【社説】英国の政権交代 アジアの安定にも貢献を

民主主義、自由、人権といった価値観を共有する英国は日本の重要なパートナーである。インド太平洋地域の平和と安定を維持するために、英国の新政権との連携を強化していきたい。

英下院(定数650)の総選挙で、野党労働党が400議席を超える地滑り的勝利を収め、14年ぶりの政権交代を果たした。スターマー党首が新首相に就任した。

与党保守党は過去約200年で最大の敗北を喫し、党首のスナク首相は辞任した。

大敗の主因は、国内経済の混乱に対する国民の不満である。スナク氏の前のトラス、ジョンソン両政権の失政やスキャンダルも響いた。

反移民を訴えるなど、欧州で台頭する極右政党との共通点がある右派ポピュリスト政党「リフォームUK」も批判の受け皿となり、躍進した。

英国は2016年の国民投票の結果に従い、20年に欧州連合(EU)から離脱した。

その後は輸入コスト増加、東欧からの労働者減少が人手不足をもたらし、インフレを助長した。さらに新型コロナウイルス禍が物価高騰に拍車をかけたが、保守党政権は有効な対策を打てなかった。

今では国民の過半数が、EU離脱は失敗だったと後悔している。新政権は離脱によって冷え込んだ欧州との関係修復、国内経済の立て直しを最優先に取り組まなくてはならない。

新首相のスターマー氏は、弁護士や検察幹部を経て15年に下院議員に初当選した。強硬左派のコービン前党首が訴えた核軍縮政策を転換し、中道回帰を進めた。堅実な穏健派といわれる。

外交手腕は未知数だ。

EU離脱後の保守党政権は環太平洋連携協定(TPP)や、米国とオーストラリアとの安全保障枠組みAUKUS(オーカス)などを通じ、インド太平洋地域への関与を強めていた。

一方でロシアのウクライナ侵攻を受け、英国内では遠方のアジアより欧州との安全保障協力を優先すべきだとの声が高まっている。

欧州との関係改善に積極的な新政権は、保守党政権が進めたアジア重視の戦略を見直す可能性もある。日本政府にとっては気がかりだ。

インド太平洋地域の一角にあるアジアでは、中国が力による一方的な現状変更の試みを強めている。中国を抑止するために、日米と英国の協力は欠かせない。英国はアジア諸国との協調にも努めてもらいたい。

新政権は気候変動対策などで中国との協力を模索する方針だという。

米国は11月の大統領選でトランプ氏の返り咲きが現実味を帯び、対中姿勢が一段と強硬になる懸念がある。

英国は米国と一体化せず、中国と対話を重ねながら大国にふさわしい行動を取るように促すべきだ。新政権にその役割を期待したい。

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