〈日本水道鋼管協会創立50周年〉耐震化・長寿命化に貢献 最新技術、規格制定で業界ガイドライン作成

日本水道鋼管協会(WSP、会長・狩野久宣JFEエンジニアリング社長)は今月、創立50周年を迎える。水道用鋼管の開発、普及を目的として、半世紀の間、各種技術開発や研究、規格制定、需要家へのPR活動などを行ってきた。近年では、水道用鋼管の耐震化・長寿命化への対応がキーワードの一つとなっており、実務、制度両面からの様々な活動で水道界に周知を促している。WSPの半世紀にわたる活動について足跡の一部を紹介する。(後藤 隆博)

老朽化した既設管内に鋼管を挿入して敷設するパイプ・イン・パイプ工法

日本水道鋼管協会(以下WSP)が設立する前、日本は高度経済成長が続くなか、水道分野における鋼管業界の足並みが揃っていなかった。こうした状況下、当時日本鋼管(現JFEスチール)の顧問だった井深功氏と赤坂武社長らが水道用鋼管の普及促進を図るため、鋼管メーカーの結集に奔走した。こうして1967(昭42)年1月30日、鋼管メーカー18社を会員とする日本水道鋼管協会が設立された。

初代会長には赤坂氏、常務理事には井深氏が就任。以後、水道用鋼管の技術・研究開発をはじめ、WSP規格・基準の制定、機関誌の発刊、各種広報活動などを展開してきた。さらに全国の主要7都市に支部を設け、需要家のニーズ集約と情報発信などの活動を推進。現在は、会員企業59社、特別会員2団体の計59社2団体で構成する任意団体となっている。

創立当時、日本の水道普及率は70%程度。水道施設の整備が急務だった時代で、導・送水管や配水本管など大口径ラインを中心に鋼管が次々と採用された。

70(昭45)年には、建築設備配管用ライニング鋼管の技術開発や普及拡大などを取り扱う小径管部会が発足。水道用鋼管を担当する大径管部会、協会活動全体のとりまとめ役を担う運営部会と合わせた現在の3部会体制の基礎が作られた。

WSPの技術開発の成果は技術資料として整備され、現在62種類の規格・基準・指針として刊行しており、多くの実務家に活用されている。

大径管部会 建設プロジェクトに実験・研究で技術協力

大径管部会は各種水輸送の管路に使用される一般埋設用鋼管をはじめとした水管橋、鋼製配水池、緊急貯水槽、海底送水管、パイプ・イン・パイプ工法、SDF工法などの各種鋼製品や工法の設計・製作施工の技術開発・実験・研究を行っている。これまでも、数々の大規模幹線建設プロジェクトへの技術協力を手がけてきた。

中小口径管内にステンレス・フレキ管を挿入するSDF工法

建設省(現国土交通省)が72(昭47)年から整備を進めた北千葉導水路は、軟弱地盤に口径3600ミリという大口径管路を建設する計画だった。事業に先立ち、建設省との協議でWSPへの委託事業として同口径の鋼管を用いた埋設鋼管実験が行われた。

この実験・検討結果によって、鋼管は全長の80%に当たる20キロメートルに採用。また、施工効率化を図るために、自動溶接機やジョイントコートといった新技術も適用された。同工事は74(昭49)年から本工事を開始。98(平10)年に導水路と3つの機場が完成し、2000(平12)年に本格通水が行われ、首都圏の利水と河川浄化に貢献している。

81(昭56)年から建設された霞ヶ浦用水事業では、土圧計や歪み計など計測機器を設置して土の受動抵抗係数や設計支持角・内圧負荷時の鋼管のたわみ復元などの埋設鋼管の挙動試験を実施し、安全で最適な設計に寄与した。

04(平16)年には、水輸送用塗覆装鋼管(JIS G3443)と水輸送用塗覆装鋼管の異形管(JIS G3451)について、日本鉄鋼連盟から維持管理団体の移管を受けた。これを機に旧規格を廃止して新たに同鋼管のJIS G3443(―1~4)の規格群が制定された。

