海で河川で命を守る 横浜市消防局水難救助隊

 横浜市消防局で水難救助の中核を担う、本牧和田出張所(横浜市中区)の水難救助隊。全員が潜水士の資格を持ち、少人数での過酷な訓練を乗り越えたエキスパートだ。自然災害への備えを求める声が高まる中、市内で唯一の海や河川での救助に特化した部隊として、捜索技術の向上や連携強化に磨きをかける。

 訓練場所の横浜・みなとみらい21(MM21)地区の帆船日本丸付近。「ウオーターレスキュー(WR)」の文字が入った赤い水難救助車が止まった。降り立った隊員がボンベや浮力調整器具などを入念にチェック。1人で点検した後は、2人一組で再点検する念の入れよう。所長の小田川律雄さん(53)=南区=は「機材の故障は直接、死につながることもある。緊急の出動要請が多く、普段から準備は欠かせない」と話す。

 記録が残る1997年からの横浜市内の水難事故は年平均56・7件。水難救助隊は市内で発生した水難事故には、応援も含めて全て出動する。「市内には流れが速い川や深い海底もある。海上保安庁などと協力して、一人でも多くの人を救助したい」 隊員は2人以上で行動し、2人一組の場合はパートナーを「バディ(相棒)」と呼び合う。小型水中通話装置を使い、陸上で指揮する役割を担う川上仁隊員(36)=旭区=は2010年から所属。「事故防止のため、単独行動はしない。バディや隊員同士が信頼し、思いやる気持ちが大切になる」という。

 昨年3月、最新装備の車両を導入。後部格納庫の扉が大型パワーゲートのため、救助ボートの積み下ろしが迅速、容易にできるようになった。ほかの機材も年々新しくなる。それでも、「最終的に救助にあたるのは人。スキルアップが大切。他隊とのいい連携も救助の可能性を高める」。

 市内唯一の水難救助に特化した部隊だが、他部隊との連携が欠かせない。特別高度救助部隊(スーパーレンジャー、保土ケ谷区)のほか、末吉(鶴見区)、松見(神奈川区)、杉田(磯子区)、能見台(金沢区)といった特別救助隊との合同訓練を日々積み重ねている。

 水難救助隊は、1999年4月に開設した。その当初に名を連ねた椎名聡さん(51)=金沢区=は「技術を磨こうと、仲間は皆、高い意識を持っていた」と振り返る。

 同年8月に山北町で発生した玄倉川事故にも出動した。現場は普段、訓練している海水ではなく淡水。浮力がなく、体が重く感じた。水は濁り視界はゼロに等しい。そして大雨による増水。「昼間なのに深さや水底の状況が分からず、恐怖心が高まった」。困難を極めた救助活動は忘れられない。

 水難救助隊は近隣の火災の消火活動や救助活動もこなし、所長を含め17人が所属する。今年4月、末吉特別救助隊から異動した野坂隆吾さん(32)=鶴見区=は「水の中では会話ができないし、視界がほとんどないことも多い。あうんの呼吸のような意思疎通や円滑な救助を目指したい」と抱負を語る。

 市民の命を守るべく、きょうも「WR」マークの赤い車両が駆け巡る−。

 

© 株式会社神奈川新聞社