにした、国内外で精力的に活動する作家らによるグループ展となる。参加アーティストはIKKO-TORCIDA、GEORGE HAYASHI、YOH NAGAO、YUSEI SAGAWAの4名。

小澤さんと10年以上の仲間であるYUSEI SAGAWAさん、GEORGE HAYASHIさんは現在、神奈川県在住。現在、名古屋を拠点に活動するYOH NAGAOさんは横浜市出身と神奈川に縁のあるアーティストが揃った。

画像出典:YUGEN GALLERY
小澤さんがギャラリーをやるなら絶対展示をやってもらいたいと思っていたGEORGE HAYASHIさん。せっかくならグループ展を、とGEORGE HAYASHIさんが同展を発案したという。 ## アーティストと地域住民による「共振」

YONABE(夜業)とは小澤さんがアーティスト仲間2人と2004年に東京・渋谷で始めたライブ・ペインティング・イベントが由来。その後、海外のアートフェスに参加する際にギャラリーとしての体も持ち、2012年には横浜・元町に半年間の期間限定でポップ・アップギャラリーを出したこともある。

小澤さんはGEORGE HAYASHIさん、YUSEI SASAGAWAさんらと今年1月、東京・青山で開催されたグループ展に名を連ね、久しぶりに再会。「一緒に何かやりたいね」と他愛のない会話から同展が終了する頃には現在の物件が見つかり、そこから2ヶ月ほどで仲間に手伝ってもらいながら内装を手がけ、4月のオープンに至ったという。

「ギャラリーの理想像に向かって突き進むというのではなく、自由度を高くして横須賀という場所でしか出来ないことを探しながらやっていこうと思っています。ワークショップに参加したり、展示を見に来た人それぞれが感じて、また集まれる場所。アーティストでなくとも地域住民が影響し合う場所にしたい。それが『共振』のテーマに繋がっています」

[(https://yugen-gallery.com/)画像出典:YUGEN GALLERY
2012年に立ち上げた一点物のダルマを制作するアートプロジェクトも復活させ、YONABE GALLERYで展開していくという。上段はYUSEI SAGAWAさん。取材日はYOH NAGAOさんは不在。 ## アートとの新しい関係を築く

画像出典:YUGEN GALLERY
イベント時にはバーカウンター代わりになるスペースも。内装はもちろん調度品なども小澤さんが手がけた。

作品の展示販売を軸としつつ、ワークショップも開催して「アートギャラリーが近寄り難いものならない」場所を目指していると話す。展示に向けて5月はギャラリーの営業はせずに小澤さんがアトリエとして使用。

ドアを開放しておくと通りすがりの人がフラっと入ってきて会話を交わし、制作途中の様子を見てもらったことも。その後、展覧会で完成した作品を目にするという普段出来ないアートとの接し方もできることもわかったという。すでにSNSで見つけ訪れた横須賀エリアに住む人たちからも良い反響があり、地域の人たちとの共振を予感しているようだ。

画像出典:YUGEN GALLERY
「先日は、90歳近い電子物理学者の方がフラっと入って来られて、普段では聞けない話を聞くことができた」(小澤さん)。すでにアーティストのみならず接点がないと思えた人たちが交わる場になっている。

「今回参加してくれているYUSEIはYouTubeでラジオ番組をやっていて、このギャラリーは外からの音も入ってこないし音漏れもあまり気にしなくていいのでラジオの収録もいいね、なんて話もしていて、そんな風に僕がやったことがないアイディアが出てくるので、コンセプトや企画など決め込みすぎないようにしています」

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ギャラリーをオープンしたのは、コロナ禍前からSNSなど情報をシャットアウトしてアトリエにこもって制作に打ち込んでいた反動もあるという。「社会が停滞する経験を経て、新しく何かを始めようという世の中の機運にも触発されました」 ## この場所で出会った人達と描く未来

同展では、普段掲げるテーマやモチーフは違えど豊かな色面に線と形がダイナミックに展開される作風で共通する4人が影響し合い、ひとつの世界観を生み出していることが感じ取れる。平面ほか立体作品を約30点展示。