近年では、長寿命形水道用塗覆装鋼管(100年水道鋼管)の技術確立に注力した。直近の水道事業体での管路更新率は全国平均で年間0・8%程度。このままでは、全管路を更新するのに130年以上かかる試算となる。管路の健全性や事業体の財政面などの観点から、長寿命化技術の開発ニーズは高まっていた。

WSPでは「水道用鋼管長寿命化研究委員会」を設置。水道用鋼管の内外面塗覆装の長寿命化について、外面プラスチック被覆と内面無溶剤形エポキシ樹脂塗装の調査・試験検討を重ね、長寿命の防食仕様(100年水道鋼管)を確立した。

水輸送用塗装鋼管のJIS原案作成委員会(2013年9月)

ちょうど水輸送用塗覆装鋼管(JIS G3443―1~4)で5年目の定期見直しの時期を迎えたこともあり、13(平25)年にJIS原案作成委員会で長寿命の防食仕様を含んだ改正原案を決定。日本標準調査会の審議を経て、翌14(平26)年に経済産業大臣から公示された。WSPでは長寿命形水道用塗覆装鋼管の普及のため、水道事業体へのPR活動や作業見学会、会員などに向けた塗装講習会を実施している。

断層用鋼管。地盤変状の動きを吸収し通水機能を維持する

耐震関連では、東日本大震災発生での漏水被害事例を考慮して、伸縮可撓管の耐震性能向上を図った規格の改正を行った。また、日本に多い逆断層を横切る基幹管路の安全性向上のため断層用鋼管の実験・解析を行い、新規格として制定した。

更新工法関係については、従来、トンネル内配管に併記されていたパイプ・イン・パイプ工法、シールドトンネル内配管について、個別工法に適用範囲を絞った技術資料として発刊。さらに、中小口径管の更新としてSDF工法も刊行。現在は、更新・更生計画策定マニュアルの見直しを行っている。

小径管部会 ライニング鋼管の需要拡大

小径管部会は70(昭45)年設立以降、給排水・給湯・消火・空調などの建築設備用配管材を中心として、各種ライニング鋼管などの技術開発、規格制定、普及促進に尽力している。

戦後、給水管には水道用亜鉛めっき鋼管が大量に使用されたが、河川の水質汚濁が進み塩素の注入量が増加したことで、鋼管内面にサビや赤水が生じるなどのトラブルが続出した。こうした亜鉛めっき鋼管腐食の原因究明と対策検討、代替の給水用新製品開発などを手がけるために誕生したのがWSPの小径管部会だった。その後、亜鉛めっき鋼管に代わって、防食鋼管として硬質塩化ビニルライニング鋼管やポリエチレン粉体ライニング鋼管が開発され、今日に至る。

塩ビライニング鋼管は当初、化学工場などに使用される耐食性の高い装置用配管材として開発された。その後、日本住宅公団(現都市再生機構)がメーカーと共同で、口径20~25ミリの小径管開発に成功。72(昭47)年に日本水道協会により規格化されると全国的に普及した。建設省(当時)も、77(昭52)年から全面的な採用に踏み切っている。

水道用ポリエチレン粉体ライニング鋼管については、当初小径管部会を構成していた高炉メーカー4社が、亜鉛めっき鋼管に代わる給水用新製品の研究開発を行って誕生。WSPは77(昭52)年に規格(WSP016)を制定した。同年文部省(現文部科学省)が本格採用に踏み切り、全国の国立大学や大学病院などの施設で採用された。また建設省(当時)は81(昭56)年版工事共通仕様書により採用を決定した。耐寒性に優れていることから、とくに寒冷地での普及が進んだ。

ライニング鋼管のネジ接合部の防食対策として管端防食継手の開発は83(昭58)年で、98(平10)年に日本水道協会規格(JWWA K 150)が制定。現在では、建築配管の主流となり、ほとんどの継手メーカーが製造している。

製品紹介パンフレットについては、需要家の利便性向上を図るため総合カタログを見直し、巡回PRに活用。また、昨年度末には地方自治体からの要請で実演を含む鋼管技術講習会を実施。ユーザーを対象とした技術セミナーも適宜開催しており、昨年12月には初めて関西地区(大阪)で開催した。

