【現場を歩く】〈住友電工焼結合金・岡山工場〉IoT活用の新鋭工場建設 品質、納期対応など競争力で優位性発揮

住友電工子会社の住友電工焼結合金(本社・岡山県高梁市、社長・林哲也氏)は鉄粉などを焼き固めて製造する焼結製品の大手メーカー。同社が本社を構える岡山工場は、住友電工グループが9カ国16拠点で展開する焼結製品事業のマザー拠点となっている。現在焼結製品のほとんどが自動車部品用で、エンジン部品向けが半分以上。高い品質力と納期対応力が求められる車載市場で成長を目指す中、技術の中核となるマザー拠点の使命は大きい。岡山工場を訪れる機会を得たので現地の今をリポートする。(古瀬 唯)

焼結製品は複雑・高精度な形状での大量生産が可能で、他の加工と比較し材料のロスや重量あたりの消費エネルギーが非常に小さいことが特長。また粉末を原料に用いていることから偏析が起きないため、様々な合金を作成できることも利点だ。林社長は「比較的新しい材料として高いポテンシャルを有している」と話す。現在はエンジンバルブの開閉を制御する可変バルブタイミング機構(VVT)や、エンジンオイルのポンプ部品などで用いられている。

住友電工では1948年から焼結製品の製造を開始。住友電工焼結合金は72年に岡山住電精密として設立され、91年に現在の社名に改称した。主力の岡山工場では鉄粉を原料とした焼結製品を製造。敷地面積は約9万5千平方メートルで約850人の従業員を擁している。グループ全体の生産能力は月間約6千トンで、岡山工場はその3分の1となる月間2300トンのキャパを有する。

製造は原料粉の配合からスタート。鉄粉をベースに繋ぎとなる銅粉や黒鉛、潤滑剤など混ぜ合わせる。次工程では混合した粉末を穴状の金型に入れ、パンチ設備で1平方センチメートルあたり6~7トンの圧力をかけて成形する。粉末を器械的に絡み合わせた成形体は手で力を加えるだけで崩れるが、熱を加え焼結することで飛躍的に頑丈になる。

自動車部品などに多く用いられる焼結製品
住友電工グループの技術を結集した第6工場

1100~1200度Cに加熱することで、粉末の中の銅と黒鉛が溶解。鉄との合金に変化し、鉄粉同士を強固に接合する。焼き固めた製品は一度冷却。歪みの矯正などを行うサイジングのため再び金型に入れて圧力をかける。その後はNC旋盤などでの切削加工や検査などを経て出荷となる。

日系自動車関連の大型受注を順調に獲得しており、現在岡山工場はほぼフル稼働となっている。今後も高い稼働率が続く見通しで、生産能力を高めるため16年に第6工場を建設。VVT部品を増産している。

第6工場は住友電工グループの総合力で品質や生産性を極限まで高め、リードタイムを大幅に短縮した新鋭工場。住友電工の情報システム部門や生産技術部門が持つ技術を集め、IoT(モノのインターネット化)を生かした先進的なシステムを導入している。一つひとつの製品に背番号をつけ、どの工程をいつ通ったかを秒単位で記録。加熱する温度など10種類以上の情報を細かく収集し、自動でサーバーに蓄積していく。集めたデータは製品の品質に関連付けし、最適な生産条件の抽出に活用。

データは半製品の搬送トレイに内蔵したICチップから、無線でサーバーに飛ばし記録している。併せてレーザーで2次元コードを製品に印字する工夫で、出荷後にも個々の部品をフォローできる体制を整備。

また仕掛品を一切持たず製品1個ずつを一気通貫で完成させる生産方式も特長。投入された原料粉末はプレスや焼結、機械加工などを施されその日のうちに完成品となる。各設備にはインライン検査機が設置されており、不良があれば次工程に行く前に判別可能。加えて搬送などでは徹底した自動化も進めている。

エンジセンターで技術力PR、材料・造形技術など説明

自動車部品の受注には品質に加え納期対応やコストの優位性が極めて強く求められるが、合理性を追求した第6工場のリードタイムは従来工場の10分の1。さらに従業員は昼夜勤合わせて40人と半分以下に抑えており、圧倒的な競争力を誇っている。林社長は「グループの技術を結集した工場で、強いモノづくり力をアピールできる」と期待する。

加えて今後のグローバル展開でも第6工場が担う役割は大きい。住友電工では世界的に焼結製品の供給を拡大させる計画で、北米やアジアなどでの工場増設を視野に入れている。第6工場のシステムで収集・蓄積した品質と生産条件のデータを海外で用いることで、今後増設する工場の品質力を強化できる。

住友電工焼結合金の持つ強みは卓越したモノづくり力だけにとどまらない。材料や造形などの幅広い技術も顧客からの厚い信頼に繋がっている。切削など機械加工は後工程が一般的だが、同社では焼結前の柔らかい段階で加工する技術を有する。切削工具の事業部門と連携し、被削物が欠けない最適条件を導き出して実現した技術は、加工効率を従来の5倍に高めている。

新型の高温焼結炉で焼結と熱処理を同時に行い、生産性や精度を高めるシンターハードニング技術を持つことも特長。同社が確立した新手法に対し国際的に関心が高まっており、技術開発をまとめた論文は昨年、欧州の粉末冶金国際学会が主催した国際会議でアジア勢初の論文賞を受けた。

幅広い技術をアピールするエンジニアリングセンター

同社では材料・造形技術のアピールにも力を入れており、13年には岡山工場内にPRなどの拠点であるエンジニアリングセンターを開設。延床面積は約3千平方メートルで現物やパネルなどで技術を紹介するテクニカルショールームや研修室などを有している。

併せて性能や耐久性を試験でき、顧客の工数を減らせることもエンジニアリングセンターの特長。エンジンポンプとして組み立てた焼結製品にオイルを通し吐出量を計測する機械や、実際の動作環境を再現し摩耗や性能劣化がないことを検証する装置などを有している。また顧客と設計などの検討をスムーズに進めるため、樹脂製の部品モデルを作成するマシニングセンターを配備。エンジニアリングセンターには徹底したユーザー目線で早期段階から共同開発を進めやすくする工夫が凝らされている。

これまでユーザーの設計や購買部門から担当者や責任者など様々な層をエンジニアリングセンターに招いており「実際に来ていただき焼結製品への理解を深めてもらうことが、引き合いに繋がると実感できた」(林社長)という。

岡山工場で手応えを得たことを受け、エンジニアリングセンターを海外拠点でも積極的に展開。昨年には中国とタイ、米国の拠点にも相次いでショールームを開設した。今後は海外でも評価設備の導入を視野に入れる。

住友電工グループは焼結製品で世界大手の一角を占めているが、今後はエンジニアリングセンターの活用などで更なるシェア拡大を図る考え。併せて他素材からの代替を目指していく方針だ。焼結製品のマザー拠点である岡山工場は、これからも事業の成長を牽引し続ける。

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