選手個人のためだけではない!? 米球界で多様化する「インセンティブ」の形

インセンティブ。今では一般企業にも浸透している用語だが、プロスポーツの世界では長らく一般的な契約事項として活用されてきた。日本では出来高という言葉が用いられる場合が多いが、インセンティブを契約に付帯することで何が生まれるだろうか。

ドジャース・前田健太【写真:Getty Images】

「出来高」を契約に付帯して生まれるものとは?

 インセンティブ。今では一般企業にも浸透している用語だが、プロスポーツの世界では長らく一般的な契約事項として活用されてきた。日本では出来高という言葉が用いられる場合が多いが、インセンティブを契約に付帯することで何が生まれるだろうか。

 球団側にとっては、まず全体の金額を抑えることにつながる。怪我明けの選手についてのリスクを制限する一方で、結果を残した選手に対してはそのパフォーマンスをしっかりと評価する。「WIN-WIN」の状況を作り出すことが、理想的な形とも言えるだろう。

 昨シーズン、ロサンゼルス・ドジャースの前田健太投手が結んだ契約は記憶に新しい。当時の為替で年俸約3億6000万円(300万ドル)とメジャーリーグの平均と比較しても低いものだが、インセンティブを含めれば最大で8年127億4400万円(1億620万ドル)となる契約だ。

 そのインセンティブには、開幕ロースター入りで15万ドル(約1950万円)、15先発登板から5先発登板につき100万ドル(約1億3000万円)、90投球回から10回につき25万ドル(約3250万円)など、怪我がなければ高い確率で獲得できるものから、パフォーマンス次第で手にできるものまでが含まれていた。

 インセンティブ重視の契約には、将来を不安に思う球団側の意向が強く含まれているものもあれば、過去の実績を評価した上でお互いにとってプラスとなっているものも存在する。

前田と同い年の左腕の基本給が高かった理由は?

 つい先日、シカゴ・カブスと合意に至ったブレット・アンダーソン投手の契約がその例として挙げられる。2009年に21歳という年齢で11勝をマークし、将来を嘱望された左腕はその後、怪我との戦いを続けてきた。それでも、2015年にはロサンゼルス・ドジャースでキャリア2度目となる2桁勝利(10勝9敗)、防御率3.69を記録。だが、翌年の2016年シーズンはメジャーではたったの4登板に終わってしまった。

 そして、復帰を目指すアンダーソン投手が結んだのは、1年約4億200万円(350万ドル)の契約。先発登板数を重ねていけば、最大約7億4650万円(650万ドル)のインセンティブが追加され、最大約11億4860万円(1000万ドル)を得ることとなる。

 契約を結んだ年に1年のズレがあるものの、昨年4登板に終わった投手が、メジャー契約を結ぶ前の年に日本で沢村賞を取った前田より高額な基本給を得ることができたのはなぜか。それは、アンダーソンに未知なる部分が少なく、過去の実績(2度の2桁勝利)に対して契約が与えられたのだろう。アンダーソンと前田は左投げ・右投げなど特徴に違いはあるため単純に比較はできないが、共に1988年生まれの28歳だ。

 日本でも契約更改では外国人選手、そしてチームの中心選手に対しては出来高が契約に組み込まれている場合が多くある。“未知”の存在に対してのリスク軽減、そして中心選手への基本給を下げるという意味合いがあるだろうが、限られた資金の中でのやりくりという見方もできる。

エンカルナシオンの契約に盛り込まれた“珍インセンティブ”

 そのかわりに、日本では、契約更改というフロントと直接コミュニケーションが取れる場で、中心選手が金銭面以外のインセンティブを要求したことが報じられることも多い。このオフも福岡ソフトバンクホークスの和田毅投手がスタッフの待遇面の改善を要求した。

 そして、今オフにはさらにユニークなインセンティブを含む契約が結ばれた。昨シーズンまでトロント・ブルージェイズの中心打者としてチームを引っ張ってきたエドウィン・エンカルナシオンが結んだ契約には、観客動員数が増えると発生するインセンティブが含まれた。

 新たな本拠地となるクリーブランドは昨シーズンワールドシリーズ進出という快進撃を見せたものの、レギュラーシーズン中の観客動員はメジャー30球団中28位の約159万人に留まった。今回のエンカルナシオンの契約に含まれたインセンティブでは、ホームの観客動員が200万人に達することができれば、100万ドル(約1億2000万円)が追加される形となっている。

 インセンティブ条項が細かく発表されることで、応援する側も選手の評価に直接的に貢献することができる。エンカルナシオンがチームを引っ張り、盛り上がりを生み出せれば、ファンにも彼を目に見える形で応援しようという気持ちが生まれるはずだ。今後、日本でもパフォーマンス面に限らず、グッズの売り上げなどのインセンティブ条項を公表するという流れになっても不思議ではないだろう。

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

「パ・リーグ インサイト」新川諒●文

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