小径管部会の対象製品における規格は、日本水道協会(JWWA)規格3種類、WSP規格8種類の計11種類ある。このうち、JWWA規格3件とWSP規格4件については見直しが完了。現在、残り4件の改定作業を行っている。

さらに、硬質塩化ビニルライニング鋼管のリサイクル事業にも取り組み、2000(平12)には、リサイクル事業を専門に行う塩ビライニング鋼管リサイクル協会を設立。加熱分離プラントと回収ステーションの運営にあたっている。

二度の大震災被害を教訓に

もっとも重要なライフラインである水道施設にとって、95(平7)年の阪神淡路大震災と11(平23)年の東日本大震災は、水道管における耐震対策・技術開発の面で多くの教訓を残した。WSPも復旧・復興に向けた各種調査や実験、規格改正などを行った。

阪神淡路大震災では、震災直後の2~3月に水道用鋼管や1100カ所にも上る水管橋の被害調査を実施。損傷程度を3段階に分類したマトリックスをまとめ、復旧作業に関する提案を行った。その後、埋設管、水管橋、鋼製配水池などの耐震設計法の確立、鋼管圧縮試験、曲管部耐震性実験、既設施設耐震診断への協力、震災害緊急時支援体制の確立などに注力した。

東日本大震災時では、応急復旧を支援するため、復旧支援などの受発信センターとして被災事業体、日本水道協会と会員企業との情報連絡を行った。会員各社は被災事業体の応援要請に基づき、被害調査、復旧案の提案、資機材調達、応急復旧工事などを実施。厚生労働省には、地震被害の特徴の分析や復旧・復興に向けた提言をまとめて報告した。

WSPはこれまで、過去に生じた水道鋼管に関する問題点に対して真摯に向き合い、さらに信頼性の高い鋼管技術の確立をめざして調査研究や開発に尽力してきた。今後も、時代ニーズに合った技術指針類の整備、技術セミナー、各種PR活動の実施など、需要家サービスの充実に努め、重要ライフラインである水道施設の維持・向上に貢献していく。

日本水道鋼管協会・狩野久宣会長 強靭な水道管路構築へ注力

日本水道鋼管協会(WSP)は、お陰様で本年1月に創立50周年を迎えることができました。関係者の皆様方には、これまでの協会活動に多大なるご理解とご支援を賜り、心より感謝申し上げる次第です。

当協会は水道用鋼管の普及促進を図るため、昭和42年に鋼管メーカー18社により創立されました。45年には建築設備配管用のライニング鋼管も普及対象として含め、現在では会員企業59社、特別会員2団体の合計59社2団体から構成される任意団体として活動を続けています。

当協会の主な活動は、水道用鋼管に関わる技術開発、WSP規格や基準類の制定・改正をはじめ、機関誌の発行、技術セミナーの実施、ホームページによる情報発信や水道資機材展への出展など多岐にわたります。中でもWSP技術資料として発刊されている水道用鋼管、水管橋、耐震性貯水槽、鋼製配水池、断層用鋼管、ライニング鋼管などの製品規格や基準・指針等は、わが国の水道事業や建築配管分野における設計・施工に不可欠な存在となっており、水道に関わる実務家の皆様に幅広くご活用いただいております。

現在、わが国の水道事業においては、年々老朽化が進行している既設水道管路の更新・耐震化が喫緊の課題となっておりますが、ここ数年の管路更新率は全国平均で1%を割り込んでおり、一刻も早い対策が必要な状況となっています。

そこで当協会では、耐震化と長寿命化を技術開発のキーワードとして、更新工法には非開削かつ耐震性に優れたパイプ・イン・パイプ工法を整備し、また長寿命化管材として100年水道鋼管を開発し、管路の更新・耐震化の推進に尽力して参りました。

これからの水道事業では、更新・耐震化・長寿命化に加え、水道の広域化や施設の再構築、官民連携の推進やICT化など多様な展開が予想されますが、私どもはこれらのニーズを先取りした技術開発を進め、強靭な水道管路の構築に貢献して参りたいと考えております。引き続きご愛顧を賜りますよう、宜しくお願い申し上げます。

© 株式会社鉄鋼新聞社