海運業界でICT導入の動き 運航管理などに

 海運市況や燃料油価格の激しい変動という高波に翻弄(ほんろう)される海運業界で、船舶の運航管理などに先進技術の情報通信技術(ICT)を導入する動きが始まっている。先駆的に取り組む商船三井(東京都港区)はICTを利用して船舶の運航の安全性を高める専門部署を新設。横浜国立大学(横浜市保土ケ谷区)と共同でビッグデータを活用した研究に乗り出した。

 海運市況は、中国の景気動向や世界的な船舶の需要と供給のバランスなどに左右され、近年は乱高下が珍しくない。海運業界としては、これまでの経験や知識に加え、不確定要素の多い現状の先を見通したい、そのための技術革新を、という欲求が高まっている。

 同社は昨年12月、船舶と陸上の間でICTを活用する中核拠点となる「スマートシッピング推進室」を新設した。船舶の状態を陸上から遠隔監視し、運航管理を高度化、最適化するために、船のセンサーデータを収集・蓄積するシステム船舶IoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)といったICTの要素技術を活用。輸送の安全性と運航効率の向上が期待されるという。

 激しく変動する海運市況や燃料油価格を、AIを用いて高い精度で予測しようと、同社は昨年8月に横浜国大との間で海運ビッグデータの分析と活用に関する共同研究契約を締結した。

 同大大学院環境情報研究院の長尾智晴教授はAI分野における国内有数の研究者として知られる。自動車の知能化研究をはじめ、金融機関など120社を超える企業との共同研究の実績がある。同社は長尾教授らと共同研究の領域を広げ、経営支援ツールの開発を進めることを狙う。

 昨年11月に同社が発表した新たな技術開発プロジェクト「船舶維新NEXT」では、ICTを採用して自律航行が可能な船舶を目指し、高度安全運航支援技術の開発を進めると表明。同社は「ICTの要素技術と顧客の潜在的なニーズを結び付けることで、安全運航や環境負荷低減技術を深め、営業力の強化や企業価値の向上を図りたい」としている。

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