【工場ルポ】古河電工タイ子会社リードフレームメーカー「フルカワ・プレシジョン・タイランド」 素材からの一貫提案に強み 薄物製品を高効率生産

フルカワ・プレシジョン・タイランド(FPT、社長・宮武幸裕氏)は親会社の古河電工などが製造した銅板条にプレスやめっき加工を施し、リードフレームに仕上げている。古河電工グループとして素材から一貫して顧客ニーズに応えられる体制や、薄物を高効率生産できる技術で競争力を発揮。今後はタイを起点に成長するASEAN地域などへの供給を拡大する。成長を支える生産現場の今をリポートする。(古瀬 唯)

洪水被害を乗り越えた工場

FPTは1996年の設立で昨年20周年を迎えた。生産拠点を構えるアユタヤ県のロジャナ工業団地は自動車や電機など多くの日系企業が立地。団地内には約600人の日本人が働いている。11年の洪水では2・8メートルの高さまで冠水。現在は被害を抑えるため3メートルを超える壁が団地の周囲80キロメートルにわたって築かれている。

FPTの生産品目は顧客の工程を短縮する全面パラジウムめっきを施したリードフレームや、半導体との接着精度を高める銀めっきを施したトランジスタやIC用リードフレームなど。併せて外部のプレスメーカーに出荷する半製品の銀めっき条も手掛けている。工場の敷地面積は約1万5千平方メートルで、建屋面積は約8千平方メートル。約180人の従業員が日々高品位な製品づくりに取り組んでいる。

材料は古河電工の日光事業所で製造したものが多い。銅に錫を加えたEFTEC3や銅に錫やクロム、亜鉛を添加したEFTEC64などの板条を加工している。宮武社長は「素材とプレス、めっきのトータルで顧客の要望に応えられることが我々の競争力」と話す。日光事業所に顧客の使用条件を伝え、銅条の熱処理や表面の条件などに反映させることでより深い提案が可能になる。またタイのリードフレームメーカーとして唯一プレスとめっきを同時に手掛けており、双方でバランスを取りながら製品を最適化できる強みもある。

プレス機や付帯設備にはアレンジを加えている

工場の一階には銅板条を打ち抜いて成形するプレス設備を配備している。現在の主力設備は80トンの圧力で打ち抜くタイプのプレス機と60トンタイプのプレス機。FPTのリードフレームは厚み0・2ミリメートルの製品が中心。

薄い物では0・1ミリ厚を下回る製品も有している。ハンドリングが難しい薄物を高効率、高品位に製造するため「プレス機や付帯設備にはさまざまなアレンジを加えている」(宮武社長)という。材料の銅条を一定間隔でプレス機に送り出し品質の安定性を向上。加えてプレス後の半製品をリールに巻きながら取り出す際に、変形を防ぐ工夫が凝らされている。

洪水の際にはすべてのプレス機が水没。災害の中でも供給責任を果たすため、古河電工が日本に持つ工場に数十人を派遣し代替生産を行った。また高い精度を維持するため復旧時に全プレス機を更新している。

二階には電気めっきのラインを配置。めっき種ごとに長さ約30メートルのラインが並んでいる。パラジウムめっきのリードフレームは銅の基材に下地のニッケルめっきを施し、その上にパラジウムや金などを多層めっきする。トランジスタ用のリードフレームには線状に微細な銀めっきを、IC用リードフレームには顧客の指定部分に限定してスポットの銀めっきをかける。すべてのめっき種で電流やめっき液の管理を徹底。

パラジウムは全面に均一な厚みで製膜することがポイント。スポット銀めっきは極めて微細な位置精度が求められ、治具の管理や基材を送るスピードなどの制御が重要となる。また高品位を実現する配慮が随所にあり、現場ではマスクの着用が義務付けられている。併せて湿度が一定に保たれているほか、ほこりの侵入を防ぐため外気はフィルターを通して導入している。

「洪水後の復旧を第二の創業と位置付け、再起に取り組んできた」と宮武社長。新規顧客の開拓などで売り上げは着実に回復している。今後ASEAN地域では自動車・家電需要の拡大が見込まれ、リードフレームのニーズが増加する見通し。FPTでは高品位な製品を現場から送り出しながら、新たな成長局面を目指していく。

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