薬物依存 社会で脱却 川崎、支援医師ら講演

◆一部執行猶予制度が開始 6月から刑事裁判で始まった刑の一部執行猶予制度に理解を深めてもらおうと、「薬物依存出所者の社会での包括的な支援」と題した講演会が25日、川崎市とどろきアリーナ(同市中原区)で開かれた。再犯率の高い薬物依存者の更生支援に取り組む医師や保護観察官らが、依存者や制度の現状について伝えた。川崎ダルク支援会主催。約100人が参加した。

 「薬と、薬を買うための金しか信じられないという患者は多くいる」。県立精神医療センター(横浜市港南区)の小林桜児専門医療部長は依存症に至る背景をそう語る。他者への信頼や誰かに助けてもらう経験ができなかった人が、薬に頼ってしまう傾向があるという。

 一部執行猶予は、3年以下の懲役か禁錮の判決を言い渡す場合、実刑と執行猶予を組み合わせられる制度。主な狙いは再犯率の高い薬物犯罪の再犯防止だ。

 昨年の犯罪白書によると、覚せい剤取締法違反事件の受刑者で2010年に出所した人のうち、約5割が5年以内に再入所している。

 早期に社会復帰させることで、薬物の誘惑に負けずに自ら依存を抜け出すことを目指してもらう。薬物犯罪を繰り返していれば、必ず保護観察所で薬物再乱用防止プログラムを受けられるようになる。

 横浜保護観察所の柳沢真希子保護観察官は「依存者が薬物を断ち切るため闘わないといけないのは、刑務所ではなく社会に出てから」と強調。刑務所でなく薬に手が届く環境のなかで依存脱却を図る制度の意義を訴えた。

 講演を企画した川崎ダルクの岡崎重人施設長は、自身も薬物依存の経験者。「大切なのは出所後の環境。ダルクのように当事者同士で経験を共有できる場所を増やしていきたい」と話した。

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