【現場を歩く】〈非鉄金属リサイクルの老舗・井戸商店〉多品種の集荷ルート確立

事務所では社長、常務ら3人が顧客対応

山手線が乗り入れるJR大塚駅北口から北西へ伸びる折戸通り。飲食店や住宅が軒を連ね、古くから商業が盛んであったというこの通りの一角に、非鉄金属リサイクル原料問屋・井戸商店(社長・井戸康之氏)がある。創業の日付は判然としない。長らく大正10年創業としてきたが、精査するうちに明治末年までさかのぼることが明らかになったという。いずれにしろ、都内・城北地区では一番の老舗だ。(佐藤 創太)

1948年、株式会社として組織変更するも、社名は創業時の屋号を継続。イメージ刷新を図り〝横文字〟に変える企業も多い中、名実ともに初代の精神を継承してきたと自負している。

2階建てのメーンヤード

一般にはなじみのない用語だがリサイクルの世界では建場(たてば)という言葉がある。古紙や金属スクラップなどの回収業者がリヤカーなどでその日にかき集めてきたあらゆる廃品を、品種問わず買い取る金主的存在のことだ。「言わば建場的感覚。そのスピリッツが今も受け継がれているように思う」と井戸社長。銅を中心とする原料問屋でありながら、取扱い品種はアルミ、貴金属、ステンレス、鉛や亜鉛など実に多様だ。

小ロット対応得意

銅原料をプレス機にかける

月間の取扱量はばらつきがあるが、平均で400トン余り。銅系が約6割、アルミが2~3割を占め、残りがステンレスや鉛、輸出向け原料となる。多品種・小ロット対応を得意とするスタイルは、都心型の原料問屋ならではのもの。都内近郊の工場や建築・解体現場からのさまざまな発生品が持ちこまれるためだ。一方で「持ち込みが3割、こちらからの引き取りが4割、1~2割が入札案件」(井戸社長)と、引き取りの品物が占める割合も多い。東北から静岡県内まで商圏に持ち、地方からの荷も積極的に取り扱っている。

的確な選別に細心の注意払う

廃基板の選別工程

近年のリサイクル業界における流通構造の変化は、とりわけ同社のような都心型の問屋に打撃を与えてきた。需要家である加工メーカーの海外移転、異業種の参入による競合の激化や工場リターン材の増加によって、問屋の取扱量は漸減。そのうえ、地方から東京へと集まってきた品物は次第に地方で処理されるようになり、広大な土地を求めてヤードを郊外に移す業者も増えていった。井戸社長は「地方荷は、昔に比べると確かに数量が減ってきている。でも、うちは色んなことをやっているから」と笑う。

2月上旬、都内で雪が舞った日に同社を訪れた。本社事務室では社長と弟の雄三常務が顧客対応に追われており、会長の和彦氏の姿も見える。同社の朝は7時半から始まる。外電でLME(ロンドン金属取引所)の非鉄金属価格の値動き、為替動向や海外ニュースをチェックするのは井戸社長の大切な日課。続いて配車・納車状況や前日の仕入れ量・売り上げの確認などを行う。

集められたCPU

一方、隣接するヤードでは、8時前から早くも作業が始められている。同社のメーン倉庫は、都内の問屋では珍しい2階建て構造。1階にプレス機、シャーリング機3基、はく線機を設置し、天井クレーン4基で荷物の上げ下ろしを行う。この日、プレス機にかけられたのは「新切上故銅」という銅品位の高い工場発生の棒材。メーカーの規格ごとに調整するが、1パレット当たり約1トン半の重量がある。2階は選別作業場の機能を兼ねており、廃基板スクラップや銅系品種の在庫が多い。

「温故知新」の精神大切に、本軸守り変化に適応

2階では数名の作業員が、廃基板の表面に接着した部品を金槌で打ち落としている。基板のCPUに含まれる金・銀・パラジウムなどは製錬メーカー向けに供給しているが、アルミのコイルなどを除去しているのだという。選別によって品物の付加価値を高めるのはメーカー直納問屋にとって不可欠な作業だ。

磨かれた上故銅

また、反対側では別の作業員が銅系部品を集め、丁寧に磨いている。「これも工場発生の端材。前日の雨で濡れてしまって。汚れや油分を落としています」。ヤードでの業務を管轄する井戸徹専務は、こうした選別工程を「最も注意すべき点」に挙げる。需要家である伸銅、製錬メーカーなどの原料の品質に対する厳格な基準をクリアするため、異物混入に対しては、細心の注意を払っているのだという。

選別作業に必要な能力は一朝一夕で身に付くものではない。品種によっては一見よく似た原料もあり、すべての品種の名前や成分を覚え、的確に選別するためには7~10年かかるとも言われる。さらに、時代の変化とともに取り扱う品種も移り変わっており、常に知識をアップグレードする必要がある。そのため、現在同社に在籍するのは全員がキャリア10年以上の経験豊富な社員だ。

現場主義が信条

井戸社長のモットーは現場主義。現物を自分の目で見て確認する、顧客とはできる限り直接会って話をすることを信条としている。「取引先や産廃業者、仲間問屋など、週に5社は顧客まわりをする。時には産廃業の会社を訪れ、リサイクルの指導を行うこともある。「万が一、何かのトラブルがあったとしても、それがチャンスにつながることもあるから」。そして、もう一つ大切にしている言葉が「温故知新」だという。創業から100年の歴史を有する老舗が存続してきた秘訣は「本軸を守りながら時代の流れに適応する力だ」と力を込める。

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