「他の3人の作品から確実にインプットがあり、今は言葉にはならないけれど後になってふと理解できることがある。僕の場合、それが作品に落とし込まれることもあるし、見に来てくれる人とも気持ちの面だったり影響し合えるところがあるはず。だから、人との触れ合いを生み出すことがギャラリーをやる意味なのかなと思っています」

今年1月時点ではギャラリーをやるとは思っていなかったものの、あれよあれよのオープン。今となっては、20年前にライブ・ペインティング・イベント《YONABE》を立ち上げた時から既に共振が始まっていたのかも、と小澤さんは話す。

画像出典:YUGEN GALLERY

取材日にはYUSEI SAGAWAさんが、急きょ壁画を制作。小澤さんは今後、ギャラリー全体の壁に絵を描く壁画プロジェクトもやってみたいと話す。

展覧会が始まり、エントランスを入ってすぐ脇の壁面にはYUSEI SAGAWAさんによるペイントがなされ、他のアーティストがセッションしていく形での壁画プロジェクトも進行中。アーティストのみならず地域住民同士の共振から想像を超える横須賀の未来が描かれようとしている。

開催概要

  • 展覧会名:RESONANCE
  • 会期:2024年6月8日(土)〜7月15日(月・祝)
  • 会場:YONABE GALLERY(〒238-0012 神奈川県横須賀市安浦町2-33-1 ザ・タワーハウス102)
  • 開催時間:平日(火・金曜日) 13:00〜19:00、土・日曜日、祝日 11:00〜19:00
  • 休廊日:月・水・木曜日
  • 観覧料:無料
  • アクセス:京浜急行「県立大学」駅より徒歩5分
  • 主催:YONABE GALELRY
  • 展覧会ページURL:
  • お問い合わせ:

作家紹介

IKKO-TORCIDA

2004年に東京都渋谷にて定期開催されたイベント、ライブペイントセッション「YONABE(夜業)」の立ち上げと共に本格的な創作活動を開始。

2008年よりラテンアメリカ大陸を縦断。中南米のネイティブ文化やシャーマニズムを学びながら各地のホテルやレストラン、パブリックスペースなどで壁画制作を行う。2012〜2014のFountain Art fair@ニューヨークへの出展、2013年の横浜元町でのポップアップギャラリーを経て2024年に地元横須賀にてYONABE GALLERYを再オープン。ギャラリーを通し自身の作品制作・発表だけなく、他者を含めた「表現」というもの自体にもフォーカスしその真理についても探究を行なっている。

「すべては見方次第」「答えはなく、解釈がある」との考えを基に、直線と曲線、モノクロとカラー、瞬間と継続、立体と平面、静と動、緊張と脱力など幅いっぱいにとった両極から始まる思考の交点をヒントに創作を行う。

公式Instagram:

画像出典:YUGEN GALLERY

《PICNIC》
動物をはじめ自然物を主にモチーフとする作者。こちらは2018年に描いた作品に加筆したもの。「平面的四次元、永遠のような一瞬。荒々しく繊細な時空間を歩く日常は、現実なのか夢なのか。黒い大地を削る白い光を追った先に現れる暗闇の中に存在する静かな生命体は、いつから其処に居たのだろうか?」キャンバスにアクリル/59.4×42cm/2024年

GEORGE HAYASHI

1978年東京生まれ、幼少期から独学で絵を描き始める。

「NOMAD HEART/自由な心臓」をスピリットに、自然が持つ本能やエネルギー -野生動物の強さや生き方に影響され表現している。

2010年から活動拠点を上海に置き、中国国内外の画廊や美術館で展覧会を開催。飲料水ブランド「チェリオ」、高級美容機器ブランド「ARTISTIC&CO」など企業コラボレーション多数。在上海⽇本国総領事館や在台湾日本領事公邸等に作品が収蔵され、マカオのカジノホテルや「SPEAK LOW」(中国・上海)スボーツブランド「NIKE」SG CLUB、ゑすじ郎、SG TAVERN(以上、東京)、El Lequio(沖縄)、Sip&Guzzle NYC(NY)等の店舗の壁画を手がけるなど特にアジア圏で高い評価を獲得、多岐に渡る活動を展開している。

