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昭和・平成・令和と時代が変わっても、劇場のスクリーンでもリビングの液晶でも、藤竜也さんは変わらぬ圧倒的な存在感を観る者に突きつける。現在82歳、俳優歴は62年目になる。さまざまな人間を演じ、その名を海外にも轟かせる名優に聞く、THE CHANGEとは。【第2回/全4回】
まばたきをしていないのではないかと、思わずたじろいでしまうほど力強い視線をこちらに向けるのは、藤竜也さん、82歳。まっすぐ記者の目を見つめる。7月12日公開の映画『大いなる不在』では認知症を患った男性を演じるが、作中でときおり見せるほうけたような視線のおもかげは、一切ない。
「私は認知症の老人役で、脈略のない話をとうとうとするんです。本人はそんなつもりはなく話しているんだけどね。そんな老人と突然、25年ぶりに息子が再会をして、息子は戸惑い、混乱を招いていくんです」
息子役は森山未來さん。藤さん演じる父親に母とともに捨てられた幼少期を背景に、25年ぶりに父と再会を果たす。そのとき父は、原日出子さん演じる後妻と穏やかな生活をしていた。その後ふたたび会うことになったのは、父が警察に捕まり、施設に入所することになったからであった。
「観客がどこでどんなふうに感動をするのかな」想像できなかった作品
認知症を患い施設に入所したはずの父は、立派なスーツ姿で息子の前に現れるも、会話の内容は支離滅裂。その過程で、息子が後妻の居場所を尋ねると、父は「男たちに乱暴され、自殺した」と答える。息子は、真木よう子さん演じる妻とともに、父のこれまで、そして後妻についてたどることとなるのだ。
ーーヒューマンサスペンスドラマ。そう銘打たれた本作は、そんな冒頭から十分に惹きつけられるが、まず脚本に目を通した藤さんは「この作品と観客がどんなふうに交わるのか、想像ができなかった」と話す。
「近浦(啓)監督の脚本は、ここで感動させようとか、そういう企みが一切なくて。ただただ、人間の宿命、人間が生きるということを直感的に淡々と描いているように感じました。だから、観客がどこでどんなふうに感動をするのかなと、想像できなかったんです」
ーーほかの多くの作品は、脚本を読んだ段階で「ここが観客が感動するポイントだ」など想像がつくものですか?
「ある程度、想像はつきます。そういう仕事が悪いというわけではなく、画としてそういう作品はわりとおもしろいんだよね。今回の作品はそのあたりが未知で、関わる人たちの志と腕次第だと思いました。だから私は、一生懸命やりたくなったんです」
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海外の映画祭で多数受賞
まさにその志と腕により、第71回サン・セバスチャン国際映画祭のコンペティション部門で、藤さんは日本人初となるシルバー・シェル賞(最優秀俳優賞)を受賞。第67回サンフランシスコ国際映画祭では、最高賞のグローバル・ビジョンアワードを受賞した。さらに藤さんは、ニューヨークで開催される北米最大の日本映画祭ジャパン・カッツでの、特別生涯功労章の授与が決定している。
ーー海外の映画祭での評価の高さは、言葉の壁などさまざまなものを乗り越えたからこそですよね。
「そうなんですよ。でも、なぜ評価されたのかはわからない。出来上がったら、とてもインパクトのある、心を揺さぶるような作品になったということだから、映像って不思議だなと私も驚いたし、だから、観客の方々にも驚いてほしいですね。新しい作品になると感じています。言葉では説明のつかないエネルギーを持った映画だと思います」
そのエネルギーは、最後まで力強い視線を向けてくれた藤さんこそ発信源ではないか、そう思わずにはいられなかった。
ふじ・たつや
1941年8月27日、中国・北京に生まれる。大学在学中に日活にスカウトされ俳優活動をスタート。1962年公開『望郷の海』で映画デビュー。70年代初頭まで「日活ニューアクション」で存在感を放つ。テレビドラマで2枚目俳優として人気を博していた1976年、大島渚監督作『愛のコリーダ』で主演を務め、海外にもその名を轟かせる。近年は連続テレビ小説『おかえりモネ』(NHK)や『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)など話題となったテレビドラマにも出演。7月12日公開映画『大いなる不在』で、第71回サン・セバスチャン国際映画祭のコンペティション部門でシルバー・シェル賞(最優秀俳優賞)を受賞した。