重ねた日々、未来へと 「アジカン」結成20年

 ロックバンド「アジアン・カンフー・ジェネレーション(アジカン)」の結成20年を記念したツアーが17日、幕張メッセ・イベントホール(千葉市美浜区)でスタートした。2017年1月10・11日には東京・北の丸の日本武道館で公演する。

 横浜市内の大学の軽音楽サークルで出会って20年。ドラムの伊地知(いぢち)潔(39)以外の3人は、初めて組んだバンドで、人生のほぼ半分を共にしてきた。

 ライブの始まりは、多くのファンが「初めて聴いたアジカンの曲」と振り返る人気アニメの主題歌「遥か彼方」。迫力あるイントロのベースが響くと、客席は総立ちに。プロへの一歩を刻んだアルバム「君繋ファイブエム」(03年)に収録した「アンダースタンド」で、ステージの四方を囲っていた幕が外されると、それまで表情を変えなかったベースの山田貴洋(39)が、最初に顔をほころばせた。同曲の演奏後、ギターの喜多建介(39)は握った右の拳を頭上にグッと突き上げた。会場も歓声を上げ、祝福した。

 スクリーンには、曲ごとに過去のツアーで用いた映像やミュージックビデオなどが流された。4人、そして客席にいる一人一人がアジカンの音楽とともに重ねた日々を確かめる。過去へと時間を戻す4人の写真の最後を飾ったのは、走り続けるいまの姿。数えて21枚目。20年の経験を肥やしに、続く未来への力強い思いを感じられた。

 「楽しくハッピーに」。ツアー初日を迎えた朝、喜多からのメールには、そう記されていたとボーカル・ギターの後藤正文(40)が明かした。「普段そんなこと言わないから、特別なツアーと思っているんだって。『おめでとう』と思って帰りたい」と続けると、喜多の方に歩み寄り、01年に初めて日本語で歌詞を書いた「粉雪」の冒頭のギターを向き合って演奏。星の瞬きのようなドラムが、会場を優しく包んだ。

 練習に使っていた横浜のスタジオの部屋番号をタイトルに付けた「E」では、ため息が客席から漏れた。バンドの名を全国区にした「リライト」では5500人が演奏音をかき消すような大声で歌い、ヒートアップ。祭りを盛り上げた。

 「ここから撮影OKです」。アンコールでは、本番中のステージを、観客が写真を撮影する時間も設けられた。スマートフォンを取り出し、撮影に興じていたファンらは「さよならロストジェネレイション」が始まると、手を止め、スマホのバックライトを照らし始めた。

 か細い光が、少しずつ増えていく。

 〈「暗いね」って君が嘆くような時代なんてもう僕らで終わりにしよう〉 会場に揺れる光は、変えようと気付いた思いを、踏み出す一歩に変えた人たちの希望のように感じられた。

 川崎市の30代男性会社員は「高校時代、対人恐怖症だった自分の、世界を広げてくれたのがアジカン。昔の曲を聴くと、その曲の中に当時、つらい思いをしていた自分がいる。活動を休止したり、解散するバンドもいるけれど、4人が活動を続けてくれることが励みになる。30年、40年と続けてほしい」と約3時間のライブを振り返っていた。

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