公式Instagram:https://www.instagram.com/george_hayashi/

画像出典:YUGEN GALLERY

《Struggle 2 (奮闘弍) 》
コロナ禍の只中に描いた作品。「ドイツの哲学者マルクス・ガブリエルが『同期化した世界』と名付けたように我々がこれまで経験したことのない事態に世界中の人間の行動は完全に同期化した。そこから私たちはかつての世界へ戻ることができるのか?」生けるものの葛藤が描かれる。ウッドパネルにアクリル/116.7×91cm/2021年

YOH NAGAO

コラージュとアクリル絵具を使い、空想の民族、鬼や天狗、獅子舞などの伝統的なモチーフや昆虫を描き、現代社会の矛盾や西洋思想に対しての問いを投げかけている。

これまでにSCOPE ART FAIR MIAMI、LA ART SHOW、Swizz Beatz主催の No Commissionなどのアートフェアやイベント、広告の分野でもロールス・ロイス、欧州アシックス、東京キャラバン、JRA中京競馬場、グラニフ、名古屋パルコ、TOMS、STUDIO APARTMENT、KEYTALK、KITTE名古屋とのコラボレーションなど国内外で精力的に活動中。

作品制作以外にも実際のメキシコのマヤ人、ナミビアのヒンバ族やヘレロ族、モンゴルの遊牧民などの現代でも先住民的生活を続ける民族に会いに行くフィールドワークも実施している。

公式Instagram:

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《青鬼I》
コロナ禍でコマーシャルなイベントが敢行される一方で、日本の伝統的なお祭りや神事が中止に追い込まれたことへのアンチテーゼを示す作品。「歴史や伝統を学ぶどころか軽視さえする国家が、未来永劫繁栄するのはかなり困難なこと。この日本という国は、いったいどこへ向かうのだろうか」キャンバスに布、紙、アクリル/910×727cm/2022年

YUSEI SAGAWA

1986 年生まれ、福島県福島市出身。神奈川県・東京都を中心に活動。

10代後半にストリートアートに影響を受け表現の道を歩む。フリースタイルを重視したライブペインティングやミューラルを得意とし、自然と都会的なイメージを融合したアブストラクトなスタイルで描く。

2024年にはクロアチア リエカ市の委託にて大規模なミューラルプロジェクトにゲスト参加。また、アート集団「輪派絵師団」のメンバーとしての活動では東京 2020オリンピックオフィシャルアートワークや数々の企業広告を手がける。

近年ではアートメディア「BEHIND THE WALL」を主宰。国内外のアーティストを50組以上招聘したミューラルプロ ジェクトを成功させるなど、壁画中心の企画制作を担う。

公式Instagram:https://www.instagram.com/yusei_sagawa/

画像出典:YUGEN GALLERY

《転生(Reincarnation)》
2023年大阪・グランフロント大阪の10周年記念イベント「THE GRAND TSUKIMI」のために制作された兎のオブジェ作品。「その昔、わたしは地球に降り立ちました。美しい自然と共創する街を跳び回り、近代都市を存分に遊びました。いつしか憧れだった街は退廃の一途をたどります。楽しかった街、壊される自然…」オブジェ/26.5×17×44cm 台/40×45×60cm※幅×奥行×高さ

YONABE GALLERY 施設詳細

画像出典:YUGEN GALLERY- 〒238-0012 神奈川県横須賀市安浦町2-33-1 ザ・タワーハウス102

  • 営業時間:(火・金曜日)15:00-20:00、(土・日曜日)13:00-20:00 ※イベント/ワークショップなどは除く。
  • 定休日:月・水・木曜日(不定休あり)
  • アクセス:京浜急行「県立大学」駅より徒歩5分
  • 公式Instagram:https://www.instagram.com/yonabe_gallery/

<取材協力>

YUGEN Gallery

湘南人を運営する「株式会社ジーン」に併設されている現代アートギャラリー。本記事にも登場する、GEORGE HAYASHI(ジョージ・ハヤシ)やYOH NAGAO(長尾洋)の作品も取り扱っています。

〒107-0062 東京都港区南青山3-1-31 KD南青山ビル4F
公式サイト:

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