非核訴え「証言の航海」 被爆者世界一周へ出港

 広島、長崎の被爆者5人らが世界各地で核廃絶を訴える「ヒバクシャ地球一周、証言の航海」の客船が18日、横浜港を出港した。この日は、長崎市内で6歳で被爆した田河豊子さん(77)=大分市=の兄の71回目の命日に当たる。「氷が欲しい、氷を…」と苦しげにうなされていた兄の最期を克明に証言し、核兵器による被害のすさまじさを語りかけるつもりだ。◆「うちに刀があったやろ。頼むけん」 介錯頼んだ兄 当時18歳だった兄、克(まさる)さんは爆心地から約500メートルの長崎医科大医学専門部(現・長崎大医学部)で授業中に被爆した。3日後に体調に異変が生じ「食べ物をとると、おなかがグルッグルッといってそのまま排泄(はいせつ)されてしまった」。

 氷を求める克さんのために、母親が探したが見つからなかった。意識ははっきりしていたが高熱と痛みにもがき苦しみ、父親に「うちに刀があったやろ。頼むけん。あれで介錯(かいしゃく)を、介錯を」と頼み込んだという。

 兄の死後、氷類を一切口にしなかった母親と兄の遺影を持参した田河さん。横浜港大さん橋国際客船ターミナル(横浜市中区)で記者会見し「核兵器がいかに人を苦しめ、どれほど恐ろしいものであるかを私の証言から知ってほしい」と祈るように語った。

 被爆者5人は70〜80代。被爆2世と継承活動にあたる人らを含め約千人が客船「オーシャンドリーム」(3万5265トン)に乗船し、核保有国のインドや米国、欧州など21カ国を100日余りかけて巡る。11月29日に横浜港に帰港する。

 被爆体験を伝える航海は非政府組織(NGO)「ピースボート」が主催して2008年に始まり、今年で9回目。証言活動とともに軍縮を推進する国連平和ポスター・パネル展も行う。

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