「国民がなめられている」 語らぬ与党、あいまいな野党…

 憲法を変えるのか、守るのか−。それこそが、最大の争点だったはずの今回の参院選。18日間に及ぶ選挙戦は9日で幕を閉じたが、憲法改正を巡る与野党の論戦は最後の最後まで深まらなかった。候補者を選ぶ上で憲法に対する立ち位置を判断材料にするという有権者は多いが、与党の意図的な“争点隠し”には、改憲支持の有権者からも疑問の声が相次ぐ。一方で、明確な対抗軸を打ち出せない野党側にも不満が出ており、消化不良のまま投票日を迎えることになった。

 「日本は外交や防衛面で遅れている。テロの脅威もあり、自衛権について明記すべきだ」。憲法改正が必要と感じている藤沢市の男性会社員(50)はしかし、一貫して争点化を避けてきた与党のスタンスに首をかしげる。「駆け引きもあるのだろうが、もっと堂々と訴えるべきだった」 やはり国際情勢の変化を理由に「消極的ながら改憲を支持」する大和市の男性会社員(32)にも「憲法改正の論議はかすんで見えた」。アベノミクスの是非や消費増税のあり方など論戦の中心となってきたテーマの方が「身近な問題」だが、憲法へのスタンスは1票を投じる際に「有権者が吟味するしかない」と思っている。

 三浦市の鮮魚商の男性(49)は「憲法を改正するなら、どこをどう変えるのかが大事。なぜ変えるかの説明も必要だが、どの候補からもその訴えが出なかった」。争点隠しとは受け止めてはいないが、判断材料が示されなかった選挙戦に疑問を呈す。「憲法を改正するなら、もう一度選挙すべきだ」 改憲に反対する横須賀市の保育士の女性(32)は、憲法違反を指摘されながら成立に至った昨年の安全保障関連法のように、数の論理で押し通される懸念が拭えない。「どの候補も経済のことばかり訴えていたが、選挙後はどうなるか。国民がなめられている」と、政治のありように厳しい視線を注ぐ。

 与党候補の応援に駆け付けた安倍晋三首相の演説を聴いた横浜市中区の女性会社員(48)も、危惧を抱く一人だ。「経済政策のことばかり話していて、憲法には触れなかった。票が逃げることを心配したのだろう」とする一方、野党候補の主張も「批判ばかりで期待できない」。8日に期日前投票を済ませたが、バランスを取るつもりで無所属の候補に1票を投じた。

 改憲勢力3分の2の阻止を目指す野党共闘に対しても、冷ややかな見方がある。「70年守られてきた平和憲法を簡単に変えていいのか」と訴える湯河原町の主婦(39)は「将来的な改憲を否定していないところもある」とし、自分の思いを託せる候補を冷静に見極めている。

 川崎市川崎区の不動産会社社長(72)も、同じ問題意識からこう指摘する。「与党は票が取れなくなるから憲法改正を主張せず、野党もはっきり反対と言わないところがある。有権者の中に憲法のことをきちんと考える人がどれだけいるかだろう」

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