ネットの波、船舶向け情報提供にも 電話や中短波放送は9月末で廃止

 海上保安庁が船舶向けに行う情報提供が、従来のテレホンサービスや中短波放送などからインターネット利用へと移行している。航行中の船舶から安定してネットに接続できる環境が整い、リアルタイムの情報提供が普及したためだ。長年親しまれてきた既存の提供手段は、利用率が著しく低下したとして今月いっぱいで廃止される。

 1日平均500隻の通航量を誇る浦賀水道。航行管制業務を担う東京湾海上交通センター(横須賀市)など全国7カ所のセンターで巨大船などの航路入航予定を伝えていたテレホンサービスが30日に終了する。

 サービスは、入航時間や船名を録音で繰り返し流すもの。主に船舶向けだが、一般の人も聞くことができる。小学生のころ、よく利用していたという同市の40代男性は「沖合を航行する巨大船を見たら10円玉を握って公衆電話にかけ込んだ。ネットが普及する前はそうして船の名前を覚えた」と懐かしむ。

 ほかに、同日で廃止されるのは「灯台放送」と呼ばれ、同庁が全国各地の灯台などで計測した気象データを毎時定期的に中短波で放送している船舶気象通報など。同庁交通部は「いずれも現在ではニーズがなくなった」と説明する。

 これに替わって同庁が普及に力を入れるのが、沿岸海域を航行する船舶や漁船などに向けて配信する、ネット環境を活用した沿岸域情報提供システム「MICS(ミックス)」。全国各地の灯台などで観測した風向、風速、波高などの気象・海象の現況や海上工事の状況などをリアルタイムに提供している。

 プレジャーボートの運航者やマリンレジャー愛好者向けに、スマートフォンの衛星利用測位システム(GPS)機能を利用した現在地周辺の最新情報が地図画面上で一目で分かるスマホ向けサイトの運用を2015年4月からスタート。事前に登録されたメールアドレスに緊急情報や気象庁発表の気象警報・注意報などを配信するサービスも拡充している。

 大型船はVHF無線を活用した船舶自動識別装置「AIS」の搭載が進んでおり、同庁は同装置を活用して航行安全情報を提供することで海難の未然防止を図ることを目指している。

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