神戸製鋼のPVDコーティング事業、今中計で売上げ4~5割増へ 中国で受注拡大目指す

アーク式のAIP-S40

神戸製鋼所・機械事業部門が手掛けるPVDコーティング事業が1986年に初の装置を発売してから昨年で30年を迎えた。PVDは工具や自動車部品、高張力鋼板(ハイテン)を加工する金型などを被膜して性能や寿命を向上させるもので、神戸製鋼はこれまで550台を納入してきた実績がある。同事業のこれまでの歩みと、今後の展開を取材した。(黒澤 広之)

PVDコーティングには膜の成型技術で「アーク法」と「スパッタ法」の2種類がある。神戸製鋼が最初に販売を始めたのはアーク法のAIP(アーク・イオン・プレーティング)装置で、98年にはスパッタ法のUBMS(アン・バランスド・マグネトロン・スパッタ)装置も発売し両分野をカバーした。01年には双方を複合したR&D向けのハイブリッド装置も実現している。

神戸製鋼が納めてきた550台のうち、9割方はアーク法のAIP装置。同機はアーク放電で金属を溶かし、昇華した金属の蒸気でコーティングするが、蒸気にはプラスの、被膜する基板にはマイナスのイオンを帯びさせることで、密着性の高いコーティングができる。そのため金属同士がぶつかり合う工具や部品、金型などの被膜で特に優れている。

もう一方のスパッタ法はイオン化しにくいため、アーク法のようなプラスとマイナスを利用した密着力には欠けるが、ち密な膜ができる特長がある。自動車部品にダイヤモンドライクカーボンを被膜する際などで活用されている。

売れ筋機種のAIPシリーズは30年前の発売から進化を重ね、現在は「AIP―Sシリーズ」で3タイプが販売されている。今年3月には、これに続く新タイプ「AIPocket(アイポケット)」を発売予定だ。

アイポケットは、これまで億円単位がかかっていたAIP装置のイニシャルコストを低減させた廉価版で、新規の顧客を開拓する先遣隊のような役割を担うため開発された。

通常、カスタムメイドし供給されるAIP―Sシリーズの3機種と異なりワンモデルの汎用機で、配管や配線などをワンユニットにしているため導入に要する日数はわずか2~3日。メンテナンスもしやすく、これから表面処理事業に参入しようという受託加工会社や中小の工具メーカー向けをターゲットとしている。汎用性は高い機種だが自動車部品など高い品質が求められる被膜にも対応することで、神戸製鋼らしさを発揮している。

アーク法では、新技術を適用した「カーボンアーク蒸発源」による被膜装置も昨年から実用化している。これまでの手法では膜に水素が入り柔らかくなる難点があったものを、カーボンアークは水素フリーで60~90ギガの超硬膜を実現した。他社にも類似の装置はあるが、神戸製鋼製は作業速度が1時間で1ミクロンと、3~10倍の高速性・生産性である点が強み。アルミの切削工具などに適用することで硬度と潤滑性を高められる。

これらPVDコーティング事業は高砂製作所(兵庫県)だけでなく、2007年に米国シカゴ近郊で設立した子会社のKOBACや、09年に出資したドイツのKCSを通じ、海外でも受注してきた。

今後は中国での展開を強化していく方針で、昨年から営業を開始した神鋼産機系統工程(青島)有限公司や、神鋼商事の神鋼商貿(上海)などとタイアップし案件を獲得していく。日本高周波鋼業の子会社、カムス(本社・群馬県太田市)と技術提携した和勝金属技術有限公司が神戸製鋼のPVD装置を導入したのもその一例。中国内でも量から質へと製品の高級品志向が強まる中、神戸製鋼の確かな成膜技術も今後商機が広がりそうだ。

新メニューの投入や新市場の開拓、IoTを活用した遠隔管理といった新提案、そしてアフターサービスの強化などを通じ、神戸製鋼は今年度から2020年度までの中期経営計画で、PVDコーティング事業の売上高を4~5割伸ばす考え。機械事業部門の産業機械事業部で拡大をけん引する分野の一つと位置付けられており、今後もこうした高機能商品で新たな成長機会を探っていく。

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