【新日鉄住金の業績動向】榮敏治副社長「今下期底に来期回復へ」 日新製鋼子会社化のシナジー期待

新日鉄住金・榮敏治副社長

――通期見通しは連結経常益1300億円。そのうち下期は1020億円ですが、実力経常益は。

「1020億円を起点に、一過性要因である(1)在庫評価益220億円(2)為替評価120億円(3)国内外グループ会社の在庫評価110億円―を差し引いて、大分厚板工場の火災影響100億円を足し戻すと700億円。年率1400億円になる。同様に計算した上期実力益は2200億円なので、下期に落ち込む格好だ」

――下期を発射台に、来期業績はどれほどの回復シナリオを描けますか?

「マージンは下期に悪化したが、これは原料炭価格高騰の販売価格への反映が浸透し切れなかったからだ。足元最大の課題は、値上げによってマージン改善を図ることだ。これに加えて、コスト削減が年間500億円プラスα、さらには日新製鋼を3月に子会社化することで連結への利益取り込みとシナジー効果が見込める」

――日新製鋼子会社化によるシナジー効果は「年間200億円以上」としています。

「公正取引委員会から承認を得て作業をスタートしているが、年200億円というのは新日鉄と住金が経営統合した時の効果から考えて、これぐらいは出るだろうという堅めの数字を示したもの。子会社としての連結利益への寄与は2017年度から始まるが、設備の効率的運用などのシナジー効果発揮には、お客様の理解など、ステップを踏む必要があるのでフル効果発揮には少し時間がかかるだろう」

――今期業績見通しの話に戻ります。単独利益は前回に200億円の経常利益見通しとしていましたが。

「今回も(200億円から)大きく変わっていない」

――グループ会社の収益は前回見通しよりも上振れに?

「国内外のグループ会社トータルで前15年度よりも570億円の収益改善となる見込みだ。その大半が海外事業会社だ。金額の大きさで見ると、改善幅が大きいのは米のAM/NSカルバート社、タイのNS―SUS社、ブラジルのウジミナス、ベトナムのCSVC社。CSVCは初の通期黒字化を果たした」

――ウジミナスは株主間の問題に加えて、赤字が続く厳しい業績です。

「ガバナンスの問題を別にすれば、ブラジル経済は底を打って16年のマイナス成長から今17年はほぼゼロに。18年からはプラス成長に転じる見込みだ。今年いっぱいは厳しいだろうが最悪期は脱しており、鋼材需要増に伴って生産出荷数量が少しずつ増えるとみている」

――東アジアミルの前12月決算を見ると、韓国ポスコや中国大手は業績が回復。日本高炉とベクトルが逆で、比較優位が崩れています。

「ポスコと比較すると、国内の価格回復のスピードの差がマージン改善度合いに現れているのではないか。ポスコは韓国内のマージン改善が早く、国内収益で差がついていると理解している。ただし下期以降は日本国内の価格も回復しており、差は縮まってきている」

「今期は当社のエネルギー分野向けのパイプや厚板がさらに減っており、そうした強みの部分がなくなっている。そうした品種構成の動きも収益差変動の一因だ」

――現行中期計画(15~17年度)は17年度が最終年度。目標数値はROS10%以上、ROE10%以上、DEレシオ0・5倍程度です。

「計画作成時の前提条件と比べ、中国影響で鋼材需給が大きく悪化し、エネルギー価格も大きく下振れした。環境に左右されずに自社でできるコスト削減は目標通り1500億円プラスαのリニア(計画比の平行線)で進んでいるが、ROSやROEは未達だ」

「DEレシオは年度末には日新製鋼の2600億円の有利子負債を取り込むために、0・8倍程度に上昇する。財務体質強化のための資産圧縮は有価証券売却などを前倒しで進めており、2年間で2千億円規模となる見込み。そうして捻出した資金を老朽化設備の更新や修繕費用に充てて、設備の強化を計画通り進めている」

――最後に鉄鋼以外のセグメントの利益動向を。

「新日鉄住金ソリューションズ(通期経常益見通し210億円)は過去最高益。来期も同レベルで推移しそうだ。一段の事業拡大には人員ネックを解決する必要がある」

「その他事業は苦戦している。新日鉄住金エンジニアリング(同50億円)は得意な製鉄プラントや鉄構海洋向けなどがエネルギー価格下落で苦戦。新日鉄住金化学(同40億円)は機能材料事業はまずまずだが、主力の石炭化学分野がニードルコークスの市況低迷等で厳しい。新素材の新日鉄住金マテリアルズ(同15億円)は円高進行や競争激化等の影響を受け減収減益。海外事業推進などで収益力強化を図っていく」(一柳 朋紀)

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