82歳高校生、筆走る 横須賀の岡田さん“卒業制作”

 82歳で定時制高校に通い、書道部員として健筆を振るう男性がいる。横須賀市久里浜の市立横須賀総合高校定時制3年の岡田新一さん。20日から市文化会館(同市深田台)で始まる「横須賀市児童生徒書写作品展」に、自身も約10点を出展。卒業を3月に控え、念願かない、思い出の詰まった高校生活の有終の美を飾る。

 岡田さんは同市鴨居の出身。中学校を卒業後、住友重機械工業の旧浦賀工場(同市浦賀、通称・浦賀ドック)に就職。定年後は、市内の私立高校の警備員を77歳まで務めた。

 退職後、自宅で過ごしていたある日、テレビのニュースで県内に83歳で定時制高校に通う女性がいることを知った。

 「俺も同じように行けるかな」。中学校卒業後、高校進学を夢見ていたが、戦後間もない時代。家庭の事情でかなうことはなかった。

 すぐにインターネットで調べ、自宅近くの市立横須賀総合高校に電話をした。出願締め切りが迫る中、急いで手続きを済ませ、79歳だった2014年4月に入学。浦賀ドックを退職してから書道に親しんでいたこともあり、書道部に入部した。

 部活動の時間は、午後9時の放課後から45分間のみ。休日も自由参加で登校し、部室で筆を走らせた。1〜2年生では、中国の書道教本「千字文」に挑戦。千種類の漢字がつづられた韻文を、楷書、行書、草書の3種類で書き上げた。

 昨年の県内定時制通信制高校の生徒による作品展では、その作品が書道部門で最優秀賞に選ばれた。書道部顧問の加藤泰教諭(63)は「情熱と持久力がすごい。他の生徒にとっては手本のような存在」と、腕前はもちろん、書道に向き合う姿勢に舌を巻く。

 3年間の学生生活は「苦しいことも、楽しいことも多かった」。慣れない英語に頭を悩まし、パソコンの授業では孫と同世代の同級生が手助けしてくれた。自らも教室が騒がしければ「うるさい」と人生の先輩として注意し、部活仲間とはお菓子を食べて交流した。

 市文化会館の作品展は24日まで。「日本にも貧しいときがあり、80歳を過ぎて高校生をやっているじいさんがいると知ってもらえれば」とほほ笑む。

© 株式会社神奈川新聞社