アジカン ゴッチ「言葉の種蒔く」理由

 「書くことは、書けなさと向き合うこと。世の中を2〜3行で言い切ることはできない」。分からないと隅に追いやらず、分かったふりもせず、そこを起点に自分の言葉を探したい。

 関東学院大学(横浜市金沢区)の軽音楽部で出会った仲間4人で、ロックバンド「アジアン・カンフー・ジェネレーション(アジカン)」を結成。ボーカル、ギターを務め、今春20年目を迎えた。音楽にできることなんてないと苦悩した時期もある。卑屈になっていた頃、英国のバンド「オアシス」のリアム・ギャラガーに、「おまえはおまえのロックンロールを鳴らし続けろ」と言われ開眼した。「人間の愚かさを表すことができるのは、文学や音楽の中にある言葉」。無力だと放棄せず、岩を転がすと決めた。

 東日本大震災後、未来を考える無料紙「ザ・フューチャータイムズ」を立ち上げた。現実を知り、打ちのめされながらも、続けるのは紙の力を信じているから。「音楽は再生機器が必要だけど、紙は読み手がいれば、エネルギーをすぐに感じることができる」 29万人以上がフォローするツイッターでも積極的に発信する。原発や基地、政治について投稿すると、異論や反論が矢のように降り注いでくる。「扇動したいわけじゃない。(米国のアーティスト)パティ・スミスは、ライブのMC(おしゃべり)で『友達のアクティビスト(政治などの活動家の意味)はね』と言う。日本はスルーかバッシングか、すごく極端。そうじゃなくて、自分の思想を言い合える社会になればいい」 社会的な事柄にずっと興味があったわけではない。18歳の頃は、「寝ていても怒られない授業は夢の中で聞いていた」。だが、米国の同時多発テロや東日本大震災を経て、「想定外」は「経験」に変わったと感じた。被災地を訪れ、もはや人ごとでなくなった。

 知ったからには、素通りできない。デモにも足を運んだ。共感ありきではなく、まず事実を知るために。

 「僕はバトンの受け手であり、渡し手」。音楽、言葉の中に種をまき続ける。思いを継ぐ人が花を咲かせ、実をつけてくれるように。◆お気に入り 毎朝、コーヒーの豆をひき、1杯のコーヒーを入れる。「自分の気を静める時間。イチローも毎日カレーを食って、記録を作ったから、オレもコーヒーぐらい飲んでおこうかと。選んだ豆がおいしくないと、へこむ。(豆をひくところから)もう1杯とはならないから」。作業を人に渡さないことで、見えることがある。「ちょっと良い物を買うことも単純にいい。経済も良くなるしね」◆ごとう・まさふみ通称・ゴッチ。「アジアン・カンフー・ジェネレーション」のボーカル、ギターとして2003年にメジャーデビュー。静岡県島田市出身。「正文」の名は、大伯父の名「文治(ぶんじ)」の1文字をもらい、生まれた島田にある大井神社で、神職から授けられた。2枚目のソロアルバム「Good New Times」とアジカンのシングル「ブラッドサーキュレーター」を今月13日に発売した。◆記者の一言 5月に発売した「ゴッチ語録 決定版」(ちくま書房)に記されていた「言葉は万能ではない」という言葉が響いた。言葉は受け手の立場や経験によって、解釈が変わるもの。「愛している」という言葉に傷つく人だっている。

 感じた思いに、近い言葉。頭の中に浮かぶ情景を力にできる言葉を、私も探している。後藤さんの言葉の選び方や言葉に向き合う真摯(しんし)な姿勢に励まされる。

 「Little Lennon」(小さなレノン)というアジカンの曲の中で、後藤さんは「お前世代とか国籍とか 括れないさ 飛び越えて行くんだ」と叫ぶ。何もかもひとくくりにしないために必要なのは「イメージすること」。ジョン・レノンは雲の上だけど、私たちには、同じ時代に生き、心の深淵(しんえん)をのぞき込むような鋭い目つきで歌うゴッチがいる。

© 株式会社神奈川新聞社