【営業トップに聞く】新日鉄住金・佐伯康光副社長「マージン改善が最大課題」 「国内外で鉄鋼需要は堅調」

新日鉄住金・佐伯康光副社長

――新年も1カ月が過ぎましたが、昨年の振り返りも含めて、どんな年になりそうでしょうか?

「まずもって、大分製鉄所の厚板工場火災ではお客様をはじめ、地域の皆様、関係者の皆様に大変なご迷惑やご心配をおかけしており、深くおわび申し上げます。お客様への影響を最小限に抑えるように懸命に取り組んでいるところです」

「(一呼吸おいて)2016年を振り返ると、まず海外マーケットでは、世界の鉄鋼需要が持ち直し、緩やかな回復の局面にある一方、供給サイドでは中国の過剰生産能力問題が大きく取り上げられた一年だった。この問題はG7、G20でも議論されグローバル・フォーラムが設立されるに至り、中国政府も5年間で1億~1・5億トンの能力削減を発表。16年は4500万トンの削減達成が公表されている。これらを一定の成果として評価することはできるが、しかしながら中国の粗鋼生産自体は減少するどころか対前年で明らかに増加している。鋼材輸出の減少傾向を踏まえると、堅調な内需に対応した側面もあろうが、やはり水準としては極めて高く、今後の生産動向には引き続き注視しなければならない」

「日本国内に関しては、需要は自動車・建築を中心に持ち直し、年後半に回復してきた。そうした中で在庫については、代表的な指標である薄板3品在庫が400万トン以下で推移するなど適正水準に入ったと認識している。当社としては、これまで先行して在庫調整に取り組んできたわけだが、結果としてマーケットの需給バランスが適正化したことは評価したい。引き続き、需要見合いの生産に徹していくことが肝要だ」

――新17年のマクロ経済は。

「17年の世界経済そのものは、IMFによる成長率見通しが3・4%(前16年は3・1%)と堅調だ。米トランプ大統領の政策や英国のEU離脱影響、さらに議会選や大統領選が続く欧州の政治動向など、不確実性に十分注意を払う必要があるが、改善傾向にいくと期待している」

――鋼材需給は?

「鋼材需要は日米欧が回復する。アセアン・インドなど新興国はさらに伸びる。中国経済も現状、底堅く推移しており、鋼材需要は好調だ。昨16年は2年ぶりに内需が増えた。販売が年間3千万台に迫ろうという自動車や不動産投資の分野で堅調に推移している。減速懸念はあるものの、中国政府の経済運営によって十分コントロール可能との意見も多い一方、供給面ではやはり中国の動向に引き続き注視が必要だ」

「中国鉄鋼業においては、仮に需要が減少に転じた場合でも、それに見合う生産規模を本当に実現していけるのかどうか。中国政府の1・5億トンの能力削減計画の進捗や環境規制の動向、それらを含め鉄鋼業界のさらなる再編の可能性もあり、注意深く見守っていきたい」

――海外市況について。

「鋼材市況は需給バランス、原料価格含むコスト、鋼材が持つ価値や利益水準といった構成要素で決まる。少なくとも現状の価格水準は再生産可能なレベルとは言えないと思う。中国鋼鉄工業協会(CISA)加盟のミルは、まだ赤字会社も多い。原料コストが大きく変わらないとすれば、市況には引き続き上昇の要素が強いとみている」

――17年(年度)の内需と価格動向について。

「17年度の日本経済は、世界各国での保護主義のまん延や不安定な為替動向、および中国経済の下振れ懸念などのリスクが存在するが、国内経済は個人消費の底打ちに建築・土木分野の拡大も期待でき、緩やかな回復基調が続くものとみている。鋼材内需も回復基調が続く。建設分野では五輪需要に首都圏再開発、インフラ老朽更新などが期待できるほか、自動車は完成車生産・KD生産ともに16年度を上回るとみている」

「こうした環境下、国際市況が15年末のボトムから200数十ドル上昇しているのに対して、国内鋼材市況は改善が遅れている。国内の需給は引き続き堅調で、市況は今後も上伸するものと考えている」

――新日鉄住金の17年度の販売方針・重点戦略は。

「当社中期計画の最終年度に当たり、その確実な達成に一層注力する。営業部門では、当社が有する技術・品質・ソリューション提案力、グローバルでの供給体制などの総合力をフルに発揮するとともに、それらの価値をお客様に一層認めていただけるよう丁寧な会話を積み重ねたい」

「また、グローバルマーケットにおいて自動車・資源エネルギー・インフラに家電を加えた戦略分野を中心に、国内からの輸出と海外現地生産を組み合わせ、高級鋼需要を確実に捕捉する。海外拠点拡充では、自動車分野で17年半ばにインドネシアのKNSS社、18年初に米NSCI社の営業運転を予定している。インフラ分野では18年半ばの立ち上げを目標に、タイでNSブルースコープ社の第3めっきラインの建設に取り組んでいる」

日新製鋼子会社化後にシナジー追求、インドネシアなど「海外合弁、新たに営業運転へ」

――足元の最大課題については?

「まずは国内鋼材市況の改善が国際市況に対して遅れている。これを早期にキャッチアップしていくことが重要なポイントだ。加えて、事業継続投資を行うための『再生産可能な適正価格・マージンの確保』がやはり喫緊の課題と言わざるを得ない。当社はそもそも品質高度化に伴う生産負荷の増大や商品開発、設備高齢化を背景に再生産可能な利益水準を実現すべく価格・マージンを改善することが重要な課題であると認識してきた。しかし昨年の夏場以降、原料価格が高騰したことから、その鋼材価格への反映が喫緊の課題となり、まずはこれをお客様にご理解いただくべく丁寧に対話をさせていただいているところだ。ただし、これをご理解いただけたとしても、依然としてマージン不足の状況に変わりはない。改めて本来の『再生産可能な適正価格・マージン』の実現が大きな課題として横たわっており、お客様にお願いをせざるを得ない状況にある」

「やはり17年は価格・マージンの改善が最大課題。全力で粘り強く取り組んでいく」

――日新製鋼子会社化では、公取の承認手続きが完了しました。

「子会社化が実現した後、シナジー追求に向けてさまざまな対策に早期に着手していきたい」

――最後に原油価格の見通しを。エネルギー分野向け鋼材の需要回復時期は?

「OPEC減産に伴い、足元原油価格が50ドル超で推移するなど一定の効果は現れている。ただ原油価格上昇に伴う米国シェールオイルの採掘活動復活、トランプ米大統領の環境規制緩和などで、原油の供給が増えて再び価格が下落するとの見方もある。鋼材需要面では原油価格低迷による上流部門の収益悪化を受け、石油メジャー各社とも一部プロジェクトで延期・中止を表明しており、本格的な投資再開とそれに伴う鋼材需要回復にはしばらく時間がかかると想定している」(一柳 朋紀)

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