【発言】「小池劇場」を問う 宇都宮氏、新都政序幕は評価

小池百合子都知事に、築地市場移転反対の要望書を渡す元日弁連会長の宇都宮健児氏=8月30日
初競りで大量のマグロが並ぶ築地市場=1月
築地市場移転延期の記者会見を終えて、会場を後にする小池都知事=8月31日

 「小池劇場」に注目が集まる。わずか2カ月半で、築地市場の豊洲移転延期と都の幹部更迭、東京五輪の会場見直し、公約通り都議会で知事給与半減の条例も成立した。メディアを常に意識、人々の関心を持続させていくやり方は、小泉純一郎元首相の手法を思い出させる。過去2回、都知事選に出馬して築地市場の移転反対を訴えてきた元日弁連会長の宇都宮健児氏に、小池百合子都知事の快進撃をどう受けとめるか、築地市場の問題を中心に聞いた。

 ▽パフォーマンスの強み

 ―小池氏の手腕をどう思うか。

 「ぶれていない。築地市場の移転延期は勇気のいる決断だった。都民の利益、情報公開を進めることを強調してきた。その姿勢は評価できる。8月30日に移転をやめるよう要望するため、小池さんに都庁で会った。その時はすでに腹をくくっていた」

 ―翌31日に小池氏は正式に移転延期を表明、目が離せなくなった。小池劇場とまで評される。

 「30日に私が都庁訪問した際には大勢のメディアがいた。私は一都民ですから、普通、知事は会わない。パフォーマンスで直前に見せ場を作り、都民の支持を得て、自身の強みとする。都議会と向き合った。うまい」

 ―宇都宮さんは2012年、14年の都知事選に出馬してそれぞれ次点。7月の都知事選では告示直前に出馬を取りやめた。これまで小池氏との直接のやりとりは。

 「小池さんと頻繁に会って、市場問題のアドバイスしているのではないかとよく聞かれます。それはない。小池さんがテレビ東京のキャスターだった時、私は弁護士として、多重債務者の救済に取り組んでいて、番組に出た。それ以降、今年7月の都知事候補の公開討論会、8月に都庁訪問した3度だけです」

 ▽リアリスト

 ―宇都宮さんの政策を参考にしたという見方もある。

 「私の都知事選出馬取りやめを予想していたかのようだ。自民が推す候補と対決するため、小池さんは政策を明確に打ち立てる必要があった。これまでの私の公約について、大変関心を持たれたのではないか。実際に(築地市場問題も)政策に取り込んだ。小池さんが所信表明で述べた『ペットの殺処分ゼロ』は私の公約でもあった。だから、あれ―と思い、むずがゆく感じることもある」

 ―ある意味、リアリストと言えますね。市場移転の問題の行方をどう見るか。

 「そう思います。石原都政では、都民の台所、食の安全という発想が弱かった。一等地である築地の跡地利用に目を向け、築地市場で働く現場の業者を考えなかった。もう白紙撤回した方が合理的です。これまで築地再整備について技術的にしっかりと話されていない。東京駅でも渋谷駅でも、駅として機能を続けながら整備できた。築地の再整備が困難なはずがない。小池さんはさらに大きな決断をしないといけない」

 ▽妥協すれば失速

 ―小池氏が都議会対策を含め、今後妥協する可能性は。

 「自分が掲げた政策で安易に妥協するなら、改革の流れはしぼんでしまう。言行一致、改革の姿勢を堅持していかないと、支持は急速に失われる。築地の問題は都政のこれまでのゆがみが集中して現れている。本気で取り組むことが、都政の改革につながる」

 ―最後に、都政に関心を持ち続け、活動を続ける宇都宮さんのスタンスについて尋ねたい。

 「弁護士の活動の延長線上にある。長年、多重債務者の救済活動をやってきた。ただ、弁護士相談までたどり着けない人が多い。自ら命を絶つ人もいる。法規制の問題に取り組んだが、背景には貧困の問題がある。東京も貧困格差が広がっている。行政を変えることが、問題の解決につながる」(聞き手 共同通信=柴田友明)

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